ナンバーワンよりオンリーワン!
音雪香林
第1話 お嬢さまの爆発。
六年二組の教室はみなのおしゃべりの声が行きかいにぎやかだ。
開け放した窓から見える青空は晴れやかに高く、いわし雲が浮かんでいる。
やわらかな陽光と共にどこかからか金木犀の香りが入り込んで来て、いつもの平和な朝だった。
チャイムが鳴り、しばらくして担任の先生が入ってくる。
みんなが起立して「おはようございます」と声をそろえ、先生もあいさつを返すが、なんだかいつもよりにこやかだ。
いったいどうしたのか、なにか良いことがあったのか。その疑問はすぐに解ける。
「夏休みに書いた読書感想文で、
ふっくらした丸顔の先生がにこりとしながら「おめでとう」と続ける。
なるほどこれが「良いこと」かとクラスのみんなが月夜野栄子の方を向く。
栄子は色白でゆで卵のようにつるりとした顔をしており、目は宝石のように透き通った茶色だ。
鼻は高すぎず低すぎず絶妙な角度をしており、その下の唇は花びらのような瑞々しいピンク色。
髪はゆるくカールしていて目とおそろいの色をしている。
とんでもない美少女である栄子は、服も上質な仕立てのものを着用している。
小学校に通うための普段着としてはありえないほど上品な、アンティークドールが着ているようなレースで飾られたワンピースだ。
当然のごとく、彼女は異質。
いちおう教室のみんながぱちぱちぱち、と拍手するがどこか音がさむざむしい。
栄子はぎゅっとスカートを握りしめ、うつむいてふるえている。
先生はその様子を「感涙するほどよろこんでいるのだろう」とほほえましく見つめていたが……。
栄子が前触れなく顔を上げ、キッとまなじりをつりあげた。
「わたくしが金賞ではなく銀賞? それはなにかの間違いです!」
先生はまさかの台詞に目をまるくする。
みんなもびっくりして拍手が一斉に止まった。
栄子はガタンっと椅子が倒れる勢いで立ち上がる。
「わたくしの名前、栄子の栄は栄光の栄、今まで必ず何においても一番を獲ってきましたのよ! 今回もそうであるべきですわ!」
先生はこめかみをおさえながら栄子を落ち着かせようと口を開く。
「みんなもそれぞれ頑張っているんだから、ときには追い抜かされることもあるわ。追い抜かされた時に評価を疑うというのは、傲慢とか慢心というのではないかしら。次頑張ろうと前向きに向上心を持つことが大切なのよ」
「次頑張る? いつだって最大限の努力をしてきています!」
「いや、そうかもしれないけど……」
栄子の顔は真っ赤で、ぐらぐらと煮立った鍋のようだった。
先生も迫力に押されてしまっている。
「金賞を獲ったのは何組の誰ですか!」
「一組の
栄子は教室を飛び出し一組へと走っていった。
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