第二十七話 お家デート
「ありえんし……」
思わず言葉を失う。
サラの目に、大勢の医療スタッフが黒塗りのベンツにスタンバイしている光景が目に飛び込んでくる。
運転席にはじいや。そしてそれらを束ねるご息女様が車から降りてくる。
「ごきげんよう、サラさん」
「あ……うん。ちーす」
ここはミズキ宅の目の前。住宅街の狭い道に似つかわしくないベンツはキョウが用意したものだろう。
にしても白衣を着たスタッフを用意させてるのには一体なんの意味があるのだろう。ミズキを賭けたデスマッチでも行う気だろうか。
ぽかんと口を開けて見ていると説明をおもむろに始める。
「あれま、ウチの医療班がそんなに珍しくて? 今日は怪我をされたミズキ様に一日何不自由なく過ごしていただく一日ですわ。何か異常があったときにはすぐに対応できるよう用意いたしましたの」
「へー。ガチだねー。さすがキョウちゃん」
それいる? とは自慢げにふんぞり返るキョウにはなかなか言えない雰囲気だった。
この前昼休憩のときに話したミズキの怪我に対しての埋め合わせ。
ミズキに連絡を取ってこの日のお昼ならいいよという返事を貰いやってきたところ、今この状況である。
自分たちのせいで怪我をさせてしまった、その為に一日身の回りの世話を手伝ってあげる。そんな"名目"で遊びにきたサラだったので、キョウのあまりのガチ度に冷ややかな目を浴びせる。
身の回りの世話といったって、せいぜい物を取ったりとか本のページをめくったりとかだろう。果たしてこの人数、それも介護というよりは医療目的のスタッフが必要かはいささか怪しい。
それに自宅の前にドカンとベンツが構えているのはミズキとしても迷惑なのではないだろうか?
まあ、サラとしては自分には関係のない話であるので静観するのみだった。
「じゃ、インターホン押すね?」
「ワクワクですわね! わたくし殿方のお家に招待されるの初めてですわ」
「ね。あたしもそうだからなんかドキドキしちゃう」
ピンポーン、と音が鳴り、ややあってがちゃんと扉が開く。
「はーい、おまたせー。入っていいよ――うわなんだこれ!? 人多いな!?」
ギプスがまだ外れてないミズキが出迎えにくると、予見していたであろう以上の人数に声を荒げている。
「こんー、ミズち」
「ごきげんよう、ミズキ様」
「う、うん。二人ともおはよう、こんにちはかな。ごめんえっと、この人たちって……?」
見慣れない私服のミズキである。下はラフなジャージに、上は体のラインを隠すようなオーバーサイズの紺のTシャツを着ている。
外に出るわけじゃないので着飾ったりはしてないだろうとは思ってはいたが、あまりに予想どおりの姿に思わずほくそ笑む。ベッドの上でこの格好でうだうだと読書しているミズキの姿が目に浮かぶようだった。
「万が一のことがあってはいけないとお父様に頼んで医療班を編成いたしましたの。ここにスタンバイして中にはお邪魔しませんのでご安心くださいまし? これでどんな激痛をミズキ様が襲ったとしても一瞬で平時に戻してみせますわ!」
「あ、いや、近所の人に迷惑だから、帰ってもらっていい?」
「じいや、撤収」
手をぱんぱんと二回叩く。サラが振り向くと、すでにベンツの姿は消えて無くなっていたのだった。
「うわっ、なんか申し訳ない気分」
「えっ、いついなくなったの? 静音性やば!?」
「いいのですわ。ミズキ様がいらないと申せばすぐ帰るように取り決めをしてろいましたので。それでは、今日一日ミズキ様、よろしくおねがいいたしますわ」
ぺこりと頭を下げる。
「うん、二人とも上がって上がって」
◯
「うっわ! やば! 男の部屋入っちゃった!」
「こ、これがミズキ様のお部屋……」
「そんなに湧くことかな」
ミズキの部屋は彼らしくきっちり整理整頓されている。勉強机にベッド、その間にテレビがテレビ台に置いてある。窓のところに観葉植物のサボテンが置かれている。
意外にも本棚に置いてある本の数はそこまで多くない。四段の棚の半分は漫画本、一段は小説、もう一段はゲームソフトが並べられている。
「もっと図書館みたいにずらーって本が並んでるんかと思ってた」
「基本売るからね。本はね、鮮度が大事なんだ。発売日に即買って読んですぐに売りにだす。そうするとそのお金でまた本とかゲームを買う。それもすぐに消化しないとすぐに価格が下がっていく。終わりのない輪廻の中で足掻くことしかできないんだ。俺みたいな貧乏学生は……」
「へー、やっぱ好きなもののことになると早口なんだね」
「オタク一般の話はしてないつもりだったんだけど」
「ふむふむ、ということはこの本棚に生き残った作品は相当のお気に入りでなさいますの?」
キョウが本棚をまじまじと見て感想を言う。
「にしては流行り物が多いのですわね。こういったものはあまり嗜みませんが、漫画はわたくしでも知ってる作品ばかりですわね。呪◯、ブルー◯ック、◯リーレン。ビブリオマニアって自分しか知らないであろう作品をこぞって熱弁する逆張りオタクだと思っていましたけれど、意外にミズキ様は違いましたのね」
「そ、そうだと思われてたってコト……? いや、流行ってるものは流行るべくする理由があるから、そりゃ好きにもなるよ」
あははと困ったように笑うミズキに、サラはどこか違和感を感じた。
その笑い方はよく知っている。サラが近寄ったり言い寄ったりしたときに、恥ずかしさを誤魔化すときに使うミズキ(陰キャ)特有の挙動。
だとすれば、ミズキは今何かを誤魔化そうとしているのかもしれない。
「いやキョウちゃん。その推理は鋭いかもよ」
サラは学習机に敷かれている透明なマットを指し示した。
マットには長方形に白い跡が付いてるのをキョウと二人で確認する。
「このマット、跡がくっきりついてる。形からしておそらくここにはつい最近まで何らかの本が置かれていた。文庫本サイズより大きいってことは本棚にある本とは違うやつっぽい?」
「あら、ほんとですわ? これとはサイズが違いますわ」
「……あ、あはは、多分この前買った大判サイズの漫画じゃないかな? もう売っちゃったけど」
ミズキが生唾を飲み込む音をサラは聞き逃さなかった。
「……漫画じゃこんなくっきり跡付かないよ。もっと重いハードカバーの本、それも何冊も重なってたとかじゃないと付かない跡だよね? ミズち、なんか隠してる?」
「かかか!! 隠してないよ!!!???」
「隠してんね」
「隠してますわね」
男子の部屋、隠したいもの。果たしてその正体は一体何なのだろうか。サラにはまるで検討も付かないのだった。
「エロ本……はハードカバーなんて無いし、官能小説……も文庫本サイズがほとんどだし」
「ハリー◯ッター! 分厚くて何冊もあるのはハリー◯ッターではありませんの!? サラさん」
「ハリ◯タだったらそこの『人に見せる用』の本棚に置くでしょ? ね? ムッツリ陰キャミズち君?」
しばらく眉間に皺を寄せたのち、ふっ、と目を瞑り口角を上げるミズキ。
「……本棚というのはね、そう軽々しく人に見せちゃいけないんだよ。大切な人を前にするなら尚更、ね、お嬢さん方?」
あまり見たことないミズキのニヒルな表情に、どこか新鮮な気持ちになるサラだった。
「……わー! 探せ探せー!」
「探しますわ! 押入れの中! テレビの裏!」
「あ、ちょっと! 俺怪我してて止めれないのに!!!」
こうして、男子の部屋に初めて入った時の通過儀礼は滞りなく行われた。
さほど時間はかかることなく「それ」は日本男児の隠し場所トップティアのベッドの下の引き出し収納にて発見された。
「これは……」
「……まあ、ハードカバーで大量にあってもおかしくない本ではありますわね」
「はう……恥ず」
真っ赤になった顔を手で隠すミズキの前に大量の「かいけつ◯ロリ」が積まれていた。
「未だに好きでェ……新刊出たら買わずにはいられなくてェ……」
「……なんか、逆にエロ本の本が恥ずかしくなかったかもね? 高校生でゾ◯リ読んでるって」
「趣味は人それぞれですわ! 子供っぽい趣味を持つミズキ様も素敵でございますわ!?」
「いやほんとに面白いんだけどね? 分からんか、女子高生にはか◯けつゾロリの良さは分からんか」
「女子高生とかいけ◯ゾロリって一番縁の無い言葉だと思う」
「わたくしその昔読んだことありますわよ? あまりに下品ですぐに読むのを辞めましたけれど」
「ほら、だから隠してたのにさ。言っとくけど、ゾロ◯は何歳で見ても最高なんだからね? 神は細部に宿るとはこの作品のためにあると思ってもおかしくないくらい、児童向けなのに情報が詰め込まれてて何回読んでも新しい発見がある作品で、くだらない子供騙しの本だと思ってるのは大間違い何だからね? 言っておくけど普通に俺大好きな作品だから馬鹿にされるのは非常に心外であり遺憾の意を表面するまであるからね?」
顔は笑ったまま、声だけ平坦で異様な迫力あるミズキだった。
「わ、分かったですわ? 怖いですわ? サラさんわたくし地雷踏みましたの?」
「う、うん。とりあえず謝ろっか? さーせんでした。怪我させたときより怖いや」
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