第三十話 体育祭について

「ところでミズキ様? 体育祭はどうするおつもりですの?」

 

 机にはサラが持ってきたポテチとポッキーの袋が開けてある。キョウがその一本をつまんでミズキに話しかける。

 

「あ、そーじゃん体育祭。もう来週じゃん」

 

「言われてみれば、確かにどうするんだろ俺」

 

 骨折してしまった右手を見つめながらつぶやくミズキ。

 

 体育祭。サラの通う学校の体育祭は祭といっておきながら簡素なもので、体育の授業の延長に位置するものだ。

 午後の5、6限を使って一年から三年がクラス縦割りで対抗する形式で、小学生の運動会のように観客を招いたりなどはしない。あくまで生徒の息抜きになるイベントに過ぎないので、本気で優勝を狙うような生徒はまずいなかった。

 

「ウチってもう出場競技決めたよね? ミズちって何でるんんだっけ?」

 

「俺は障害物競争」

 

「障害物競争といったらパン食い、借り物、ハードル、網潜りですわよね。絶妙に右手使えなくてもいけそうっちゃいけそうですわね」

 

「うん、まあ、なんとななるんじゃないかな? そんな真剣にやるものでもないし」


 ミズキが左手でポッキーを摘もうとする。それをさらりと横取りするサラ。


「あっ」


「とか言って、出る気まんまんなんじゃないの? そういうのなんだかんだ真面目にやるタイプでしょミズちって」


 ぱき、と奪ったポッキーを齧るサラ。


 体育は得意ではないと言うが、だからこそこういう時は1人で練習してそうなのがミズキである。怪我してしまったことで責任を感じてなければいいのだが、と思っているとミズキが笑って否定する。


「あはは、そんなことしないって」


「そうなんですの? てっきり『俺が怪我したせいで負けたら、クラスのみんなに会わせる顔がねェぜ!』って言いながら夜中に1人で練習してるものだと思ってましたわ」


「勝手に熱血キャラにしないでよ……障害物競争で自主練はしないってば」


「パン食べるんじゃない? 夜中に。1人で。クラスのみんなを想って」


「ミズキ様ったら健気! 夜中の公園で1人で健気にパン食い競争の練習だなんて!」

 

「あのねぇ」


 ケタケタ笑うサラとキョウに、ミズキはイライラしてますと、分かりやすく右手のギプスで机をこづく。


「分かってないな。サラさんもキョウさんも。2人とも運動できるもんね」


「まあ、できる方だとは思うけど、どしたん?」


「運動音痴がクラスに貢献する1番の方法は、練習することじゃなくて、休んで別のクラスメイトに代わって貰うことだから、はははは」


 自分で言って辛くなったのか俯くミズキ。


「か、悲しい知見が増えましたわね。それもおそらく経験則で語られてますわねこの重みは」


 キョウが憐れんでミズキにポッキーを差し出すと、チョコの部分を摘んで受け取るミズキ。


「だから、まあ気楽に参加できるからありがたいよね、ウチの体育祭は」


「出れるなら出るって感じがいーかもね。ミズちは。棒倒しとか騎馬戦とか、全員参加のやつはさすがに無理そうだけど」


「それは無理かな。頭数減らしちゃうのは申し訳なさはあるけど」


「そこでちゃんと申し訳なく思ってしまうのミズキ様っぽいですわよね」

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