第二十一話 体育
サラの通う学校の体育は選択で受ける競技が選べるようになっている。バレー、バスケ、テニスの中から一つ選べる。
団体競技よりかはということでカナとユミと一緒にテニスを選択した。スポーツは全く苦手では無いが、授業でやるスポーツくらいは気楽でやりたいものだ。
更衣室で着替えた三人がコートに向かう。体育係の子が用意してくれたラケットの中から一番最近ガットが張り替えられたものを選びコートに入る。
「な〜んか、さっきから一人の男に向けて熱視線飛ばしてる女がいますケド」
「ね。向こう全然気付いてないけど。てかサラも全然ウチらの声聞いてない――あ、行っちゃった」
地べたに座り、脚を開いて前屈。入念に柔軟を行うミズキに背中からゆっくりと迫る。その背中に、体重を乗せて両手を押し付ける。
「うえーい」
「ゔっ! えっ、えっ、サラさん!?」
上体が起こせないようにしっかりとロックする。下の方からうめき声が聞こえてくるのが面白い。
「ほらーしっかり体解さないとダメだよー? 硬った! 体岩じゃん!」
「ゔ、ゔゔ……サラさん、重い……」
「はいぃ!?」
ようやくミズキを解放する。尽き果てたミズキの今度は正面に回ってしゃがみ込む。
「ミズちねぇ、女の子に向かって重いは最大限の禁句だよ? キング禁句と言っても過言じゃないんだから」
「体重じゃないことなんて分かってますでしょ……あれ、サラさんも一人ですか?」
周りを見渡して、すぐ近くにカナとユイを認めるミズキ。少々気まずそうにはは、と頭をかく。
「あ……いやその、俺いっつもつるんでる奴が今日休みで……」
「え! じゃウチのコート来る!? 丁度三人でダブルスには一人足りないところだったんよねー!」
「あ、ほんと? ……じゃ、お言葉に甘えて――ってええ!?」
地べたに座っているミズキの手を強引に掴んで引っ張り、立ち上がらせる。そのまま電車みたいにカナとユイの元へ連れて行く。
「カナー! ユイー! 釣れたよー!」
「見りゃ分かるっての」
「正しく一本釣りだわ」
サラとは違って、ほぼ初めましてのカナとユイに戸惑っている様子のミズキ。
「……兄ちゃん、ウチのサラとよろしくやってくれとるみたいやねぇ」
「中途半端な覚悟でつるまんといてや? ウチのサラはこう見えて繊細なんやで」
「な、なんで関西弁? いや、えっと、よろしくお願いします、カナさん、ユイさん」
「おけまる」
「よろよろ〜」
「変わり身早……」
「じゃ、もうやろっか。どーする? 早速ダブルスやっちゃう? それとも最初はラリーで慣らしてって感じがいいかな? あ、てかミズちテニスできるん? 体育苦手みたいなこと言ってたけど」
ミズキに問おうとしていた、そんな矢先に、隣から聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「あーっはっはっはっは! ここにいらしたのですねミズキ様! いけませんわそんな野蛮な女とテニスだなんて、紳士淑女のスポーツ、と呼ばれるのをご存知ない? 致し方ありませんわ、ここは淑女の見本たるわたくしが、ミズキ様にテニスの手解きをして差し上げませんこと」
「あ、キョウさん」
「キョウちゃんだ。選択テニスだったの?」
「キョウ姉〜お久〜!」
「姐御だ〜、ってあれ? 姐御って選択バスケじゃなかった?」
突然現れたキョウに対し各々の反応返す。
「カナ、ユイ、ご機嫌麗しゅう。ええ、わたくし選択はバスケでございますが……せっかくの三組合同授業なんですもの、少しでもミズキ様の近くにいたいと、恥ずかしながらわたくし、バスケの方"ぶっち"させて頂きましたわ!」
「え、いいのそれ?」
「良いに決まってますわ? というかあんたはいっつも同じクラスなんだから、ズルいと思いませんの!? わたくしだって同じクラスだったら今頃とっくにミズキ様を――」
「キョウさん」
キョウに対し、目を瞑ったミズキが話しかける。
「"ぶっち"は、あんまり良くないよ?」
「あっ、えっ、あっ、その……」
ミズキに注意されたことがよほど予想外だったか、しどろもどろになるキョウ。
「え、っと、その。……ごめんですわ?」
それを見てカナとユイが互いに目を合わせる。
「キョウ姉が人に謝った!!」
「ミズキっちの圧やべぇ!!」
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