第38話 雨女、問い詰める
「どういうことなのか説明なさい」
場所はレインハート王国、王宮内の円卓の間。
かつて冷酷非道と呼ばれたドラウト・レインハートが乗り移ったのではないかと思うほど冷徹な表情で、凍てつく声色のティアナの命令によって室内は静まり返った。
「あ、あの、ティアナ妃殿下。ですから、ドラウト様のお身体についてお聞きでは……いらっしゃらない?」
「先ほどからそう言っています」
初めて見る不機嫌な相貌。
いつも穏やかで陽だまりのような微笑みを
誰が言うんだ、と円卓に座った国の重鎮たちが顔を合わせては視線を逸らした。
「やっぱり、知らなかったんだな〜」
「……リーヴィラ様?」
机の上に鎮座する龍神にレインハート王国の有力者たちが平伏する。
レインハート王国民の信仰心が高まったことで、ある一定数の魔力を持つ者であれば、選択的にリーヴィラを認識することができるようになっていた。
「あの坊ちゃんは……というか、レインハート王族の直系男子は短命の運命を背負っているんだ。聞かされてないだろ?」
「はい。初耳です」
「命の泉が枯渇してるんだよ。その代わりに特別仕様なんだ」
「……転移魔法と回復魔法ですか?」
「その通り。さすが両方の血統魔法を間近で見てる嬢ちゃんだぜ」
集められた有力者たちはリーヴィラに心から感謝した。
その気持ちは口にしなくてもリーヴィラに伝わってくる。
竜神は彼らを情けない連中とは思わない。
王妃といってもまだ16歳の少女だ。愛する人が長くは生きられないなんて残酷なことを誰が伝えられるというのか。
本来はドラウトが直接伝えるのが一番良い。
しかし、本人が黙っているならば、ティアナの相棒である自分が適任だと判断した上でのリーヴィラの行動だった。
「ただ、いつ泉が枯れるかは誰にも分からねぇ。坊ちゃんの爺さんは長生きだったらしい。でも、父ちゃんは若くして逝ってるな」
「ドラウト様にご兄弟がいらっしゃらないのは、そういうことですか?」
ティアナの問いかけに答えたのはレインハート王国の宰相だった。
「ドラウト様以外の世継ぎは最初から居ないのです。先代はあまりにもお体が弱く……。むしろ、ドラウト様が無事にお生まれになり、成長なさったことが奇跡なのです」
「どうすればドラウト様を救えるのですか⁉︎ わたしにできることは⁉︎」
鬼気迫る問いかけには誰も答えられなかった。本当に方法を知らないのだ。
それはリーヴィラも同じで真っ赤な目をゆっくりと閉じた。
「リーヴィラ様、歴代の聖女たちはどうしていたのですか⁉︎」
「……分からない。聖女にそんな役目は課せられてないんだよ。あくまでも各国のバランスを保つのが彼女たちの役割だ」
いつになく、しょんぼりする守神の姿を見れば、本当に手がないのだと悟るしかなかった。
「ドラウト様はその運命を受け入れられているのですね?」
長い沈黙が続き、痺れを切らしたティアナがもう一度問う。
すると、円卓の反対側から返答があった。
「えぇ。だからこそ、ティアナ様との結婚式はかつてない程の規模で執り行われたのです。ご自身が後悔しないように、あなた様の記憶に残るように、と」
答えたのはドラウトの側近であるリラーゾだ。
ドラウトの胸中は伝えないと心に決めていたが、泣き出しそうなティアナを見ては黙っていられなかった。
何より、乳母兄弟を心から想ってくれている
「……わかりました」
重々しく呟き、立ち上がる。
「直接、ドラウト様と話します」
「お、お待ちください!」
「待ちません。こんなことに時間を費やすべきではありませんでした。わたしは一秒でも長くドラウト様の側にいるべきだったわ」
円卓の間を出るティアナに付き従うミラジーンはやりきれない気持ちを押し殺して、静かに拳を握った。
「夜、ドラウト様の部屋に行くわ。人払いをお願い」
「承知しました」
決意に満ちたティアナは夜が来るまで自室から出てこなかった。
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