11 発露


 制服の胸ポケットに差していた眼鏡を奪われた。


「えっ」


 彼の行動が予想できず更に驚く。


「えいっ」


 彼は掛け声と共に眼鏡を私へ掛けてきた。



「何をしますの、小童がー!」


 渾身の力で突き飛ばしました。


「痛あ」


 銀河様は口ではそう言っていますけれど。ダメージのなさそうな余裕の笑みを見せ、再び近付いて来ます。


「それ以上近付くと眼鏡を取りますわよ、小童」


 眼鏡のフレームに手を掛けました。


「それ、何の脅し?」


 くっくっと……さもおかしそうに笑ってきます。


「前から思ってたけど己花さんって男に耐性ないよね」


 痛いところを突かれた気がして必死に反論しました。


「そんなもの、別に必要ありませんわ」


 言い切って顔を横に背けました。


「運命の殿方が現れた時、二人は結ばれるべくして結ばれるのですわ」


 わたくしの恋愛の理想を力説しました。現実的ではないと自分でも思ってしまいます。


「それって今かも」


 想定していなかった返答に思わず相手を見返しました。銀河様が顔を寄せてきます。



「~~~~~」


 側で笑いを堪えるようにプルプル震えている彼を睨みます。


「何ですの!」


「や、可愛くて、つい」


「なっ?」


「何その茹で蛸みたいに赤い顔! 涙目だし!」


「冗談だったんですの?」


 少し……落胆して尋ねました。彼は笑うのをやめ一瞥してきました。


「ま、これくらい許してよ。こっちはあんたを好きなの諦めるんだから。兄貴と付き合うんだろ?」


 絶句しました。立ち上がり離れて行く背を呆然と見つめます。


「あ。キスくらい本当にしておけばよかったかな~?」


 冗談めかしてそんな事を言ってきます。思わず追って振り向かせTシャツの胸ぐらを両手で掴みました。


「殴っていいよ。その方が気が晴れる」


 自嘲めいた薄い笑みを返されました。教えて差し上げます。


「逃げないように捕まえただけよ」


 唇を重ねました。


「え……」


 終えた後、動揺の為か彼の口から声が漏れました。目も丸くなっているように見えます。


「わたくしの運命の人は貴方です」


 伝えました。涙が零れました。怒っていたからかもしれません。でもそれ以上に驚いていました。自分の出した結論に。


 彼のTシャツを握りしめたまま俯きました。本当はわたくしを気に掛けてくれた銀河様が気になっていました。音芽には申し訳ないけれど……。



「オレたち付き合おうよ」


 銀河様の言葉に顔を上げました。軋み鳴り続ける胸を押さえ訴えます。


「でも音芽が」



 後頭部に手を回され頬の横で告げられました。内容がよく理解できなくて聞き返しました。


「えっ……?」


 彼は何を言っているの?


「だから……ね?」


 同意を求められました。どこか陰のある優しい笑顔で。

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