第五話
窓の外は大玉の雨粒が地面を打ちつけている。
七限目の授業を終え、ホームルームも終えたクラスは、緩やかに流れる雨の中で放課後を過ごしている。
サラは帰宅部なのでいつもはそのまま帰宅する流れなのだが、降り止まない雨を前にゆったりと引き伸ばされた時間をぼーっと机で佇んでいた。
「雨ってさー」
隣にいるカナとユイに話しかける。
「なんかやる気無くなるよねー」
「分かる〜。全てにおいてダルくなるよね」
「低気圧マジうち無理だから殺意覚えるレベル」
グラウンドを打ちつける雨は地面の形を変えていき、ところどろこクレーターのような大きな水たまりができている。あれをローファーで歩くと思ったら想像するだけで身震いしてくる。通学路にも雨の日はあれくらいの水たまりができる道路があるので、傘を差すとは言えども家に帰るにはそれなりの濡れる覚悟がいりそうだ。ただ帰るだけの時間に相応の覚悟を求められることがすでに億劫で、帰りの準備はできているというのに足どりが重かった。
「ってかさ〜、サラ姫、ミズキは結局どうなったん」
「あ、そうそう。お昼休憩も失敗したんでしょ?」
「んー、まあ、順調に攻略中ってとこかな?」
「図書室で窒息死させるところだったって言ってたけど」
「あんた、また殺そうとしたんか?」
「むぅ……あれはあたしとしたことが、ちょっと手際を間違えてだわね……」
湿気にやられた髪をかいて不満を漏らす。
まさか口を押さえると呼吸ができなくなるとは、盲点だった……と反省するサラ。
しかし、だ。何もあんなにも怒らなくても良いではないかという気持ちもある。可愛い可愛い女の子があなたを落とそうと躍起になっているのに(その後すぐ振ることは今は言及しないでおく)、逆ギレされるとは如何なものだろうか。
朝からの、もっと言えば昨日からのミズキとの接触の中で、サラは恋愛というものの難しさを痛感しつつあった。
「男子落とすのってさ、もしかしてあたしが思ってる以上に難しかったりする? 結構アピったはずなのになんかどんどん遠ざけられてるような気がしなくもないんだけど」
昼休憩から戻ったあと、午後の授業でもついぞミズキと目が合うことは起こらなかった。いくらこちらからじーっと見つめても先生に「遠藤さんなんで後ろの方凝視してるんですか……?」と注意を受けるまで見つめても返ってくることはなく、一方通行の視線をそろそろ返してほしいくらいだった。
「あのね〜、平成の暴力ヒロインよろしく、罵倒することがコミュニケーションだと思ったら全然見当違いだからねそれ」
「でも普通の男子だったらそれでも落ちんだけどね〜、サラが可愛いのは疑いようのない事実なワケで。ミズキっちが究極的なシャイで奥手な女子慣れしてないボーイだったってことで」
「むぅ、モテに関しては究極生命体であるところのあたしをしてこんなに手こずらせるとは。見る目があるな」
「そのうち考えるの止めそー」
「生物と鉱物の中間になって宇宙空間を漂ってそう」
「しかぁし! 今日でミズキくんのことはいろいろ分かったかんね。タイプも好みも完璧に把握したから、もう絶対に逃げられはしない。明日またここに来てください。本物の彼氏ってやつを見せてあげますよ」
と言ってニヤリと眼孔を光らせた。
「うわ、明日までに彼氏にする宣言……アツいね〜」
「っとか言ってたら、あれ。ミズキ帰りそうじゃね? ほらほらサラ! 行ってきなって!」
ユイがミズキが席から立ち上がって下校しようとしているところを指差す。
「あっ、あたしの獲物」
慌ててカバンを持って立ち上がる。
「じゃね、また明日。良いもん見せてやっかんな!」
二人にウィンクしてミズキの後を追うサラだった。
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