第8話小妈 孫尚香、俺 劉武が奪った!

轟隆隆!〜大日東昇、金色の朝陽が皚々たる雪原を照らす。朝陽の下、森森たる戈矛は流水のごとく、八百の陷陣營は山岳のようにそびえ立つ!僅か八百人しかいないが、黒い洪水のように先頭に立ち、その勢いは壮大で、周囲の群山をも粉砕するかのようだ。二千の老卒が後に続き、槍矛は林のごとく、剣戟は山のごとく!周囲の甲冑が陽光に照らされて、直視できないほどだ。軍陣の上空には厳しい殺気が渦巻き、遠くの鳥獣はすでに驚いて逃げ去った。


中軍にて、劉武は馬に跨り、四方を見渡す。魏延と高順はそれぞれ馬を駆けて両側を護衛し、前方には八百の陷陣、後方には二千の老卒の精鋭。これが劉武の全ての家産である。たとえ荊州の地であっても、劉武の手持ちの軍隊は無視できない力を持っている。


隣の魏延は満面の笑顔で言った。「今や公子が我々を率いて劉備から離れたので、これからは龍が大海に帰り、鳥が青天に飛び立つように、もうあの屈辱を受けることはありません!」


「この八百の陷陣と二千の精鋭老卒、さらに高将軍と魏某が公子に仕えるなら、荊襄九郡のどこへでも行けます!」魏延は壮年で、功を立てる渇望に満ちていた。以前は劉備のもとで冷遇されていたが、今や劉備から離れ、大きな事を成し遂げる意欲に燃えている。


劉武は静かな声で言った。「文長兄、劉備の心にはもうこの長子はいない。君も劉備の麾下の大将ではない。【公子】という言葉は、これから使わないでくれ。」


「公子と呼ばない?」魏延は驚いて言った。「では我々はどう呼べばいいのでしょうか……公子を?」


右側でいつも寡黙な高順が突然口を開いた。「主公、あなたは今年二十歳ですから、そろそろ表字を付けるべきです。」


『礼記』によれば、男子は二十歳で冠礼を行い、表字を付ける。この時代、男子は二十歳で成人し、長辈の主催で冠礼を行い、表字を付けるべきである。劉武はこれまで劉備の大業のために奔走しており、そうした儀式に時間を割く余裕がなかった。劉備は劉武の父であったが、この事を心に留めていなかった。今や劉武は劉備から離れ、表字を付けるのは重要な課題である。


「高将軍の言う通り、公子はすでに自立している。もし表字がなければ笑われてしまうだろう。ただ……」隣の魏延は少し躊躇して言った。「今、公子の側に長辈がいないので、誰も公子に表字を付けることができません。」


劉武は馬上で身を翻し、高順に向かって拱手した。「高将軍、我々三人の中であなたが最年長です。劉武の表字をどうかご指導ください。」


高順は推辞せず、今は劉武が公安に戻って劉備に表字を付けてもらうわけにはいかない。少し考えて言った。「『国语』にはこうあります:『成王能明文昭、能定武烈』……」


「公子の名前にはちょうど【武】の字が入っています。公子は表字を……子烈にしてはいかがでしょう?」


子烈?劉武、劉子烈?劉武は口の中で呟きながら、ゆっくりと頷いた。「良い!今日から、劉武は劉子烈と名乗る!これからは【公子】という言葉を使わない。」


これから、劉武はもはや劉備の影ではない。これから、劉武は誰の属でもない。彼はこの東漢の乱世で、自らの基盤を築くのだ!!


「駕!」劉武は馬を駆けて中軍を飛び出した。この時、空には紅い太陽がますます高くなり、白い大地が紅に染まっていた。


「子烈、我々はどこへ向かう?」後方を追う魏延は、馬蹄の如く飛び立つ。


劉武は北方へ向かって馬を駆けた。「天下を奪う!」


……


江北の官道は、すでに皚々たる白雪で覆われ、時折行商が行き交っていた。突然、鼓楽の音が響いた。一行の隊伍がこの官道に現れた。男女が馬に乗り、車に乗り、それぞれ華麗な袍服を着て、儀仗は龍を彫り、鳳を描いて、高い規格を誇っていた……これは結婚のための送親隊であった。


最も目を引くのは、車輦の周りに集まっている百余名の侍女であった。彼女たちは女性でありながら、甲冑を身にまとい、弓を背負い刀を持ち、とても勇ましかった。この時、これらの勇ましい侍女たちは密かに話していた。「あの劉玄德はすでに五十近い年齢だ。お嬢様が彼に嫁ぐのは、良い縁ではないかもしれない。」


「何を言っているの?劉備は曹操も認める英雄だよ!」


「赤壁の戦いでは、彼と我らの主君が手を組んで曹賊を打ち破り、荊南四郡を手に入れ、今や勢いを増している。」


「ふん!何が手を組むだよ?曹操を破ったのは我らの周大都督で、劉備はただ我ら江東の利を得ただけさ。」


「劉備がたとえ英雄であってもどうだというの?お嬢様は江東郡主だ。彼がどれほど英雄であっても、お嬢様には頭を下げなければならない。」


赤壁の戦いの後、曹操の反撃を防ぐために、孫権は劉備と婚姻を結び、妹の孫尚香を劉備の妻として嫁がせた。この送親隊は、孫尚香を公安に送って劉備と結婚させるためのものだった。


車輦の中、嫁衣を着た孫尚香は外の議論を聞き、眉をひそめた。彼女は側の侍女に命じた。「ここは江東ではない。あの小蹄たちに口を慎むように言いなさい。」


「かしこまりました!」侍女が去り、孫尚香は自語して呟いた。「劉備、劉玄德……」


これが彼女の夫となる人物だった。幼い頃から刀や剣を振り回すのが好きで、大人になってからは侍女たちに甲冑を着せ、刃を持たせていた。彼女は常に自分が男ではないことを恨み、英雄になれないことを悔やんでいた。だからこそ、ますます英雄を仰いでいた。


劉玄德こそ、彼女が望んでいた英雄だった……


黄巾の乱を鎮圧し!董卓を討ち!衣帯の詔を守り!漢賊曹操と誓いを立てて争った!!

不久前、刘备は兄の力を借りて赤壁の戦いで曹操の80万の大軍を打ち破り、曹操の天下統一の夢を打ち砕いた。


  現在、彼は荊襄地方を席巻する勢いだ!

  孫尚香はその劉皇叔の風采を早く一目見たいとさえ思っていた。


  孫尚香は側にいた侍女に尋ねた。「陸郎官に、この場所から公安まであとどれくらいか聞いてきて。」


  ……


  「郡主にお伝えください。あと一日夜ほどで公安城に到着します。」送親隊伍の最前方で、錦衣をまとった青年が侍女を辇に送り返して返事をさせた。


  この青年こそ、今回の送親の役目を担う江東陸氏の子弟、陸遜こと陸伯言である。


  「英雄?呵……」侍女の遠ざかる背中を見つめながら、陸遜はつい口元を歪めた。


  あの郡主が英雄を仰慕していることは東吳でも有名で、若い女子が英雄に憧れるのは珍しいことではない。


  その劉玄德も確かに英雄かもしれないが、英雄の心に男女の情がどれほどあるだろうか。彼らの心にあるのは宏大な計画と野望だけだ。


  主公が妹を嫁がせるのは、果たして曹操と対抗するための同盟のためか、それとも荊州全体を手中に収めるための策略か、まだはっきりとは分からない……


  陸遜は首を振り、命令を下した。「送親の使節団に遅れないように伝え、早く公安に到着するように。」


  ……


  轟隆隆!~

  数千の軍隊が雪中を行軍していた。無限に広がる雪原に踏み固められた道はまるで黒龍のように曲がりくねっていた。


  劉武は馬を駆け、隊伍の最前方に立ち、魏延と高順が左右に並んでいた。


  ダダダダ!~

  突然、前方から一騎の馬が飛び出してきた。劉武が送り出した斥候であった。


  斥候は馬を飛ばして劉武の前に到着し、馬から降りて報告した。「主公、十余里先に送親の隊伍があります。我々の方に向かってきています。」


  「彼らが掲げているのは、どうやら江東孫氏の旗号のようです!」


  送親の隊伍、江東孫氏……


  魏延と高順は気を引き締め、劉武の顔を見つめた。彼らは誰が来るのか知っているようだった。


  いいぞ、ついに彼らが来た。


  ウーッ!~

  劉武は少しの躊躇もなく、大戟を力強く振り上げ、「進め!」と号令を下した。

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