第十四話 キョウのプラン

 夕焼けにさらされて金色の髪の毛が黄金色に輝いている。それと同じくらい表情は自信に満ち溢れている。


 それとは対照的に話しかけられたミズキは仰々しい呼ばれ方に驚いているようだった。

 

「ミズキ……様? ってか初対面じゃないでしょ。お昼会ってたし2人」


「関係性という意味では初対面でも2回目でもさして変わりはありませんわ? それに、あなたと違ってあたくしは"慎み"があるので!? 一度会ったからってみだりに馴れ馴れしくしたり致しませんわ?」


「あんま自分で言わんよね。慎みあるって」


 一方的にサラを敵視するキョウ。どうやらサラを相手にすると冷静ではいられないようだ。所在なさげなミズキの視線に気がつくと、キョウはオホンと咳打って視線をミズキに戻す。


 にっこりとした笑顔をミズキに向ける。。そのどこか威圧感のある笑顔にミズキはたじろぐ。


「どうも。改めまして、あたくし沢木家の長女、京と申します。お昼に会った時はお二人の時間を邪魔してしまって失礼致しましたわ?」


「あ……ええっと、別に邪魔は……」


「申し訳ありませんわ? わたくしとしたことがあの時はこのはしたない女に魅入られてしまった悲しき殿方としか認識しておりませんでしたので。あの時のあたしは忘れてくださいまし。ねっ、ミズキ様っ?」


 跳ねるような甘ったるい「ミズキ様っ」にどこか意図めいたものを感じとるサラ。

 かしげる首の角度も、ミズキに送る上目遣いも彼女の計略のにおいに付き従っているように思えた。


(んー、なるほどなー)


 なんとなくキョウの計画に勘づくサラ。

 

「なーんか癪な呼び方。じゃない? ミズち」

「ど、どうだろう、喋り方は個人の自由だし……」


「あたくし勘違いしておりましたの。人けの少ない中庭で2人してお食事だなんて、どこの誰が見てもお付き合いしていると思うじゃありませんか。それがまさか、このはしたない女をして純な異性交友に終始しているだなんんて、あたくし夢にも思っておりませんでしたわ」


「しつれーな。あたしだって守るところは守りますよーだ」


「ということは、あたくし考えたんですの」


「何を?」


 大手を振って答えるキョウ。

 背後の夕焼けに晒されて2人には彼女が眩しく見えていた。


「そこのはしたな女に目を付けられた哀れな殿方を救えるのは、あたくし以外におりませんわ、と」


 夕焼けと同じくらい熱い視線がミズキに送られる。

 学校のナンバー2としての矜持だろうか、その視線には絶対にものにしてやるという決意が現れているように見えた。


「付き合ってないなら、まだ助けられるチャンスがあるはずですわ。ね? ミズキ様? まだあなたの心はこの女に染まってないのでしょう?」


「そまっ……っ!? い、いや、そういうのじゃ……なくてですね俺は」


「遅ればせながらあたくし、沢木京。ミズキ様のお彼女に立候補させて頂きますわ」


「お……お彼女……」


「……ほー」


 ほぼ告白のようなことをするキョウに対して、なおもサラは笑みを湛えたまま彼女の同行を伺っていた。

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