第35話 恐怖(レイゼside)
———インテリ仮面は弱い。
世間に疎いはずの私———レイゼ・フローズ・フォン・グレイシャーでも知っている結構有名な噂。
何でも、いつも1番前に出ているくせに戦うのは専ら女の方ということで……インテリ仮面より名もなき女義賊の方が民衆の人気を博している。
実際私が騎士達をけしかけた時も女義賊だけが動いて、インテリ仮面は棒立ちしていたし。
しかし———それは事実なのだろうが、完全に合っているわけではないらしい。
「———おいおいこんなもんか? もっと頑張ってほしいな、ガッカリだ」
「ぐっ……このっ……!!」
これ見よがしにため息を吐いて肩を竦めるインテリ仮面の挑発に乗った1人のゴツい襲撃者がインテリ仮面に向かって拳を撃ち抜く。
その拳には漆黒の膨大な魔力が纏われ、大抵の防御魔法なんかは紙のように壊されてしまうほどの魔力量だった……はずなのだが。
「———おい、そんな気持ち悪い拳を向けるな。アリスに『また汚したんですか?』って怒られちゃうでしょうが」
「———ッッ!?」
それを魔力も籠もっていない素手で受け止め、挙句の果てに怒りの頭突きをお見舞いした。
襲撃者も鼻っ柱に直撃したせいか声にもならない悲鳴を上げて悶絶しながら地面に倒れ込む。
インテリ仮面はそんな襲撃者をゴミを退かすかの如く足で蹴り上げ、
———ゴシャッ。
鼻を押さえる男の顔面に拳を叩き込んだ。
耳を押さえたくなるような骨が完全に粉砕する音と共に、インテリ仮面より大分大柄な襲撃者は吹き飛んでいった。
「あ、ちょっと力加減ミスった。まぁいっか」
そう言うインテリ仮面の様子から、確実に彼は死んだだろう。
インテリ仮面……いえ、レイトは私と同年代のはずなのに容赦がない。
一体どんな人生を歩んできたら、彼のようになるのだろうか。
小耳に挟んだ情報だと、レイトは両親と絶縁したとか何とか……それが本当かは眉唾ものだが、とてもじゃないが普通の貴族子息とは何かが根本的に違う。
彼のおちゃらけた何とも緊張感のない雰囲気は、何かを隠している気がする。
何て思考を巡らせる私の目の前で、レイトは相変わらず緊張感ゼロの様子で襲撃者達に大立ち回りを繰り広げていた。
「だからその気持ち悪い魔力を当てようとすんな! ほんと、魔法じゃない純粋な魔力って洗濯じゃ中々落ちないんだぞ、特にそんなドス黒いヤツは!」
「こ、コイツ……舐めやがって……ぐふっ!?」
「囲め! 同時に攻撃すれば奴でも———ぁぁぁあああああッ!?!?」
「う、腕が……腕がぁぁぁぁ……!!」
「う、うわぁぁああああああ!?!? 止めてくれ、足を踏む———ッッッッ!?」
彼は本当に意味の分からないことで怒り、真正面から蹴りを繰り出す者にカウンター気味の掌底を叩き込み、指示を出す者の顎を回し蹴りで粉砕させ、短剣を握った男の腕を手刀で切り飛ばし、恐れ慄いて尻もちを付く者の機動力を奪うように脛を踏み潰す。
もはや、一方的な戦いだった。
襲撃者達は、私の時とは違って全員が圧倒的な強さのレイトの様子に恐怖の表情を顔に貼り付けている。
そして、そんな彼らの様子など知ったことかと言わんばかりに、レイトは私から離れ過ぎない範囲で襲撃者達を手玉に取る。
私はそれをまざまざと見せつけられ……言葉も出なかった。
否。恐怖で声帯が震え、言葉とならない吐息だけが吐き出されるのだ。
あんなに軽い様子で人の命を奪い取る彼の姿が。
いつまでも耳に残りそうな襲撃者達の絶叫と骨が砕け散る音が。
部屋中に飛び散る真っ赤な鮮血が。
その全てが私にとって初めての体験で……どうしようもなく身体が竦んで、自分の身体が自分のモノではないような気がしてならなかった。
ただ恐怖に呑まれ、その場でぺたんと座り込む私の前では、遂に最後の襲撃者がレイトによって首を掴まれていた。
「ぐっ……な、何のつもりだ……」
「いや……ちょっと確認? お前———」
私には聞こえなかったが、レイトが何かを襲撃者の耳元で囁くと同時。
「ッ!?!? な、なぜ貴様がフ———」
———パァァァァン!!
襲撃者が驚愕に目を大きく見開き、何かを言おうとした瞬間———襲撃者の頭が突如風船のように弾け飛んだ。
真っ赤な血がレイトを染め上げ、死体となった襲撃者の身体が落ちる。
静まり返る空間に充満する、むせ返るような血の臭い。
レイトは暫し無言を貫いていたが……やがて小さくため息を吐いた。
「…………チッ、これもゲームとおんなじなのかよ……」
どこかゲンナリとした様子で呟いた彼は、服の血のついていない部分で顔に散った血を拭いつつ、此方に向き直った。
自然と私の身体が引き締まる。
恐怖で身体が私の意志関係なく震え……そんな私に、困惑の表情を浮かべるレイトが。
「お、おい……一体どうし———」
「———お嬢様、ご無事ですか!?」
タイミングが良いのか悪いのか。
私達の下に、この家最強———ハイゼルが血相を変えて現れた。
そして、私とレイトを眺める。
———戸惑う血塗れのレイトと、恐怖に身体を震わせ、瞳に恐怖の色を宿した私を。
「「「……………」」」
私達は暫し時が止まったかのように固まり……最初に声を上げたのはハイゼルだった。
ハイゼルは顔に影の差す笑みを浮かべ、すっ……と剣を鞘から抜き放ち、
「———ひょっひょっひょっ……インテリ仮面。これはこれは……この爺に、お嬢様に何をしたのか教えてもらおうかな??」
「ご、誤解です!! そもそもアンタと戦ったら俺が80%負け———」
必死に説明しようとするレイトを睨みつけると。
「問答無用ーッ!!」
「問答無用!?」
私が静止の声を上げる前に憤怒の表情を浮かべて、あんぐりと口を開けてあまりの展開の速さについて行けていないレイトと激突した。
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ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
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