第二十六話 お大事に

 困ったように笑うミズキの前に玉子焼きとミートボールが差し出されている。


「はい、あーん」

「もちろん、わたくしのを召し上がりますよね? ミズキ様?」

「今日のはあたし特性だよ? せっかく丹精込めて作ったんだけどなー」

「気持ちならわたくしも負けておりませんわ? ミズキ様の腕が早く良くなるよう昨日は神社で祈祷して参りました」

 

 昼休憩。中庭。

 サラがミズキと弁当を食べようと誘ったところにキョウもやっていたところである。


 右手が使えないミズキはできるだけことを荒立てないようにただただ微笑みを絶やさず口論する二人に「かっこまぁまぁ」と宥める。


「しかし、なんとも痛ましい有様ですわ。なんでしたっけ、その」


「橈骨遠位端骨折ね、あはは……見た目ほど大層な怪我じゃないよ」


 ミズキの右腕には前腕から手首にかけてギプスが巻かれていた。そこだけやたら太くなっており逆に元々の腕の細さが強調されている。手は指まで覆われており、右腕だけ改造されて鈍器を装着させられた人のようだ。


 昨日病院にいって診断した結果、手首の骨が折れていたらしい。安静にしていれば問題ないとミズキは笑うが、サラは申し訳なくてたまらない気分だった。


 利き手に不自由があるとなると日常生活に支障をきたす。不可抗力ではあるが責任の一端を自分が担っていると思うと何もせずにはいられない。


「だからこうやって食べさせてあげてるのに。何で食べないの!? あたしの手料理だよ!?」


「いや、俺パンあるし……」


 ミズキはコンビニで買ったパンをお昼にするようだった。確かにそれなら一人でも左手で食べられる。


「いやいやいや、ミズち。それは『お昼に人の助けを必要としない理由』にはなるけれど、『あたしの「あーん」を食べない理由』にはならないよね?」


「そんな論理的に問い詰めること、これ?」


 隣のキョウも諦めたのかミートボールを下げる。


「でも、ミズキ様も大変ですわ。利き手が使えないのなら筆も取れないではございませんか。授業の方は支障はありますの?」


「左手で書いてるよ。何が書いてあるか自分でも読めないけど」


「それはいけません。すぐに沢木家で解読班を手配いたしますわ」


「普通にノート見せてくれればよくない?」


 実際は苦労が絶えないだろうに、それを感じさせない返しもなんだか健気に思えてくる。


「そっかぁ。やっぱ利き手が使えないと大変だよね。なんか困ったことがあったら遠慮なく言ってね……いや、ミズち絶遠慮するよね」


「ですわですわ! こんな風にさせてしまったわたくしたちに苦言一つていさないのですし! もっと遠慮なく接してくださいまし!」


「遠藤……というより、ほんとに思ってないだけなんだけどなぁ。ちゃんと謝ってもらったし、そもそも事故だし。困ってるのもご飯と勉強くらいだし、それも別になんとかなるし」


「ほんと? 他にない? なんでもするよ?」


「わたくしも! なんでもいたしますわ!?」


「いや無いんだってば。んー、困ってること……部活とかしてればまだなんかあったかもしれないけど、ゲームしづらいとか本が読みにくいとか、そんくらいしか無いよね、実際」


 パンを齧りながら話すミズキ。


 本当にそう思ってるのか、気を遣っているのか。素で優しいミズキのことを考えると、気を遣ってるのがデフォルトになってるのかもしれない。


 それは良くない。

 サラとしては、攻略対象が自分に気を遣ってるのはあまりよろしくない現状である。

 気を遣ってる相手に告白されてもまた断られるだけだろう。

 だとすれば、その現状は打破しなければならない。


「あ、じゃ手伝うね。それ」


「え? いや、読書手伝うって言われても」


「音読でも文鎮がわりにでも栞にでも、なんでもなってあげる。どこで読む? 図書室は声出せないし、家かな。ミズちの家。今度行くよ」


「えっ?」


「ズルいですわサラさん!? わたくしのせいでこうなったのですからわたくしがその任を担うべきですわ! ミズキ様、謹んでお屋敷にお邪魔させていただきますわね」


「へー、箱入り娘のお転婆お嬢様にできることごあるとは思えないけどねー、むしろ怪我悪化させそう」


「そんなこといたしませんわ? 介護に大事なのは思いやりの心、ミズキ様を想えば自ずと必要なことが見えてくるはずですわ」


「どーだかねー。じゃ、今度の休みミズちの家に集合ね。あたしらのせいでこうなっちゃったのは事実だし。埋め合わせはちゃんとしないとね」


「ええ、それに関しては同意ですわ。ミズキ様にとって何不自由のない一日にしてみせますわ」


 一言も同意していないミズキが口を開く。

 

「えっ? 勝手に話が進んでる?」

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