第15話
「お前は何をやってるんだ」
「ひたぁい…………」
ユウキにゲンコツを食らって大人しくなるドロシー。
私の部屋はちょうどユウキの真上になるため、やけに騒がしいと様子を見に登ってきていたのだった。
それで、この事態であるーー。
「むむむ……我が兄弟子ユウキよ……何故私とそこの赤娘あかむすめとの決闘の邪魔をするーー!?お前には見えぬというのか?この赤娘の放つ〝魔気〟の力がーー!?こやつ……只者では無いぞ……!?」
「あ……あかむすめ?」
くわっーー!と再び戦いの視線を送るドロシー。
ハァーー、と呆れ顔のユウキを見るに、このやりとりは今に始まった事では無いのだろうなと少しばかり同情する。
「はぁ〜、話せば長くなるから……ほら、もう昼だぞ?さっさと朝飯食ってこい……おやっさん買い出しに出かけるらしいし、今日は昼飯遅くなるからなーー」
料理に買い出しまでする聖騎士がいるのかーー、と少しばかりのギャップがツボにハマるポピィ。
そういえば魔気……というのはカーヴェラさんにうっすらと聞いた記憶があるが、そんな普通に見えるものなのだろうか?
わたしには自分の魔気も他の人の魔気も見えないが、どうやらこの世界は知らない事ばかりらしいと、齢十五にして思う……,
「なんとーー!?あの〝暗黒聖騎士ホーリーダーククルセイダー〟が出かけると言うのかーー!?急いで〝朝食時間ブラックファスタイム〟に行かねばーー!続きは後だ〝赤娘〟よ!さらばだ!わたしはこれにてーー」
急いで先程朝食を食べた食卓へと駆け足で降りていくドロシーと名乗った少女。
これが同居人なのかと、少しばかりの不安を憶えるポピィだったーー。
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『これはすごいーーわずか六歳で〝大魔女〟の称号を得たというのかーー!?』
『これは将来聖国一の大魔導士になるわねーー!ドロシー!』
いつからだろうか。
『ほぉーー!まさか上級魔術である《紅蓮の焦炎》をもう会得したというのかーー!?』
『すごいぞ、〝五大元素〟全ての上級魔術をたった十歳でマスターしたぞ!!歴史に名を残す快挙だーー!!』
思い上がったのは……。
『お姉ちゃんすご〜い!あたしも、いつかお姉ちゃんみたいになる〜!!』
才能があり、もてはやされ、自分はこの世界の全人類を……全てを超越した存在だと思っていたーー。
こんなに幼稚だったというのにっーー!!
『ドロシー……何をしようとしている!?やめろ!やめるんだ!〝混沌魔法〟など太古に失われし〝禁忌の魔法〟だーー!!再現してはならない〝忌避〟されるべき〝悪魔の身技〟だーー!』
『へへっ、大丈夫だよ〜。だってワタシは〝世・界・一・の・大・魔・導・士・〟なんだからーー!』
才能だけなら間違いないーー。でもワタシは愚かだったーー。
技術も経験も乏しい私には、〝混沌魔法〟に触れる資格は無かったーー。
『ううっ……ううっ……痛いよぉ……お姉ぢゃん……ひっぐーー』
見渡す限り絶望に染まった凄惨な街並みーー。
まるで〝悪魔の仕業〟のような所業だったーー。
〝混沌魔法〟の代償はあまりに重く、範囲数百メートル単位で人が大勢死んだーー。
聖国からも追放されたーー。
唯一の妹も後遺症が残ったーー。
私の身体には、齢十三歳にしてはあまりに重すぎる〝呪い〟を背負ったーー。
『〝ドロシー・R・フェイト〟ーー。私の元で学ばないかい……?一緒に来れば、もしかしたらいつかその呪いが解けるかもしれないよーー。』
行き場の無い私に手を差し伸べてくれたのは、私以上に〝魔女〟という言葉がしっくりくる《伝説の魔法使い》だったーー。
私に愛想を尽かしてどこかへ逃げてしまった妹は、今どこにいるのだろうかーー?
絶望に伏して、全てを投げ出すのかーー?
否ーー!いつか私はこの人のーーカーヴェラの元で、この呪いを解く〝術〟を身に付けてみせるーー!
そうしたらいつかーーまたあ・の・子・は、私のそばで笑ってくれるだろうかーー?
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「うかない顔だな、ドロシー」
「…………ふふっ、やっぱりそう見えるーー?」
朝食というには遅すぎたーー、昼前の〝朝食〟を摂る。
随分と自室にこもっていたのでお腹を空かせていたのだが、グレイスは気を利かせて食パンを多めに用意してくれていた。
「いやーーね、素性を隠すためとは言え、妹弟子や兄弟子に当たる子に対してふざけすぎたのかなって……」
(年下なのに兄弟子って変よね……?)
紅茶をすすり、どこか寂しげに呟くドロシー。
その目には先ほどまでのふざけたような気配は微塵も感じられなかったーー。
「〝混沌魔法〟に触れ、気が触れたようにおかしくなった〝元・天才魔導士〟ーー。そう印象付けておかないと、お前を狙っている奴らにあいつらが巻き込まれるからーーか。お前の本性を知っているのは御前様と私と、アシュリーの三人だけだったな……。」
かわいいくまさんのエプロンを外しながら、グレイスがボソっと口を開く。
「ねぇ……あの子は……やっぱり私を恨んでいると思う?」
ただの独り言ーー。だけど誰かに答えを求めていたのだろうかーー?
修辞的な質問(答えのいらない疑問)では無いと捉えたグレイスは、顎あごに手を当ててドロシーの問いに答える。
「私はお前の妹に会った事は無いからな……正直なんとも言えんーー。だが、御前様ならこういうんじゃないのか?〝恨まれていると思って、必死で悔いながら過ちと向き合えーー〟とな」
ふっーー、とドロシーは落ち着いた笑いを溢す。
「あの人ならどちらかと言うと〝一生懺悔しながら苦しみ続けろーー〟とか心えぐる言い方しそうなものよねーー。絶対今のあなたの補正入ってるでしょ?」
頬に手を当てて、砂糖を入れた紅茶をかき混ぜるドロシー。
「フッ、確かになーー」
静かな午前の緩やかな沈黙は、ドロシーが朝食を食べ終えるまで続くのだったーー。
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コンコンッーーと、ドアをノックする音が聞こえる。
「は〜い」
ガチャリーーと、ドアを開けた先には全く対照的な表情の二人の男女がいた。
「ポピィーー、入居して早速だが、訓練に行こうか!」
さんざん逃げ回ったのか、体力切れで捕まったらしいユウキが首根っこを掴まれてプランプランしている。
対して全く息を乱していないカーヴェラは、満面の笑みでポピィに微笑むのだったーー。
1階の中央広間ーー。大きなシャンデリアに照らされ、展覧豪華なソファやイスなどの家具がセンスよく配置されており、室内が程よい暖かさを感じられる程度に薪のストーブが燃えていた。
「という訳で、これからユウキとポピィには二人一組みでここから南西に3キロ程の、山岳地帯の位置にある〝茶のダンジョン〟に向かってもらう。まぁ今回はポピィに〝ある事〟を覚えてもらうのが主な内容だから、そう気張らんでくれたまえ!」
すっーーと、ユウキが手を挙げる。
「あの〜、お師匠。ポピィに何を覚えさせるつもりで?」
それはポピィも気になっていた事らしく、目が釘付けになっていた。
「いい質問だーー。ポピィにはまず、簡・単・な・事を覚えてもらおうと思ってね……」
ゴクリッーーと、皆息を呑むーー。
「ポピィーー、第一関門だ。ユウキに手伝ってもらって、〝上限色覚〟を覚えて来いーー!」
「「「…………はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!???」」」
グレイス、ユウキ、ドロシーの三人の声が屋敷全体に響き渡ったーー。
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