第36話 お呼びします

 ———どうも、レイトです。


 ちょっと調子に乗って戦闘を長引かせたことを後悔しています。

 現在俺は、既に10回程度殺されました。

 何故かって?



 ———あの耄碌爺が俺どころかレイゼの言葉も聞きやがらないからです。



 もはやこのレベルは洗脳を受けていると言っても過言じゃないだろ。

 くそッ……アルテミスがいたらこんな狂犬爺なんぞ片手間で相手出来たってのに。


「お、おい、話を聞けよ!」

「フーッ、フーッ……ウルァアアアッ!!」


 襲撃者が持っていた2刀の短剣を駆使して説得を試みるも……返ってくるのは荒い息と獣のような咆哮のみ。

 更に、咆哮と共に自身の身長と同じくらいの大剣が俺の眼前に迫る。


 ああ……くそッ……。


 俺が盾にした短剣は2刀共々大剣が触れると同時に木っ端微塵に砕け散り、俺の身体を両断する。



 ———暗転、覚醒。



「———うおっ!? おい、蘇ったタイミングでの攻撃はズルいだろ!!」


 意識が覚醒した俺の眼前には、既に大剣が嵐のような猛威を誇る風切音を伴って迫っていた。

 咄嗟に魔力を拳に込めて大剣の腹を思いっ切り殴りつつ、剣の軌道上から身を引く。

 同時に俺は涙目で叫ぶと。


「何なんだよ、マジで何なのよコイツ! おいレイゼ、頼むからお前がコイツの主人なら助けてくれよ!」

「そ、そんなこと言われても……っ、ああもう良い加減話を聞きなさいよ! 何で私の言葉も聞いてくれないのよ……ッ!」


 レイゼも涙目で必死に呼び掛ける。

 しかし全く聞く反応もないため……顔をこれでもかと歪めて声を荒げるレイゼ。

 血をダラダラ流しているのに可哀想……とか思ってたけど、自分はもう何回も死んでるやんとスンってなる。

 てか……。



「———これ、絶対【狂戦士化バーサーカーモード】じゃん! 理性なくなる代わりに全ステータス爆上がりするチート能力じゃん!」

「ウゥ……ガァアアアア!!」

「ジジイがこんなの使うとかダメだろ、血管切れて死ぬぞ。てかそれより……誰かコイツ止められる人いないの!?」


 

 マジでコイツ強すぎるんだけど!

 体感ダイヤウルフより強いとかコイツ本当に人間かよ!?


 俺は次から次へとポキポキ木の枝でも折るようにガードした短剣を破壊していくハイゼルに戦々恐々していると……ふと妙案を思い付いた。

 これが上手くいけば、ワンチャンこの爺を抑え込める……はず。

 その妙案とは……。



「レイゼ、例の本を渡せ! 今から初代当主を召喚してこの馬鹿を抑えてもらう!」



 初代当主の英霊にこの耄碌爺をボコボコにしてもらうことである。

 英霊ならば、人間とは基本ステータスが違うので片手間で抑えれるはずだ。


「え!? い、いやでも……」


 流石に封印を解くわけにはいかないとばかりに躊躇う様子を見せるレイゼ。

 まぁ何で封印されていたのかは原作でも語られてないから分からないが……家を守っているアルテミスをここに呼ぶわけには行かないので、ここは何としても俺達だけで対処しなければならない。


 何て考えていると。


「ォォォォオオオオオオオッッ!!」

「ッ!? ……———ぷはあっ! え、魔力で防御してて瞬殺とは何ぞ?」


 理性を失ったハイゼルが、瞳どころか全身を真っ赤に輝かせて、大剣を薙いでいた。

 ブオッッ!! という風切り音が俺の耳朶に触れたかと思えば———蘇っているではないか。

 そのあまりの早業に、流石の俺も空気を読まずにきょとんとしてしまう。


 あの……俺、カンストなんですけど。

 これでも一応、人類の最高到達点なんですけど。

 何故に一瞬で殺されるんで?


「ああもう早く召喚してくれよ! マジでもうそろそろ限界だから!」


 ちなみに限界とは、襲撃者達が落とした短剣がなくなる、と言うことである。

 流石に素手だと一撃毎に死んでしまう。

 そんな死にゲー、あのチート騎士との戦いだけで十分だ。


 ———と、言うことで。




「———悪いな、レイゼ。もう疲れたから俺の労力削減のために召喚させてもらうぜ☆」

「あ、ちょっ———」




 後で適当に英霊をレイゼに押し付け……もとい返せば大丈夫だろ的なノリで、俺は一瞬でレイゼの手から本を奪うと。




「———初代グレイシャー家当主、フリルレル・フローズ・フォン・グレイシャー。我が召喚に応じよ———【英霊召喚】っ!!」




 そんな詠唱と共に、手元の本が勝手に開いてバラバラとページがめくられ……とあるページで動きを止めると———膨大な魔力による眩い光に包まれる。

 これには流石のハイゼルも動きを止め、真っ赤な光を灯した瞳を本へと向けた。

 そして———。





「———封印された妾を呼び出したのは、其方じゃな?」





 顕れたのは———銀色に輝く長髪の美女。

 圧倒される美しさを身に纏いないながらも何処か儚く、それでいて情欲を唆られる妖艶な美女。

 本当に意味分からないが、白を基調とした花の模様の着物に身を包んだ美女———フリルレル・フローズ・フォン・グレイシャーの銀色の瞳が此方向かうと……楽しそうと言うか獲物を狙うようというか、とにかく身の危険を感じる視線を感じた瞬間。





「———どうじゃ? 妾と少し馬鍬まぐわってみる気はないか? 英霊と馬鍬った者は勿論死ぬがの」

「お断りします」

 

 

 


 俺は、心底召喚したことを後悔した。


—————————————————————————

 新作上げました。

 この作品も頑張るので是非見てみてください!


『一般兵士が転生特典に『無限再生』を貰った結果、数多の美女に狙われた』

https://kakuyomu.jp/works/16818093083154794710

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