第20話


「「ポピィ(にゅい)ーー!!」」


ケンカの手を止め、起き上がってポピィに視線を向ける二人。


何故二人してボロボロなのかーー状況の処理に頭の追いつかないポピィは、首を傾げながら思考を整理する。



……………………。



「ーーで、それでケンカしてたの?全くユウキさんったら…………」


一通りの説明を聞き、再び頭を悩ませるポピィ。


しかし、どこか安堵したような顔をして、


「まあ…………二人とも仲良くなってたみたいでよかったけど」


「「どこが(にゅにゅい)ーー!?」」


「息ピッタリじゃん…………」


ハモり合う二人を見て、クスクスと笑うポピィ。対する二人は、睨み合いながらもケンカをするそぶりは無かった。


「でーー、本題に戻るけど……一体何があったんだよ?急に短剣使い出したけど……?さっきの〝あれ〟は間違いなく素・人・の・動・き・じ・ゃ・無・か・っ・た・ぞ……」


「…………正直、私も何があったかハッキリ覚えてないのーー。」


ふとーー、朧げながらの記憶を探りながら呟くポピィ。


「ゴブリンに囲まれて……〝やばい……!わたし、死んじゃう……!〟って思ったら急に頭が真っ白になって……気づいたら体が勝手に動いてた……っーーそういえば!」


「っ!何か思い出したのか!?」


「何だろう……どこかで同じような感覚があった気が……そうだーー!あの日、あの時、家が燃やされて、みんなが殺されたあの日ーー確かに体が勝手に動く〝あの感じ〟だーー!間違いない!!」


ふと、脳裏にあの日の光景が思い浮かぶーーが、


「でもやっぱりそれ以上は思い出せない……かな」


あはは、と苦笑いしながら頬を掻くポピィ。


ユウキも腕を組みながら、思考を巡らせていた。


「頭が真っ白になって……ねぇ〜……なぁ、それと一つ気になったんだけどよ〜。お前って右・利・き・だよな?お師匠の屋敷でメシ食ってた時もナイフ右手で使ってたし、短剣も右手で取りやすいようにセットしてあるしーー」


ポピィの腰を指差しながら問いかける。


「うん…………右利きだけど……それがどうかしたの?」


何かを訝しむように考えるユウキ。やがてーー、


「やっぱりおかしいよな……だってあの時、咄嗟の出来事にも関わらずお前、わ・ざ・わ・ざ・左・手・で短剣を取って戦ってたじゃねえか?」


「ーー!!」


その言葉に、何かを思い出したようにポピィは口に手を当てる。


「確かに……まるで自・分・じ・ゃ・な・か・っ・た・みたいな感じがした……でも、一体どうして?」


未だにゴブリンを切り裂いた感覚が微かに残る左手をじっと見つめる。


確かにあの時の自分は、ま・る・で・自・分・が・自・分・じ・ゃ・無・い・ような感覚があったーー。


しかしそんな気がしたポピィは、余計な心配をさせたく無いと密かに秘密にするのであったーー。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




数時間後ーー。


「本当に大丈夫か?」


茶のダンジョンーーB3階層へと下る階段を降りる中、ユウキがポピィに問いかける。


「大丈夫ーー!いっぱい休ませてもらったし、少し気分も落ち着いて来たから!」


ぐっと両手を握りしめて元気アピールをするポピィ。


無理をしているようでは無いと判断したため、ユウキはそのまま先頭を下って行く。


「そっか……気分が悪くなったら言えよ。」


(って…………これじゃホントに兄妹みてぇじゃねえか?全く…………)


妹・弟・子・であって妹・ではないーー。そう一線を引く事で、どう言うわけかユウキはポピィと一定の距離を置こうとしていた。


「ありがとうございます!やっぱりユウキさんは何だかんだで優しいんですね!」


「…………何だかんだは余計だけどな」


と、そこまで言ってようやくB3階層に降り立つ一向。


しかし少し様子が変なのだと、ユウキが一瞬遅れて気づく。


「おかしいな……B3階層ならコボルトがいるはずなんだが……」


「コボルトって、黄色い獣さんですか?」


「にゅいい〜(暴れん坊のね)」


様子がおかしいのだ。B3階層にはコボルトどころか、モンスターが一匹も存在しなかった。


しかし、考えたところで原因に心当たりは無い。


「まあいっか……!いねえもんはしゃあねえ。このままB4階層まで降りるぞ」


「わかった……(にゅい〜……)」


(まあ、茶のダンジョンはB5階層まであるし……何も無かったらなかったで周りに気遣う事なくコイツに修行させてやれるか…………)


この時、一向は気づいていなかった…………この茶のダンジョンが普通ではないーー〝何か〟がいるダンジョンだと言う事にーー。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




B・6・階・層・ーー。


当たりは瘴気に満ちており、まるで〝奈落の底〟にいるかのような、吐き気のする地獄のような場所。


そこには今にも吐きそうな程、顔色の悪くなった一般の冒険者一向があった……。


「お……おい、おかしいだろ?茶のダンジョンはB・5・階・層・までだろーー?何でB・6・階・層・があるんだよ?」


「ね、ねぇ……早く戻ろうよ……?そもそも何で一階層変わるだけでこんなに内装が違うのよ?絶対おかしいわよこのダンジョン!!」


軽くパーティー調整でもするつもりだったのか……赤黒い内装のダンジョンに迷い込んだーーリーダーと思しき金髪の少年と、紫色の髪とローブの女の冒険者が泣き叫ぶ。


「でも……階段から降りて行き止まりだと思ったら急に落ちたんだぞ!?しかもこの深さ……とても自力じゃのぼれねぇよ!」


不安になっている《防御職》思しき人物は、声を荒げながらおそるおそる歩みを進めて行く。


そして、ーー


「いいかセシリア、俺たちが三人で行くからお前は戻って助けてを呼んで来い!……こんな状況下で助かる可能性は絶望的だが、もし仮に他の冒険者がB5階層にいたらほんの僅かだが、助かるかもしれない……俺たちは進む、もし何も問題が無かったら必ず迎えに行くから…………頼む」


決死の覚悟を決めた、冒険者のパーティーリーダーと思しき男ーーレックスが女の《魔法使い》セシリアに問いかける。


「嫌……嫌だよ!怖いよ!みんなで戻った方が絶対いいよ!だって…………」


「セシリア……君は《魔法使い》だ。《魔術師》よりも上の存在だ。そんな貴重な、これからを担う卵である君が死んではいけない……少なくともここに来るまでモンスターは出てこなかった……間違いなく戻るルートの方が安全なはずだ」


「だったらーー」


レックスは手を差し出して、セシリアの発言を静止する。


「もし君の声に反応してモンスターが近づいてくるなら、僕らはそれを止めないといけない。必ず君だけは地上に戻して見せるーーだよね、二人とも?」


その言葉を聞いて、《防御職》ゼルと《槍使い》アレンが頷く。


「心配すんなよーー。お前はまだCランク、対して俺たちは修羅場を潜り抜けたBランクだ。このくらいの危機なんて、いくらでも潜り抜けてきたーー」


「いっても一つしかランクは変わらないがな……まあ、どちらかと言うと経験の差が大きいか……。Cランクになって浅いお前と、既にAランクのレックスやもうすぐAランクの俺たちとでは、確かに恐怖に対する危機意識は違う。心配は無い、必ず生きて帰るさーー」


そう言って余裕のそぶりを見せるゼルとアレン。


嘘だ。二人共見れば微弱だが震えている。


しかしそこまで言う三人を、セシリアに止める事はできなかったーー。


「わかったわ……必ず助けを呼んでくるから!だからそれまで絶対に死なないでねーー!」


ダッーーと踵を返して走るセシリア。


そんな姿を見守りながら、


「必ずセシリアは助けを呼んでくる……だから、何としてでも生き延びるんだ!二人共!!」


「「ああーー!!(当然!!)」」


〝異質〟な瘴気を放つB・6・階・層・ーー。


しかし、今のポピィ達にはこれから起きる試練を知る由も無かったーー。

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