第21話
自然あふれる山々が連なる山脈の一角で、その二人は遠巻きに見るーー。
「趙龍ーー、見えるかい。あの〝茶のダンジョン〟……どうやら普通じゃない状態になってるみたいだねぇ〜……近くまで行って見てみるかい?」
オレンジ色のーー腰まで伸びた三つ編みに、赤いチャイナドレスの少女が、黒髪長髪ーースーツ姿の男に問いかける。
「お嬢様ーー、我々が近づくのはこの辺にしておいた方がよろしいかと……」
淡々とした口調で、〝趙龍ちょうりゅう〟と呼ばれた男が静止する。
「ちぇ〜、何だよつれないなぁ〜……まあいいや。寄り道しただけだし〜」
チャイナドレスの少女は、少し残念そうにため息を吐いて踵を返す。
「しかし趙龍〜、そんなお・堅・い・思考をしてちゃあ〜〝ビジネス〟なんてできないよ〜?」
手を挙げやれやれと呆れる少女。
「……申し訳ありません、お嬢様ーー。この趙龍、お嬢様に仕える以外の〝ビジネス〟とやらはお受け致しておりませんので……」
やれやれ、とさらに呆れを増す少女ーー。
「じゃあ傍・観・もさておき、そろそろ行こうとしますかねーー」
少女がくるっと引き返し、趙龍と呼ばれた男が少女を日差しから守るように日傘を差すーー。
「それじゃあ行こうかーー、〝カーヴェラの屋敷〟へーー。」
オレンジ色の、燃えるような瞳で〝茶のダンジョン〟を一瞥いちべつして去っていったーー。
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B4階層ーー。
「やっぱここにも何もねぇか……?他に誰か冒険者が通ってったのか?」
ユウキの目論みは外れ、あの後特にモンスターと遭遇する事は無かったーー。
「でも〜、B2階層にはゴブリンがいたんですもんね?だったらどうしてなんでしょうか?」
ユウキと少し離れたところでポピィが、退屈そうに石ころを蹴る。
「モンスターってのはダンジョンに、下から順に強い序列で巣を作る習性があるからなーー。誰かが下の層のモンスターを倒した後で、ゴブリンやスライムが巣を作ったのか?あえて〝弱い〟から素通りしたのかーー」
と、ポピィの近くにいるスライムをジト目で見るユウキ。
「にゅんにゅん(なんだい?)」
スライムも少々不機嫌そうに、ユウキを見返す。
「ねぇ、あなたはこのダンジョンにいた時他の冒険者は見なかったの?」
ポピィがスライムに問いかけるがーー、スライムは。
「にゅいにゅい(見てないよ)」
ぷいっぷいっ、と体を揺らして否定をアピールする。
「まあモンスターだって睡眠も取るし、偶然会ってない可能性だってあるわけだしな……」
そう言って、やれやれと肩をすくめるユウキーー。
「まあいいや、B5階層まで降りて何もなけりゃあ、そのまま〝稽古〟つけてやるよ」
指をくいっくいっ、と動かして挑発するユウキ。
挑発された側のポピィも、目尻を吊り上げる。
「はっ!鍛冶師の娘なめてもらっちゃあ困りますよ?」
ドヤ顔で歩み寄るポピィとユウキはバチバチと互いを目線で牽制し合っていたーー。
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「それにしても……〝あのユウキ〟が面倒事を引き受けるなんてね〜」
午後の日差しの中、紅茶片手にドロシーが問いかける。
「〝アイツ〟は面倒くさがりだからな……この一年あれこれと試したが、やはり〝元のパーティー〟によほど思い入れがあったのだろう……無理もないさーー」
カーヴェラはペラペラと書籍をめくりながら、答える。
「しかしまあ……ポピィが来てくれてよかったよ。アイツが〝以前のように〟周囲に心を開き始めているーー。これは大きな進展だーー。」
コトッ、とコーヒーをすすりながら、カーヴェラは微笑ましい笑みをこぼす。
「そういえばグレイスの姿が見えないが……どこに行ったのだ?」
ドロシーがキョロキョロと当たりを見渡す。
「ああ、買い出しに行ったよ……。ずいぶんと懐かれたのか、ヒュイも一緒について行ったねぇ〜。〝あの子〟は元々ポピィ達の作った武器の卸売りとかもしてたって話だし、この辺の街にも興味を持ったのかもしれないね」
クックッと笑うカーヴェラに、ドロシーが口をへの字する。
「街で見かけたら子連れの父親かと思われるだろうなーー」
「確かにーーな……ククク」
……………………。
「へっくしっーー!」
「グレイス〜、大丈夫ー?」
街の一角にあるパン屋で、グレイスは盛大なくしゃみをする。
「何だろう……?また御前様が私の悪口を言っているような……」
悪寒にみぶるいしながら、いくつか今晩食べる分のパンを手に取るグレイス。
「?」
キョトン、としながら、次の瞬間には自分が食べたいパンを探すヒュイ。
常連という事もあり、そこそこ良い顔をしていることも奏してか、パンを買いに来たマダム達がグレイスの姿にうっとりしていた。
……………………。
「それにしても、ユウキは大丈夫なのか?あいつーー、ずいぶんと〝上限色覚〟を使う事を嫌っているようにもみえるがの?」
少し真面目そうな顔をしながら、ドロシーは紅茶にミルクを入れて混ぜる。
「まあーーな。確かにアイツは〝上限色覚〟を使う事を躊躇っている節がある……。」
何か思い当たる節があるのか、俯きながらコーヒーをすするカーヴェラ。
「でも大丈夫だろう。仮に〝イレギュラー〟が起きたとしても、必要ともなれば躊躇わずアイツは使うはずーー」
…………と、そこまで言って二人の目が険しくなる。
「…………感じたか?」
「ああ、どうやら〝来客〟みたいだな…………」
コツッコツッコツッコツッ
〝何か〟の気配が、二つ近づいてくる。
コツッコツッコツッコツッ
少しーー、また少しと、カーヴェラの屋敷に近づき、やがてーー。
コンコンッーー
玄関のドアがノックされる。
「はぁ〜やれやれ……〝厄介な来客〟が来たもんだーー」
気配の正体に気づいてか、ため息をつく。
「恩師の知り合いか……?」
額に手を当てながら、やれやれと面倒くさそうに玄関へおもむくカーヴェラ。
ガチャリッーーと、扉が開かれる。
「ずいぶんと久しぶりに来たもんだねぇ〜……にしても、〝日が出ている時間〟なのに外に出歩いて大丈夫なのかい?〝華麗かれい〟?」
そこにいたオレンジ色の三つ編みの髪に、髪と同色オレンジ色の瞳。赤いチャイナドレスを見に纏った、執事付きの少女ーー華麗がそこにはいた。
「元気そうで何よりだよ〜カーヴェラ。今回は少々〝儲け話〟を持って来てきたんだが…………。どうだ、久々に〝我〟とビジネスをするつもりはないかい?」
カーヴェラに手を振り、ニコッと微笑みながらその〝吸血鬼〟は笑ったーー。
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