第8話 コン登場。
翌日、昼休みに栄子のクラスに一人の女生徒が突撃してきた。
「塾なんかどーでもいいからサボりたかったでござる! くっそくっそ、同志と語り合いたかったし、自分のプレゼンで信者も増やしたかったのですぞ~!」
ボサボサの茶髪に閉じてるのか開いているのかわからないかの細目、シュッとした顎が特徴的な彼女は、やおいとニャアちゃんが言っていたもう一人のメンバー『コン』だ。
どうやら外見が狐に似ているからついたあだ名のようだ。
コンは、ただでさえ違うクラスでさみしいのにと愚痴っている。
「コン、大丈夫。明後日の土曜にまた会合あるから。一日じゃ『ロイヤルパーティー』の魅力は語り切れなかったからね」
そう、CDを聴きながら歌詞の考察、ソロパートからうかがえる二人のアイデンティティの違いなどを語られたが、ガチ勢にとってはまだまだ序の口だったらしい。
栄子は一日だけで情報量の多さにびっくりしたのだが、やおいもニャアちゃんも「彼らの魅力はこんなもんじゃない!」とのたまい会合の終盤には次の予定がたてられていた。
「コンさん、わたくしは月夜野栄子と申します。初めまして。これからよろしくお願いしますわ」
「吾輩の方こそ、よろしくでござる」
コンは笑顔を作るのが苦手なのか、口元が少しひきつっていた。
独特の口調といいボサボサの茶髪といい、栄子は彼女が「コミュニケーションが苦手」で「身だしなみも適当」な完璧なインドア人間なのだろうと勝手なイメージを作ってしまう。
社交界では当たり障りのない会話ができるスキルが必須。
栄子もご多分に漏れず笑顔と話術を武器にしているため、自分とは真逆のコンは興味深い対象だ。
「ところで、ちゃんとウチワやペンラは用意してあるのでござるか?」
コンはやおいとニャアちゃんに視線をやって尋ねる。
栄子はといえば、ウチワが必要なほど会場内は暑いのだろうかとか、ペンラってなんだろうとか「?」を脳裏いっぱいに浮かべていた。
「いんや?」
「うちらの貸せばいいにゃ」
二人の回答にコンはクワッと目を見開いた。
「駄目でござるぞ! ペンラはまあ仕方がないとはいえ、ウチワは愛情込めて本人が作るべきでござる!」
ぐりんと首を回してふたたび栄子の方を向いたコンの瞳がギラギラとしていて、栄子は一歩引いてしまう。
さっきまでは糸目だったのに、なにが彼女をそうさせたのか。
「土曜日はウチワを一緒に作りましょうぞ。よろしいでござるか?」
栄子はコンの迫力に飲まれて声が出せず、必死で何度も首を縦に振った。
「材料の調達は任せて下され。行きつけの百均がありますからなぁ!」
はーっはははは! と腰に手を当て胸を反らして大笑いするコンは栄子がドン引きしていることに気が付いていない。
栄子はこのテンションについていかなければならないのかと、少し前途を心配した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。