10 接近


 家に案内され居間で待たされた。三階建てで外観は濃い灰色のお家だった。


 蒼君は「銀河を呼んでくるからここで待ってて」と三階へ上がった。「俺、その後で飲み物を買ってくるから二人で話してて」とも言っていた。


 五分くらいして銀河君が下りて来た。大きめな水色のTシャツとダボッとした黒いズボン姿で、肩上まである男の子にしては少し長めの金髪が今日は少し乱れている。


 彼は頭を掻き欠伸をしながらリビングを移動した。キッチンにある冷蔵庫から取り出した缶ジュースを持って来て私に差し出してくれた。


「ありがとう」


 受け取り考えた。蒼君は飲み物を買いに行くって言ってたけど、きっと私と銀河君が二人で話をする機会を作ってくれたんだ。


「傘ありがとう。あれ、蒼のだからわざわざ来てくれなくても大丈夫だったのに。あの日、蒼に渡そうと思って持って行ったんだ。でも失くしたと思ってたから……拾ってもらっててよかったよ」


 銀河君はそう言い、コーラの蓋を開けた。飲みながらソファに腰掛け私に隣に座るよう手でジェスチャーしてくる。ソファは入り口から見て右の奥、壁の側に置かれている。


「ううん。今日は銀河君に話があって」


 指示されるまま銀河君の右隣に移動し腰を下ろした。もらった桃のジュースをローテーブルの上に置いた。


「困ってる時に助けてくれてありがとう。それから……その……」


 あれ? 何て尋ねたらいいんだろう。「蒼君から聞いたんだけど、銀河君って私の事が好きなの?」ってそのまま言って大丈夫かな? 好きじゃない場合、心外だと思われるよね。もし本当に「そう」だったとしてもデリカシーのない言い方かもしれない。


 もたもた口ごもってしまった。チラッと様子を窺う。じっとこっちを見ていた相手の目が冷たい印象に細まった。焦る。


「蒼君から聞いたんだけど、銀河君って私の事が好きなの?」


 考えのまとまらないまま思い付いた通りを口にした。言ってしまい後に引けなくなった。相手をじっと見た。


 彼は昏い瞳で微笑した。


「うん」


 返事が現実的じゃなくて目を開いて眉を寄せた。聞き間違いの可能性が高いと感じ、その後に続く言葉を聞いて判断しようと耳を傾けた。


「好きだよ」


 伝えられた率直な思いに胸がぎゅっと痛くなった。己花さんと話をしてもらうつもりだったのに慌ててしまった。口走る。


「ごめんね、私……」


「知ってる。蒼の事が好きなんだよな」


 ニコッと笑い掛けられた。


「あ……」


 それ以上言えなくて右手で制服の胸元の布を握りしめた。黙って頷く。傷つけているのかもしれないと思い至った。


 ソファの座面が軋んだ。


「オレの事は少しも好きじゃない?」


 距離が近い。


「え……あ、あの……少しもって訳じゃ……」


 正直なところを零してしまった。銀河君が寄って来るから右の方へ仰け反る体勢になっている。


 銀河君は私の反応を面白がるように少し笑った。こちらへ手を伸ばしてくる。「えっ」と思った。

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