第2話 わたくしは、将来なにになるの? なにになりたい?
あのあと、追いかけてきた先生に連れ戻され、栄子はしぶしぶ授業を受けた。
そして昼休み。
給食を食べ終わってごちそうさまとあいさつした次の瞬間には駆け出していた。
教室の位置が隣接しているので、瞬間移動を疑うレベルの速さで一組に着き扉を開けた。
勢いがついていたためスパンっと音がする。
「陽野里美! 出て来なさい!」
いきなり現れたアンティークドールめいた美少女、しかも命令口調で偉そうな態度ときたら注目を浴びないはずがなかった。
だが栄子は注目されるのに慣れ切っているので、かまいもせず教室内を見渡す。
一年生からこの学校に通っていて、耳に馴染みがなかった名前。
そこからおそらく転入してきた生徒だろうとあたりをつける。
あまり見覚えのない顔がいたらそれが陽野里美だ。
いた。
おそらく彼女だ。
シンプルな白いシャツに茶色のロングスカート。
髪型はショートカットで、ふくふくした顔につぶらな瞳とぺちゃ鼻がのんきな子熊を連想させる。
「そんなにじっと見ないでよ。こんな注目されてる中で前に出て行きたくなかったけど、バレてるんじゃしかたないね。そ、あたしが陽野里美よ」
栄子は里美の容姿を頭のてっぺんからつま先まで確認する。
(身長……わたくしの方が高い。全体的な体型も、寸胴なのにロングスカートを履いているせいでいかにももっさりしてて田舎臭い。比べてわたくしはスレンダーだし手足も長い。外見は完全にわたくしの勝ちね)
失礼な判定を下しつつ、栄子は尋ねる。
「わたくしを差し置いて読書感想文で金賞だなんて、どんな手を使いましたの!」
「どんな手って。頑張って書いた。それだけ」
声を張り上げる栄子に対して怯えもせず、冷静に淡々と里美は答える。
「賄賂を渡したんじゃ」
「ただの小学生が渡せるものなんて価値ないでしょ。バカだね」
ぐぬぬぬ、と言葉に詰まって唇を噛みながらにらむ栄子に、里見は不敵に微笑む。
「月夜野栄子。名乗られなくてもあたしはあなたを知ってた。何でも一番でその上美少女って有名人だって、ここに来て最初の噂話で教えられたからね。でも、あたし作文では……文章の関わることではあなたに絶対負けない。だって、あたしは作家になるんだから」
里美の瞳が強い意志を秘めてきらめく。
栄子はその瞳に魅入られた。
(さっき外見では勝ったと思ったのに……)
この瞳の前では容姿の美しさなど無に帰すとさえ栄子は感じた。
(わたくしは、将来なにになるの? なにになりたい?)
途端に自分が、外見だけきらびやかで中には何も入っていない空っぽの箱になった気がした。
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