僕は君のことを知らない

髙龍

第1話

私、金敷楓は恋をしている。

一目惚れだった。

入学式で彼を見た時から胸の高鳴りが止まらない。

彼は人気者で彼の近くには常に誰かがいた。

二人きりになるチャンスなんてなかったし彼の近くによっただけで私の胸は高鳴り顔を見ることすらまともにできない。

「楓。聞いた?」

親友の畠嶺久美がそう切り出してくる。

「何かあったの?」

「あなたの愛しの王子さまが外部受験を受けるって」

「えっ・・・」

私はまだ時間があると思っていた。

この学校は中間一貫校だ。

中学を卒業しても高校でまた一緒だと思っていた。

「ほれほれ。覚悟を決めないと離れ離れになっちゃうぞ」

久美は何かある度に楓を焚きつけてきた。

楓も何もしなかったわけではないのだ。

バレンタインには欠かさずチョコレートを贈ったり、少しでも近づこうと色々してきた。

だが、彼に話しかけることはできなかった。

「どうしたらいいんだろう?」

「古典的だけどラブレター出してみたら?」

「ラブレター?」

親友のその発言に私は固まってしまう。

「おぉ〜ぃ」

親友が目の前で何かしているが私には反応する余裕がない。

頭からプスプスと煙が出ているような気がする。

この事態を引き起こした我が親友である久美は体を強く揺すってくる。

「現実に戻ってきなって」

「はっ・・・?私は今何を・・・?」

「これは重症だねぇ。知ってたけど」

そう言って久美は苦笑いしている。

「ラブレターって何を書けばいいの?」

「そんなの私が知るわけないじゃん」

「だよねぇ・・・」

私が知るかぎり久美は何度か告られていたはずだ。

だが、それを一度も受けたことはなかった。

「ねぇ。何で告白されても受けなかったの?」

「ん〜。男なんてめんどくさい。楓と居る方が楽しいしね」

「そんな理由?」

正直、久美は私にはもったいない親友だ。

幼稚園からの付き合いであるがその存在にずっと助けられてきた。

「私としては楓に幸せになってほしいわけ。だから頑張ってよ」

「うん・・・」




家にもどってきてからスマフォでggってみた。

いやぁ。

色々でてくるもんだね。

「何々?相手を呼び出して気持ちを伝えましょう。呼び出す場所も大切です。簡単にいける場所で誰にも邪魔されないような場所を選びましょう。っか」

中には気持ちを手紙に記す人もいるようだが、自分の気持ちを文字にするのはかなり勇気がいる。

今回は場所と時間を書いたラブレターを下駄箱に入れる作戦でいこう。

ラブレターをなんとか書き上げて久美にレインで連絡する。

誰にも見られないように明日は早めに学校に行くと伝えるとありがたいことに久美は付き合ってくれるようだ。

お礼を伝えてから今日は寝ることにする。

私の我が儘で付き合ってもらうのだ寝坊するわけにはいかない。




翌日、朝早くに久美と駅で待ち合わせをして学校に向かう。

この時間に登校するのははじめてだ。

グラウンドでは運動部の朝練だろうか元気に走り回っている人達がいる。

下駄箱にたどり着きラブレターを入れる。

間違っていないか何度も確認してしまう。

そんな様子を久美が呆れたように見ていた。

「長いは無用だよ。ここで誰かに見られたらこの時間に来た意味がないでしょ」

「そうだけど・・・」

「ほら。行くよ」

そう言って久美は私の手をつかんで引っ張っていく。

無人の廊下を二人であるく。

いつもは生徒達の話し声がする空間を静寂が包んでいる。

知っている場所なのに知らない場所のようだった。




今日は授業に集中できなかった。

理由はこの後に控えている一大イベントのせいだ。

失敗しないかな?

来てもらえなかったらどうしよう?

そんなことばかり考えてしまう。

「ほら。しっかりしなさいよね」

久美がそんなことを言いつつ頬に何かを当ててくる。

「暖かい。って。コーヒー?」

「今日は冷えるからね。カイロ代わり。私は一緒に位ってあげられないから私だと思って頑張ってきて」

「うん。ありがとう」

貰ったコーヒーをポケットに入れて指定した場所に向かう。

私が選んだ場所は校舎裏だった。

スマフォでちらりと時間を確認する。

そろそろ約束の時間だ。

狙いどおり周囲には誰もいない。

コツコツと靴音がする。

靴音の主を探せば愛しの彼だった。

「こんにちわ。これをくれたのは君かな?」

そう優しく語りかけてくれる。

「はい。そうです」

「大事な話があるってことだけど・・・」

私は深呼吸してから勇気を振り絞って声に出す。

「一目見た時から好きでした。私と付き合ってください」

「ありがとう。でも、断るよ」

「えっ・・・?なんで・・・」

私の一世一代の告白は失敗してしまった。

「だって、僕は君のことを知らないから」

私は気がつけば走り出していた。

目にはいっぱいの涙が溢れている。

頭の中には彼の「君のことを知らない」という言葉が何度も繰り返されていた。


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