第2話

私、畠中久美は親友の楓が走り出すのを廊下の窓から見ていた。

確かに人はあまり近づかないが校舎から丸見えだった。

まぁ、注目して見ている物好きはあまりいない。

と。

そんなことを言っている場合ではない。

私は急いで校舎裏に向かった。

途中で楓とすれ違ったが私に気づいている様子はない。

ただ、泣いているのだけはわかった。

私の親友を泣かせるなんて許せない。

私は怒りを押さえつつ校舎裏に急ぐ。

よかった。

間に合った。

彼、斎藤はじめは呆然とした感じでその場に立ち尽くしていた。

「ちょっと。どういうつもり?」

「畠中さん?」

私は彼とは何度か話したことがある。

それは楓のために彼の情報を仕入れるためだった。

「はぁ・・・。女の子を泣かせるなんて」

「えっと・・・。泣かせるつもりはなかったんだけど」

「じゃぁ、どういうつもりだったの?」

「というか、畠中さんは彼女のことを知ってるの?」

「彼女は金敷楓。私の親友よ」

「そっか・・・」

「それでなんで断ったの?」

「告白されたことは素直に嬉しいよ。でも、僕は彼女のことを何も知らないんだ。その状態で付き合うなんて無理だよ」

「あっ・・・」

確かに何も知らない人に突然告白されても困るだろう。

盲点だった。

「でも、言い方ってものがあるんじゃない?」

「そうだね。そこは僕もわるかったよ。でも、話を最後まで聞いてくれてもよくない?」

「と、言うと?」

「今すぐ付き合うのは無理でも友達からって言おうと思ったんだけど・・・」

「あっ〜。そこはあの子らしいわ」

楓は少々、せっかちな部分がある。

きっと断られた次の瞬間には走り出したのだろう。

「友達・・・。友達ねぇ・・・。あの子のいる場所はわかるけど今からでも間に合うかしら?」

「弁解のチャンスがもらえるなら是非」

「わかった。ついてきて」

私ははじめ君を連れて楓がいるであろう自分の教室に戻った。




「えっぐ。ひっく・・・」

楓は私達が教室に戻っても泣いていた。

ここまで泣いている楓ははじめてみる。

「楓・・・。大丈夫?」

私は楓に優しく語りかける。

「ぐっす・・・。久美。ダメだったよぉ・・・」

「そうね。でも、そんな楓にお客様よ」

「えっ・・・?」

楓は私の後ろを見る。

そして固まった。

「えっと・・・。楓さん。君を傷つけるつもりはなかったんだ。ごめんね」

「はじめ君・・・?」

楓はなんとかそう言葉を発するが状況についていけていないようだ。

「はじめ君が話があるって」

「付き合うのは難しいけど友達になれないかなって」

「ほ、本当に・・・?」

「うん。ダメかな?」

「ダ。ダメじゃないです」

「そう。よかった」

2人はスマフォを取り出して連絡先を交換している。

どうやら最悪の事態は避けられたようだ。

「ごめんね。もう少し話していたいけどそろそろ行かないと」

どうやら彼は予定があるようだ。

「ううん。時間を取らせてごめんなさい」

「いいよ。気軽に連絡してきてね」

はじめはそれだけ伝えて去っていった。

私は楓の方を見る。

目は赤く晴れているが嬉しさが隠しきれていない。

「よかったね」

「うん・・・。久美。ありがとね」

「いいって。それよりそろそろかえろ?」

「うん・・・」

楓と2人で通いなれた道を歩く。

楓は帰り道ずっと上機嫌だった。




久美には本当に感謝するしかない。

恋人にはなれなかったけどはじめ君と友達になることができた。

私は何度も彼の連絡先を見てはにやにやしている。

レインではじめ君にメッセージを送る。

「こんばんわ」

するとすぐにメッセージが返ってくる。

「こんばんわ」

「今日は色々ごめんなさい」

「いいよ。気にしてないから」

「1つ聞いてもいい?」

「何かな?」

「外部受験を受けるって聞いたけどどうして?」

楓としてはそこが不思議だった。

自分達の通っている学校は偏差値は悪くない。

将来のことを考えればこのまま進学した方が将来有利なはずだ。

「したいことができたんだ。その為には、今の学校に残るよりは外部受験した方がいいと思ってね」

「したいことって・・・?」

「僕、自衛官になろうと思うんだ。その為に、技術を学べる学校にいこうと思ってね」

「自衛官?何でまた・・・」

「父の実家に行ったときにね。災害にあったんだ。混乱する現地で自衛隊の人に助けられた。自分達も大変なのに民間人の僕達を優先する姿がかっこよくてね。僕もあんな人達になりたい。そう思ったんだ」

「そっか・・・。頑張ってね」

「うん・・・」

そっか。

なんで急に外部受験なんて受けるんだろって思ったけどやりたいことができたのならしょうがない。

好きな人が夢を追いかけているのだ。

寂しいけれど応援するしかないだろう。

それに、受験まではまだ少し時間がある。

少しでも仲良くなって距離を縮めないと。

私は気合いを入れ直す。

まだ、私達は中学生で将来のことなんてまだまだ先のことだと思っていた。

私は今のままでいいのだろうか?

目標に向かって頑張っている彼に恥じない人になりたい。

私の中に目的が生まれた瞬間だった。

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