第22話
「ねえ、ユウキさん……。どうして私の特訓なのに付き合ってくれたんですか?」
暗闇の階段の中、ポピィがおずおずと問いかける。
ポピィの手にはこのダンジョンで仲間になったスライムが抱き抱えられていた。
「ああ?別にいいだろそんなこと……」
ぷいっと、そっぽを向くがポピィの真っ直ぐな視線に耐えかねて口を開く。
「はあ〜……気まぐれ……じゃあねえな。何だろうな〜……おめえが〝アイツ〟に似てるからかな……?」
「あいつ……ですか?誰なんですか?それってーー」
ふと、ユウキは思い出す。
一年前までいたパーティー《天賦の隊》に在籍した幼馴染ーーエリの事を。
性格、容姿、声、役職、どれをとってもポピィとエリは丸で似ていないーー。しかし、一つだけこれでもかというそっくりな所があったのだーー。
「無意識のうちに放っておけなくなるんだよ……よくわかんねーけど、お・前・ら・みたいな奴はよぉ」
「お前ら……?」
「人の事に平気で首を突っ込んだり、弱いクセして粋がったり、愛玩動物大好き主義なところとかよ……」
「なっーー」
ぷ〜〜、とほっぺを膨らませて顔を赤らめるポピィ。
対してユウキは口をへの字にして笑っていた。
「全くもう……」
そうこうしているうちに、とうとう最下層であるB5階層に着くーー。
しかしやはりここでも…………
「モンスターの気配は無しーーか、」
想定通り、モンスターの姿はそこには無かった。
「先に冒険者の人がいた……という事なのでしょうか?」
「まあ、もう帰ったんだろうなーー」
探索など無意味とでも言わんばかりにそう言って、階段を降りる際に必要だったランタンの明かりを消して適当な場所に置くユウキ。
「よしーーじゃあ、やるか」
荷物を放り投げ、ビシッーーと拳を構える。
「一分間だーー」
「一分?」
「ああ、一分間好きにオレに攻撃していいぞ。オレはお前を一切攻撃しないし、お前はいくらでも攻撃できる……楽ゲーだろ?」
クイックイッと、先程のように挑発するユウキ。
経験差があるとはいえ、もしもポピィの先程のような〝覚醒〟にも似たようなものがあれば劣勢に陥るはずなのだが、ユウキには余裕の笑みがあったーー。
「…………わかりましたーー。本気で行きますから、後悔しないでくださいね?」
ニィ、と笑みを浮かべながらポピィは右・手・で・短剣を取り出す。
ユウキによるポピィへの手ほどきが始まったーー。
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「〝ビジネス〟?」
「ああ、結構儲かるぞ?〝我とお前〟で組むことになるがなーー」
昼下がりの食事の最中ーー、華麗とカーヴェラによる会談が始まった。
執事の趙龍は華麗の左隣に、ドロシーはカーヴェラの右隣に、円卓を囲むようにして食事を摂る。
「それにしても良い腕をしているなーー、口の中で牛のロースがホロホロと溶けるこの食感。以前合った時より料理の腕を磨いたじゃないか、趙龍ーー?」
「カーヴェラ様にお褒め頂き光栄の極みにございます。グレイス様の腕には到底敵いませんが、お口にあったようで何よりです。」
「確かに…………肥えた我が食欲も満たされていくーー、そちらの執事…………なかなかやるではないか?」
「お褒めに頂きありがとうございます。ドロシー様」
相変わらず一部の者を除いた相手には〝ふざけた態度〟で挑むドロシー。
しかし、その姿を見たカーヴェラはどこかおかしそうにーー、
「ふっーーククク、ドロシーよ。こやつらはワタシの〝旧友〟だーー。別に隠さなくても良いのだぞ?」
「なっーー!」
赤面したドロシーはコホンッと咳払いをし、先程までの口調に戻る。
「それはそれはご無礼いたしましたーー。しかし、恩師の旧友とは、一体どのような間柄のご関係なのですか?」
あまりの豹変ぶりに、加えて先ほどの〝旧友〟という呼び方をしたことに、目を丸くする華麗。
やがてーー
「っーーあっはははははははは!いや〜、我もなかなか騙されだぞ〜?そうか……《聖国》での〝あの噂〟は君の提案だったのかカーヴェラ?僅か六歳にして〝大魔女〟の称号を得た〝ドロシー・R・フェイト〟ーー〝混沌魔法〟によって気が触れたとは聞いていたが……あっははははは」
「お嬢様ーー、笑いすぎです」
机をバンバンーーと叩きながら、爆笑する華麗。
「あ〜、腑はらわたが痛い痛い……い〜ひひひ、……それに、我を〝旧友〟と呼ぶとはな・か・な・か・に・面・白・い・事を言うーー」
目元に涙を浮かべながら、華麗は笑う。
「ん?それってどういう……」
と、ドロシーが不思議そうな顔をしたタイミングでガチャリッーーと扉を開く音が。
「おっ?帰ってきたみたいだね……グレイス君?」
「やあやあ〜、グレイス君!おっ久しぶり〜!」
「ご、御前様ーーこれは……」
と、ヒュイを肩車するグレイスの目の前では賑やかな食事会が開かれていたーー。
……………………。
「そうですかーー華麗様、お久しぶりです。趙龍様も。お二人ともお元気そうで」
「わたくしこそ、こうしてグレイス様にまたお会いできる事ーー、心より嬉しく思います。」
「まあ〜まあ〜、堅い挨拶は抜きにして君も食べなよ〜……それにしても」
華麗はヒュイをじっと見つめながら。
「グレイス君にこんな幼い子供がいたなんてな〜!ずいぶんと懐かれているじゃないか〜?あっははは!母親は誰なんだい!?我が知っている人かな〜?」
「ぶっーー!?」
「あっははははははは!グレイスの娘か!確かにこれは傑作だ!」
「ご……御前様までややこしくなるような事を言わないでください!」
華麗の発言に、しどろもどろするグレイス。
「かつて〝聖国最強の騎士〟とまで言われたグレイスが……ぷぷっーー!」
「ド……ドロシー殿!?」
「……………………やれやれ、グレイス様も大変ですね」
「グレイスがパパなの〜?」
昼下がりの賑やかな食事会の中、カーヴェラ達にさんざん弄り回されるグレイスなのであったーー。
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