第十五話 対立
周囲にキョウの宣戦布告がこだまする。
突然の出来事に驚く2人。とりわけミズキは目を白くして驚いている。
「……あの……ん? え? か、彼女!? な、なんでいきなりそんなことになっての……?」
「そりゃもちろん、この女に一矢報いる為に決まってますわ? サラさんが慕っているあなたがわたくしのことが好きになれば、それすなわちわたくしの方が女として優れているということに他なりませんもの」
学会に発表するように堂々と理論を説明するキョウ。その説明にさらに苦々しい顔になるミズキ。
「いや、それは、他なるのでは……?」
「いいよ、その勝負、受けて立った!」
「サラさんまで!? な、何言い出すんですかサラさん……!」
サラに近寄り、小声で説明を求めるミズキ。
「なんで対抗してるんですか! てかなんなんですか彼女は!?」
「言ったじゃん、あたしのこと目の敵にしてるって。まああたしの近くにいるとこういうことも起きるよねー。嫉妬に狂った女は怖いよー?」
「その嫉妬の矢印向けられてるの自分じゃないですか! なんで俺が巻き込まれなくちゃいけないんですか!」
「でもさ、考えてもみてよ。学校で1番可愛い女の子と、その座を引き摺り下ろされた2番目に可愛い女の子2人から迫られるんだよ? わ! ミズち主人公じゃーん!」
「そんなこと言われても、2人の喧嘩に巻き込まれてるだけじゃないですか俺! 勝手に2人でやってくださいよ!」
「そこは、まあ審判役? 的なかんじで? まぁまぁ、そうカッカせずに。この学校で1番可愛いあたしと一緒に帰ってる現実に対する対価みたいなもんだと思ってさ」
「友達と帰るのに対価いるんですか!? お友達料金ってこと!?」
「だいじょぶだいじょぶ、悪いようにはなんないから」
そう言って小声で、
「……ともだちって、思ってるんだ」
と、口元をもにょもにょさせながら呟いた。
「ま、何はともあれこのサラちゃんにお任せあれ!」
「??? はぁ……」
したり顔のサラに腑に落ちない様子のミズキ。
2人のこそこそ話に痺れを切らしたか、キョウが2人に語りかける。
「お2人とも距離が近くて微笑ましいことですわ。あたくしすっかり蚊帳の外ですの」
「悪いねキョウちゃん、ミズちったらもうとっくの昔から中学の時には既にあたしが好きピみたいで」
「な゙っ……! サラさんっ!」
「くくくく、冗談じゃん冗談」
ミズキを手で牽制する。その様子を俯瞰で眺めるキョウ。
「仲のいいこと、たいへん結構でございます。ですが! 不利な勝負に勝ってこそ、本当にあなたを打ち負かしたと言えますわ。――『逆境こそ粘り強く』。沢木家の家訓ですわ」
「甲子園目指してる野球部のキャッチコピーみたいだ……」
「なにかおっしゃいましたが? ミズキ様?」
「い、いえ……なんでもございません……!」
キョウの鋭い眼光にすぐさま萎縮するミズキ。おおよそ今から自分を口説こうとしている女子とは思えない視線である。
「軽口を叩けるのも今の内です。すぐにでもあたくしのこと、メロメロに、ゾッコンに、ほの字にさせてやりますわ!」
「言葉のチョイス絶妙に古いわね」
「きゃるん! てへぺろ! はにゃ!」
「……! 流行になんとかして乗ろうと頑張ってる感だけがヒシヒシと伝わってくる……っ! こいつ、強敵だわ……」
「強敵判定出るんですか今のっ!?」
熱い視線がぶつかり合い両者の間に火花を散らす。中央に立つミズキは未だ状況が飲み込めずあわあわしていた。
「どうですかミズキ様? わたくしのこと、そろそろ魅力的に思えてきたのでは?」
「今のやりとりの中のどこで思えるんだ……?」
「分かってないなーキョウちゃん。そんな付け焼き刃ねミズちを攻略できると思ってるなんて。ミズちの貞操観念は岩みたいにカッチカチなんだから」
「い、岩……そんな風に思われてたんだ……」
「ふん、分かってる口を聞いてるのはどちらかしら? あなたこそミズキ様の何を知ってらっしゃると言うのかしら」
するとキョウはスマホを取り出し、何やらメモのようなものを表示させる。
「このわたくしが何の勝算も無しに勝負に出たとでもお思いで? 失礼ながらわたくし、ミズキ様のプロフィールを調べさせて頂きました」
「プロフィール……? それが何って言うのよ!」
メモに書いてあることをキョウがつらつらと読み上げていく。
「志賀瑞紀。16歳。性格は温和で内向的、礼儀に厳しい一面を持つ。家族構成は父親、母親、姉とペットに犬を飼っている。運動は得意じゃないけど体を動かすのは好き。趣味は読書と散歩。血液型はAB型、誕生日は8月22日。中学の時に習字で書いた座右の銘は――『無私無偏』」
「えええ!? 何でそんなに知ってるの!?」
「すごい……作者が考えたキャラの設定そのまま書いてそう……」
「これくらい沢木家の力があれば余裕のよっちゃんですわ? 驚くのはまだ早いねすわ。わたくし沢木家のネットワークをフルに使ってこの情報でプロファイリングできる方を捜索致しました。そしてその方に依頼して、ミズキ様の理想のタイプの女子像を割り出しました」
「プロファイリングって、警察とかが犯人像を割り出すのに使うやつでしょ? よくそんなツテ持ってんねー」
「ふっふっふ、文学部でカプ厨の倉木さんには良い仕事をして貰いましたわ」
「キャラ相性診断で調べてませんかそれ……?」
「その結果……! 発表致します。ミズキ様の理想の女子像は――!」
「何で俺じゃない人が発表してるの……?」
じっ、と発表を待つサラ。
キョウが口でドラムロールを鳴らす。
「どるるるるるるるる――じゃん! 『快活な子』!」
「……」
「……」
辺りが急にしん、と静まり返る。
「……? さっき聞いたけどあたし」
「さっき言いました、俺」
「さっき言ってやがりましたねぇ。後付けてたのでわたくしも聞いてましたが。なんですのっ! あたくしのアドバンテージ何も無いじゃない! どういうことなのよせっかくお昼休憩と放課後潰して調べまわったのに!」
地団駄を踏むキョウ。その姿からお嬢様の気品を見出すのはやや難しそうだった。
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