第23話
「あ〜笑った笑った」
腹を押さえながら、カーヴェラは満足そうに涙をこぼす。
「しかし、華麗はグレイスの事も知っているのね……恩師と一体どう言う間柄なのか気になるわ」
グレイスとヒュイを加え、六人で趙龍が作った牛のロースステーキと、グレイスの用意した食後のフルーツを各々自由に食べていた。
「確かに……御前様から華麗様とは古い付き合いだとは聞いておりましたが……一体どういうご関係で?」
華麗はまたもニヤニヤしながら、質問に答える。
「まさか〝旧友〟とはな〜、我とカーヴェラーー、あれだけ〝殺し合った〟間柄だと言うのに……全くお主も相も変わらず面白き奴よのぉ〜」
「「殺し合った!?」」
グレイスとドロシーは声を荒げてハモり合う。
しかし無理も無いだろうーー、〝世界最強〟と呼ばれた《伝説の魔法使い》カーヴェラと〝殺し合う〟などと、理解ある人間ならばそれがどれだけ命知らずで恐ろしい事か?
「ああ、もうあれは600年くらい前の事になるなーー、私は《聖国》側として、華麗は《魔族》側として、互いに国一つが消し炭になる寸前までやり合ったものだ……」
耳を疑うほどのゾッとする話を、昨日の晩餐会のように微笑みながら語るカーヴェラ。
「あの〝快感〟は他の事に代替できぬ程……甘美なひと時であったーー。〝吸血鬼〟である我がまさか〝人間〟にあそこまでやられるとはな……まあ、それ以来互いが落ち着いてからはこうしてちょくちょく遊びに来ておるわけだ……確かに言い得て妙じゃが〜…………こうしてみると〝旧友〟というのもあながち間違いではないの?ははっ♪」
満面の笑みでワイン片手に語る華麗。
華麗は趙龍に多めにロースを作ってもらったのか、吸血鬼である故に食欲旺盛な彼女は、他の皆と比べて五人前はあるであろう食事をペロッとたいらげながら会話を楽しむ。
「吸血鬼ーー確かに〝魔気〟が普通じゃ無いと思ったけど、こうしてみるとあまり違いが無いのね……?」
人間と寸分変わらない華麗の姿に、どこか違和感を覚えるドロシー。
「お嬢様は〝擬態〟が得意ですからね……耳や翼など、魔族の特徴たり得る部分は変化させているのですよーー」
ドロシーの違和感に応える趙龍だが、確かに華麗の姿そのものは普通の人間と何も変わらなかったーー。
「我こそ驚いたぞ……〝混沌の魔術〟という〝禁忌〟に触れて生き延びておる人間なぞ普通ではないーーいや、そもそも〝混沌の魔術〟に触れようとする意思そのものが普通ではないな……その包帯や眼帯も、〝その代償〟なのだろう?」
ドロシーを指差し、核心を突く。
降参したように、ドロシーは肩をすくめた。
「ええ、あなたの言う通りよ……。こうして生き延びただけでも、〝運が良かった〟だけに過ぎないわ……」
「ふ〜ん……〝運が良かった〟……ねぇ……」
食後のフルーツのリンゴをかじりながら、ドロシーをどこか訝しむ華麗。
久々の食事会も程々に、やがて〝ビジネス〟とやらについての議題に話が変わるのであったーー。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「降参です」
「ふふ〜ん♪私も意外とやるでしょう〜ユウキさん?」
ドヤ顔のポピィの前には、両の手を他につけて降伏するユウキの姿があったーー。
なぜ戦闘に関しては全く無知ともいえるポピィがユウキに勝てたのかーーそれは、ほんの1分ほど前の事ーー。
……………………。
1分前ーー。
「どうしたーー?オレは動きもしねえし、お前に手を出さねえんだから思いっきりかかってこいよ?」
「ずるいです!ずるいです!ずるいです〜!なんで〝幽霊化〟を使うんですか!?触れられないじゃないですか!インチキです!こんなの絶対に認めません!!」
「にょにょ〜(いじわる〜)」
ポピィはユウキに突っかかって行くが、〝幽霊化〟スキルを使用している為に触れられないポピィーー。
ちなみに〝スキル〟とは自身に備わる特殊能力のようなもので魔術や魔法のように詠唱等の特殊な条件を満たす事なくいつでも使える能力の事である。
まあ、生まれ持った〝体質〟のようなものでもあるわけなのだがーー。
「こんなの卑怯です!正々堂々勝負しましょうーー!」
懇願するポピィを前に、鼻をほじくりながら完全にナメてかかるユウキーー。
しかし卑怯と言う事なかれーー、〝その場から動く事〟と〝ポピィを攻撃する事〟の二つの約束を破ったなどいないのだ……。
まあ、ぶっちゃけズルではあるが……
「仕方ないだろ〜?これは決闘なんだーー!男には〝負けられない時〟というものがある……それが決闘だ!」
「ず……ズルな事を……!」
しかし次の瞬間ーー、
「っーー!?ユウキさん……確かあなた、今日の探索の途中で食べようとしてた〝お弁当〟がカバンの中にありましたよねーー?」
「へっーー、お前何を言って……っーー!!」
刹那、ユウキに雷が降り落ちる。
「お前……何を考えている……?」
ポピィは無言でユウキの投げたカバンの元へ歩み寄ると。
「ふっふっふ〜♪ざ〜んねん……でっしたー!も〜らい♪」
雑に投げ捨てられた鞄の中から、〝お弁当〟を取り出すポピィ。ユウキが持ってきた分の食料は全て回収した。
「ユウキさんはその場から動けないんですよね〜そうですよね〜ーーそれじゃあ私が今から何をしても邪魔をする事ができないんですよね〜……それはとても残念ーー」
完全にマウントを取ったポピィはユウキを嘲笑いながら、パカッと弁当箱の蓋をとるーー。
そしてーー、
「わあ〜!からあげだぁ〜!わたし大好物なんですよ〜……か・ら・あ・げ!」
「やめろ……お前、それはオレの大事な〝お弁当〟だーー!そのからあげに手を出すんじゃないっーー!わかった!オレの降参でいい……その〝お弁当〟を渡すんだーーポピィ!」
真っ青な顔で〝お弁当〟を見つめながら懇願するユウキーー。
しかしーー
「あ〜!さっすがユウキさん……わたし、とても強くて全くユウキさんに触れる事すらできなかったわ〜!でも〜……ユウキさんの〝お弁当〟もらっちゃいました!」
あ〜、と〝お弁当〟の中に入っているからあげを食べようとするポピィのそぶりを見て、ついに我慢できなくなったのかユウキはーー。
「俺が悪かった!降参だ!降参するから……その〝お弁当〟を返してくれ〜!」
土下座で懇願するユウキを前に、ポピィはVの字で指をピースした……。
……………………。
「お前ひどいやつだな」
昼食を摂りながら、念願の〝お弁当〟の中に入っているからあげを頬張りながらぶつくさと文句を言うユウキーー。
「失礼なーー!目には目を……歯には歯を……ですよ〜♪」
ポピィもまた、自分のお弁当を食べながら、時折りスライムに弁当の中身を分けていた。
「にゅにゅい(おいしい〜)」
「…………コイツ、スライムのくせに贅沢なモン買うんだな……」
ポピィのお弁当に入っているたこさんウインナーを頬張るスライムの姿を見ながら、まだ文句を言っていた。
「仕方ないじゃないですか〜!スライムだって生・き・物・なんですから!」
「…………はぁ、そういえば俺ら、ここに何しに来たんだ?ピクニックかぁ〜?」
大した修行もまだ始めておらず、モンスターもいないままに到達したB5階層ーー。
文句を言いたくなるのも致し方なかったーー。
「それじゃあ〝幽霊化〟とか変なスキル使わないで正々堂々勝負しましょうよ?」
「…………俺が正々堂々やったらお前死ぬけどな」
「うっ…………」
半分冗談だが、仮にユウキが〝正々堂々〟勝負をしたらポピィに万が一の勝ち目すら無いだろう……。
そう言う意味では〝お弁当作戦〟は大いに効果的めんだったーー。
「んじゃ、弁当食い終わったら修行再開するぞー!今回は真面目なーー」
と、そこまで言いかけて妙な違和感を覚えるユウキ。
「……………………あの〜……考えたんですけど命にかかわる正々堂々の勝負は一旦無かった事に〜……」
「しっーー!」
「っーー!?」
気配を感じ取れないポピィには何が何だか。しかしユウキは先程まで見せたふざけた顔からは想像もできないほど真剣に、気配の正体を探っていたーー。
「あの〜……ユウキさん?」
「誰かいる」
「っー!?誰かって……」
当たりを探るユウキだが、それらしい気配に繋がる〝入り口〟が無いーー。
「まさか先客かーー?にしては何で今ーーいや、そもそも上から来た時ずっと気配は無かった……これはどこから来てやがる……?」
しかしふっーと、確かに一瞬、その気配の位置を察知するーー。
「お……い、嘘だろ……いや、そんな事……ありえんのか?だってここB5は〝最下層〟のはずーー」
ユウキは顔を真っ青にしながら手元に口を当てる。
「どうかしたんですか?ユウキさんーー」
「ポピィーー、お前、今すぐお師匠の屋敷に戻れーー!」
「えっーー?それってどういう……」
ユウキが何を言っているのか、訳もわからないまま問い返すポピィ。
「っーー!?」
ユウキが急に視線を逸らす為、釣られてポピィもそこに目を見張る。
「っーー!あれっ……て……」
そしてふと気がつくと、今まで無かったはずの〝そこ〟には、地下へと続く階段があったーー。
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