第5話 追っ手がきた!
リリィは何度も振り返った。
あまりに長い時間、絶望の中を生きていた。陽の光さえ忘れてしまいそうなほど。
ヘンリー・トンプソンは山上の宮殿へと戻ってゆく。エズラを
山のふもとには
「あなたに会うのをずっと待っていたのよ、リリィ」
女が言う。
鳥肌がたった。まるで何もかも見透かされたような気分だ。
アイダと姪のメトシェラは小屋の中に招じいれて食事をさせてくれた。
山羊のミルクと小麦でつくったおかゆは独特な味がする。食卓に桃がのっているのが嬉しかった。甘く、みずみずしい匂いがする。ひとくち口にするだけで、体全体のかわきが癒されるような気がした。
メトシェラはほんの15歳くらいの女の子だ。かなりの美少女だった。叔母と同じ褐色の肌をしている。アーモンド形の目はきつい印象を与えがちだが、長い、愛らしいまつ毛がそれを
内気なのか、ちらちらとリリィを見るだけで話しかけてはこなかった。叔母を尊敬しているのだろうか。同じ真っ赤なスカーフを肩にかけている。
「旅はこの三人で行くわ」アイダが切り出した。「護衛はつけない。私とメトシェラはドレントから来た
「男の子に変装するんですって?」
リリィがクスクス笑いながら聞く。
「ええ、あなた、痩せ細っているわ」
アイダが歯に
「きっと十五歳の男の子って感じになるわ。上手くいくわよ」
メトシェラが初めて口を開いた。耳に心地よい、
三人は日中は目立たない場所に身を隠して、
「アイダは美人だけど、一度も結婚していないの」
昼間の
「そうね、アイダってびっくりするくらいの美人だわ!どうして美人なのに結婚していないのかしら」
リリィがたずねる。
「アイダが魔女だからよ」
メトシェラがクスクス笑いながら答えた。
「魔女だから?じゃあ魔女はみんな独身なの?」
リリィがにっこりと笑う。
メトシェラは
「いいえ、結婚してる魔女だっている。魔女はね、結婚して誰かの妻にならなくても生きていけるのよ」
アイダが
「追っ手がきたわ。男が6人いる!リリィ、馬に乗って。先に逃げるの!」
アイダが慌てて言う。
「あなた達を置いていけないわ」
リリィが二人を見て言った。
「いいえ、行くのよ。あなたのために来たんだから。ヘンリー・トンプソンを裏切るつもりじゃないでしょう?あなたは王女なんだから……」
アイダに
男の一人がリリィの
しまいには追っ手を振り切ったものの、二人とはぐれてしまう。道は暗く、馬も疲れ切って玉の汗をかいていた。どうやらここはエイダの領地らしい。遠くに牛を家に連れて帰ろうとする農夫が見えた。リリィは馬の背からおり、干し草のわきに座った。ここなら身を隠せるだろうか。そんなことを考えていた矢先、兵士が二人、馬に乗ってまっすぐこちらに向かってくるのに気づいた……
もう逃げる体力も、戦う元気も残っていない。
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