第34話 大立ち回り
「———せりゃ!」
「かはっ……!!」
自分で言うのも何だが……何とも気の抜ける掛け声と共に、俺の掌底が直撃した黒のバトルスーツみたいなのに身を包んだ襲撃者の1人は一瞬で意識を失い、膝から崩れ落ちる。
鳩尾を狙ったので比較的声も小さくて済んだ。
「ほらほらこれが手に入れたいならもっと来いよ、幾らでも相手してやっからよ!」
俺は意識を失った襲撃者をお仲間の下に蹴飛ばした後、数十人といる襲撃者にとある本を見せびらかしながら告げる。
とある本とは———勿論英霊が封印されている本だ。
あのメイドに思いっ切り啖呵を切った俺は、最速で地下に飛び込み、必死に本を襲撃者から死守していたレイゼに助太刀すると共に、本を手に入れたのである。
現在レイゼは、俺の後ろで止血をしており……正直戦えなさそう。
「……貴方、どうしてここに……」
「お前は外知らねーだろうけど、外も無法者達が押し寄せて大変なことになってんだわ。そんでブチギレた俺が、メイドさんからのお願いを聞き受けて今ここに居るってわけ、オーケー?」
大分手短に説明する俺に、レイゼは困惑気味に頷く。
「ま、まぁ分かったわ、助太刀感謝するわ。これが終われば、グレイシャー家を上げてお礼をさせてもらうから」
「それは嬉しいこった」
俺はけッ、と笑みを浮かべて辺りに視線を移しながら思考を巡らせる。
地下室なだけあって随分暗いし狭いな……広さは大体30畳も無いくらいか?
暗さは一応カンストの俺には大して意味はないし……ま、1対多で戦わないといけない俺にとっては結構有利な場所だな。
特に後ろは壁だから襲われる心配も少ないし。
でもコッチにはお荷物たるレイゼと本がある。
レイゼは全身の至る所から血を流しているせいか息が荒く、今にも気絶してしまいそうな危うさの上でギリギリ意識を保っているようだった。
というか下手したら出血多量で死にそうだ。
ただ、本気を出せば俺のせいでこの豪邸全てが崩れ、地下にいる俺達は確実に生き埋めになる。
俺は数多のチート主人公のように何かやっちゃいました系ではない。
自分の力量はしっかり把握している。
だからこそ、正直この襲撃者達は大して敵じゃないと直感で分かった。
正直俺がガチギレしてぶっ殺したダイヤウルフの方が100倍以上強い気がする。
あの時は全身を突き刺すような殺気と威圧で身体の芯から竦み上がった。
マジで生きた心地がしなかった。
つまりは手加減しつつ、本とレイゼを護りながら最短で全員ぶっ倒さないといけないわけか。
…………くそめんどいなおい!
「はぁ……やべぇ、もうダルくなってきた。てか普通にこういう戦いって大嫌いなんだけど」
「誰かと思えば……貴様が最近巷で少し有名になってきたインテリ仮面か」
俺が中々に縛りプレイを強要されてゲンナリしていると、リーダーらしき男が俺を鋭く睨み付けながら言って来た。
どうやらこんな奴らにも知られるほど俺の知名度は上がっていたらしい。
ヤバい、何かちょっと嬉しい。
「ふっ……遂に俺もその領域まで行ったか。ああ、お前の言う通り、俺が巷で超有名なインテリ仮面である!」
「ふんッ、ただのコソドロか。隣の女が居なければ何も出来ないくせに調子に乗っているあのインテリ仮面か」
「おっと、舐められてますね、ぶっ殺すぞこら」
てか俺ってそんな風に思われてたのかよ。
確かに依頼の時もアルテミスの方に尊敬の瞳を向ける奴が多かったけど!
俺が意図もしない精神攻撃にテンションが落ち込みまくっていると。
「———く、来るわよ!!」
レイゼの鋭い警告の言葉と共に、3人の襲撃者が飛び掛かってくる。
それもそれぞれ真正面と左右から、懐から取り出したらしい魔力が籠められた、何だか禍々しい短剣を握って。
殺意マシマシで草。
うーん……相手も殺る気らしいし、コッチも殺っていいか。
俺は小さくため息を1つ。
次の瞬間———久し振りに殺気を撒き散らした。
———ドンッッ!!
ソレは、俺が誰かを殴ったわけじゃない。
何なら俺は一歩も動いていないのだから。
では何か?
———人が倒れる音である。
俺の殺気に耐え切れなかった者達が、一斉に意識を失って崩れ落ちたのだ。
総数で言えば……ざっと襲撃者の3分の2ぐらいか。
言うて残りもギリギリで意識を繋ぎ止めているといった感じで、マスク越しでも分かるほど苦渋に満ちた表情を浮かべていた。
「こ、コレ、は……」
「まぁ落ち着けって、レイゼ。ただ殺気を撒き散らしただけだって」
呆然と光景を眺めるレイゼへと肩を竦めた俺は、襲撃者達にクイクイと人差し指を動かして煽りながら言葉を紡いだ。
「———さぁ来いよ、俺の独壇場の上で面白可笑しく踊ってくれ」
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夏休みだし、出来るだけ頑張る。
9月終わるまでに20話目標で。
どうぞよろしくお願いします。
ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
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