第七話
「それで? 結局どうなったん?」
「彼氏、連れてくるって豪語してたっけど」
翌日、昨日の出来事を教室でカナとユイに話す。
「ま、特に進展はナシってカンジかな?」
結局そのあとも普通に会話しながら帰るだけで告白には至らなかった。
なぜ告白しなかったのかはサラには自分でもよく分かっていないところだったが、少なくとも靴下の水没から守ってくれた感謝はミズキに感じていた。
あの時の、荷台に座りながら見る自転車を引くミズキの姿を思い出して、サラは宙を見やる。人は、合羽を着るとその魅力が半減しがちな種族ではあるが、あの時のミズキはせいぜい3割減に留まっていたと思う。
あの時感じた感情が果たして何だったのか、今考えてみてもよく分からない。思うのは、自分が座っているものが人力で動くのはなかなか珍しい体験なのかもしれない。
小さい頃父親におんぶしてもらいながら階段を駆け降りてもらった時の感覚に近い。人力由来の不安定な動力に身を任せる感覚というものは普段生活をする中でなかなか感じることはない。水たまりができるような歪んだ地盤を通るということもあって、余計えも言えぬ感覚に陥った、ということだろう。
まさしくエモ言えぬ感覚というやつだろう。サラは自分で自分の考えに納得する。
近いところで言えば吊り橋効果に近い。
すぐ下に水たまりがあって、1人の男が引くがたがた揺れる自転車に乗っていることでドキドキしてしまったと、そういうワケだろうと考える。その理屈ならば合羽を来たミズキの魅力が3割減に留まっていたことにも説明がつく。
何が言いたいかというと、つまりは、
「意外にアイツ、やりおる」
「ライバルだと認める主人公キャラ?」
「恋愛においてもそれってあんの?」
正直なところ、サラは甘く考えていた。それはもう最初から、相手が煩悩に塗れた男で、自分は現代に生まれた奇跡の激カワモテ女子と錯覚してた時点でこの結果になるのは明白だった。
何の策も弄さず、ただ近くで何度か話すだけで男という生き物は自分のことを好きになるとプログラムされていると思っているフシがあった。そしてそれは、他のおおむねの男子では順当に当てはまっているように思える。
それが、ミズキだけが他の男子と比べて特別なのだ、とサラは認識を改めるに至った。サラの魅力を受けて精神を保てる強靭な精神力は、彼女をして褒めてつかわすべきだと考える。
「カナもユイも気をつけてね、アイツそんじょそこらの男子じゃないから」
「よく分からんけど、すっかり危険人物扱いになってんね〜」
「自分の色香が通じない男がそんな怖いかね?」
「そういうワケじゃ無くてさー、なんか、出会ったこと無いタイプなんだよね。ほらアタシって、モテにモテるじゃん?」
「そこに異論は無いけど、言い方死ぬほどウザいわ」
「道ゆく男子サラのことしか目に入ってないしね。今こうやって話してる時もだけど」
「でもさ、あたし中学の時そんなじゃなかったっていうか。高校に入ってからなんだよね、こんなにモテるようになったのって」
「え、そうだったの?」
「てっきり生まれた時からそのスタンスなんだと思ってたわ」
「うん。そう。モテようって意識し出したのが高校入ってからだったから。そしたら異様にモテちゃって。学校全体があたしを巡って冷戦みたいな状況に陥ってるワケなんだけど。だから“こう”なってからあたしと話す男子って、ほとんどおんなじような反応するんだよね。あたしの気を引こうとしてヘンに格好つけたり、大声で存在をアピールしたり、おもしろ人間気取ってみたりとかさ」
「あ〜いるいる付け焼き刃でモテようとしちゃうヤツ」
「そんな意識されたらこっちが対応せんといけんくなるやつやん、ってヤツね」
「んーただ、ミズキくんの場合自然っていうか、少なくともあたしが観察してる中だと、あたしだからって特別に対応変えてる様子が見受けられないって、そんな感じがするんだよね」
「目の前の男子を絶対格好つけさせる女が言うことは違うな」
「じゃああれは? あんたと喋る時の最初に絶対『あっ』って付けるやつは?」
「あれはオタク仕草じゃない?」
「あれはオタク仕草だろうね〜」
「あれはオタク仕草か、納得」
腕を組んでうんうんとうなづきあう3人。
「ということで、一筋縄ではいかない男子だということが少なくとも分かりましたよってことで」
「ふ〜ん。それで、どうすんの?」
「彼氏にすんの、諦めるカンジ?」
サラにとって、ミズキは特段固執する必要性が無い男子である。
きっかけは逆ハーレムを作ろうと思い立った際、他の男子を焚きつけようと画策した際の相手だった。優しそうで怒らなさそうで人畜無害そうだったので、一時的に交際する相手として申し分無かったという理由もある。
しかし、そんな踏み台に過ぎなかった相手に意外にも手こずっているという現状がある。
踏み台役に他の男子を当てがってもなんら問題ないことはサラもすでに気がついていることだった。適当にそんじょそこらの男子手篭めにして他の男子を焚き付ければ今からでもすぐに逆ハーレムを形成することは容易だろう。目的から考えればそれが1番目的の達成に近いとすら思える。
「え? なんで?」
サラはあっけらかんとした表情で、ユイの疑問にたいして逆に疑問を呈した。
「あたし、諦めるの嫌いなんだよね。一度ものにするって決めたんだから、絶対にあたしのものにするよ? ミズキは」
「アマゾンの女戦士のスピリット受け継いでる?」
「ま〜、アンタはそういうヤツだよね〜」
サラの反応に予想通りと言わんばかりに苦笑いする2人だった。
「おはよう」
その声に、サラ、そしてカナとユイも振り向く。
声の主はさも当たり前のように、友達に浅野挨拶をするように手を振ってサラの横を通過しようとしていた。
「あ、おっはーミズっち。靴乾いたー?」
「あっ、うん。おかげさまで」
「おかげさまって、あたしなんもしてないんだけどーウケる」
「あ、あはは……サラさんはあれから帰り大丈夫だった?」
「ぜんぜん? マジやばいよウチの前こ〜んなでっかい水たまりできてたから。あれやばいよね? ウチの街の地面どうなってんのて話」
「あ、そうなんだ。でも……あれだね、家の前で良かったね」
「まねーすぐ帰れたし。ミズっちもまた雨の日一緒に帰ろうねー」
「えっ、あっ、それは……まあ成り行きだよね、あはは……」
昨日よりも若干会話が続くようになっている2人だった。
そしてなんとなくではあるが、サラの声が昨日よりも少しだけ大きくなってないか? と疑うカナとユイだった。
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