第5話


 

「役職登録ですか?」


「はい!鍛冶師になるなら必要だって、それで登録にきました!」


「わかりました。では、こちらの必要書類に書き込みをお願いします」


 ニコッと柔らかい物腰で受付のお姉さんが気さくに案内してくれる。

 あちらこちらに冒険者と思しき人たちがわきあいあいと喋っていた。

 ある者は酒を飲み、ある者はクエストの受注をし、ある者は武器の修理を申請していたりする。

 正直なところ街がずっと苦手だったが、なかなか楽しそうな所で安心した。


「え〜っと、それじゃあ……」


 と、そこに。


「おいおいおいおい……おめえいい度胸じゃねぇか?俺ら《鬼熊の隊》にケンカ売ろうってんだからなぁぁぁ!!!」


「あっ!またあの方たち……」


 はっ、と気づいて受付のお姉さんが騒ぎの方に目をやる。


「誰なんですか?あの人たち?」


「彼らは《鬼熊の隊》くせもので荒くれですが実力があり、パーティーランクはBですがリーダーの《鬼熊》ガラン自体はAランクの冒険者で、実績と実力があります。まずいですね……」


「それじゃあもう一人の方は……?」


 完全に怯え切った、女の冒険者が涙目になっていた。


「あ、あなた達が悪いんじゃない!ケインとセシルは何も悪くないのにあんなひどいこと……!」


 何があったのだろうか?そう問いかけるとお姉さんはこう言った。


「彼ら《鬼熊の隊》と言い争っている彼女は《夕焼けの会》プリマさんです。《夕焼けの会》はBランクパーティーで、《鬼熊の隊》と合同で今朝がた青色のダンジョン《音無のダンジョン》に調査をお願いしたのですが、ちょっとした行き違いからトラブルが発生したみたいで、詳しい事は調査中なのですが《鬼熊》のガランさんが《夕焼け》のケインさんとセシルさんにダンジョン内で暴行をしたのではないか?との事です。動機としてはドロップアイテムを巡ったトラブルだったのではないかと思われているのですが……」


 そうこうしているうちに、騒ぎはより一層ヒートアップしていく。


「おらおらおらおらっ!見せモンじゃねぇぞ!!」


 ガランによる恫喝で辺り一体が萎縮してしまっている。

 完全に怯えきったプリマはペタンと尻もちをつき、ガランはそれを見下すように仁王立ちした。


「ふんっ!情けねぇ奴だ……おらあっ!これでわかっただろうがギルドの職員共!ガキみてぇな冒険者気取りの連中!!この街で一番強ぇぇのが誰かってのがよぉ!よぉぉくみておけよ!!俺に逆らった奴はっーー」


 はっ、とその場全員が息を呑む。


 横暴?力があれば何でも許されるの?人を殺してもいいの?冗談じゃない!


 振り下ろされる大斧を前に、気づけば体が動いていた。


「???何だてめぇ!?死にてぇのか!?」


 ガランに立ちはだかるようにして両手を広げる。


 周囲から逃げろー、どきなさいなどど声が聞こえるが、身体中が震える恐怖感よりも、この場を退く自信の弱さの方が、私にはよっぽど怖かった。


「あ、あなた……!」


 ギルドの職員達も遠巻きに見守っているが、やはりよほどガランという男が横柄なのだろうか?

 誰もが萎縮してしまい手を出せない状況でいた。


「わたしは死ぬ事よりも、目の前に理不尽な奴がいる事よりも、世界中が敵に回る事よりも、よっぽど怖い事がある。それは、私がそんな目の前の理不尽を黙って見過ごす事。目の前の敵から逃げ出す弱さよ!だから私は、絶対にここを動かない!」


 ガランは充血した目でポピィを睨む。


「へぇ……そうかよ。じゃあーー」


 巨体の大男から、理不尽な大斧が振り下ろされる。


「まずはてめぇから死に晒せっ!!!」


 駄目だーー。そう誰しもが思ったその時だった。


 サッーーと目の前に眼帯を着けた、ゴスロリチックな白髪の少女が間合いに入る。


 すると……


「はぁ……くっだらない……本当に……」


その神々しいとも表されるオーラに圧倒され、一瞬ガランの動きが止まる。


だがーー


「ッーー!!次から次へとごちゃごちゃうるせぇ!まとめて潰してやらぁっ!!!!!」


パシュッーー


 少女は目にも止まらぬ速さで左手の人差し指と中指を使って大斧の攻撃を受け止めたと思ったら、即座に差し出した右手がガランの腹に掌拳を叩き込む。


「ぐはぁーー!?」


 と、壁に穴を開ける勢いでガランが吹き飛ばされる。どう見てもオーバーダウン。間違いなく気絶しているだろう……。


「他者を抑圧するしか能のない男……。心底面倒くさいわ……下がりなさい」


 吐き捨てるようにそう言ったーー、私の胸元あたりまでしかない程の小さな女の子は、たった一人、たった一撃で自分より幾回りも大きい男を吹き飛ばした。


「っーー!!あなたは……」


 ギルド職員のお姉さんが口に手を当て息を呑む。

 その後お姉さんの口から開かれた言葉に、続いてその場にいる全員が息を呑んだ。


「冒険者ギルド内でもたったの十三人しかいないSランク冒険者ーーその中でも魔術の腕に関しては三本の指に入る天才。数多ある世界のダンジョンを数多く踏破し、昨年は未踏白のダンジョン《竜王の巣窟》攻略の際に、たった一人で竜王を倒したーー」


 その瞬間、ギルド内にいた全員の視線が釘付けになっていた。


「Sランクソロ冒険者プレイヤー《星の魔術師》アシュリー・ホワイト様ーー!!」



 わああああああああああああああああああっ!!!!!


 と歓声があがる。

 当然なのだろう。冒険者にとってSランク冒険者など雲の上の存在他ならないのだから。




「全く……だからギルドは騒がしいからイヤなのよ……」




 当の本人は心底面倒くさそうに、呆れんばかりのため息をついていた。


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