第10話 鬼が来た。
栄子はやおい、ニャアちゃん、コンの三人のテンションについていくことはできないが、ライブに行くにあたっての「予習」は完璧にするつもりである。
それがマナーであり礼儀であると思っているので。
なのでその日も栄子は自室で借りたCDを聴いていた。
白霞は上品でやわらかな、黒守は若干低めの張りのある声をしている。
声質は良いのだからもっと歌い方にメリハリをつけたらいいのに、と自身もボイストレーニングを受けミュージカルに親しんでいる栄子はもどかしくなる。
一枚目を聴き終わり、二枚目をセットした時だった。
コンコンとドアをノックされた。
家政婦さんか母だろうと何の警戒心もなく普通にノブを回して開いたのだが。
「栄子、今度のピアノの発表会の譜面……」
予想通り訪ねてきたのは母だったが、急に途中で口を閉ざし、眉間にしわを寄せる。
「あなた、この軽薄な音楽はなに?」
途端に不機嫌そうに睨まれて、栄子はびくつきながら説明する。
「と、友達に『ロイヤルパーティー』というアイドルのCDを借りたので……えと、アイドルの……曲ですわ」
母は栄子の身体を押しのけ、ずかずかと入室してCDプレーヤーの停止ボタンを押した。
「あなたが聴いていいのは、熟練された一流の歌い手が織りなす上質な曲だけ。こんなスナック菓子よりも軽い歌に親しんでしまったら、人間としてのレベルが下がってしまうわ」
CDだけで注意を受けてしまうのならば、ライブになど行ったら勘当されてしまうかもしれない。
なんとなく伝えづらく、栄子はアイドルのライブチケットを買ったことなどはまだ母に明かしていなかったが、正解だったようだ。
「明日にでも借りたCDたちは返すことにしますわ」
母は栄子の返答に満足し頷いた後、本来の用件を済ませて退室していった。
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