第32話 どけ、インテリ仮面のお通りだ!!
———1つ、思い出したことがある。
それは———ゲームでのレイゼ・フローズ・フォン・グレイシャーが今ほどの権力を有していない、ということだ。
勿論それでも公爵家より下の貴族達にとっての力は絶大だ。
有象無象の貴族にやられるグレイシャー家ではない。
だが間違いなく、公爵家の中では1番下の地位に落ちぶれていた。
同じ公爵家の子息や令嬢たちに見下されたり露骨な扱いを受けたりする描写がゲームでも多々描かれていた。
公爵家の中で最も歴史が長く、この国の王家との親交が深いはずのグレイシャー家の令嬢が、だ。
その原因は———確か領の襲撃にあった。
襲撃をしたのは、500人以上にも及ぶ無法者達。
ただ、その襲撃事態が地位の低下を生む直接的な原因であるとも言えるが、違うとも言える。
ここで余談だが……グレイシャー家には、初代当主にして歴代最強と名高い氷魔法使い———フリルレル・フローズ・フォン・グレイシャーの英霊が眠っているという噂が民衆の間で存在している。
そしてこの噂は、噂にしては珍しく事実だ。
これによって、無法者達が何故領を攻めたのかが分かってくる。
話を戻すが……無法者達はあくまで陽動。
この襲撃を画策した黒幕は、無法者達をハイゼルや騎士達をグレイシャー家の邸宅から離すことに使ったのだ。
残念ながらハイゼルに勝てる人間は、この国の王族の専属護衛を除けば1人として存在しないためである。
そうしてハイゼルを家から引き離した後、黒幕の直属の部隊が屋敷に侵入し……初代当主の英霊が篭められた石を奪った。
これが、グレイシャー家の権威が落ちる原因となった事件であり、何故急に語り始めたかというと。
「———何で、それが今なのかね……」
今俺の目の前で、絶賛襲撃が始まっているからだ。
早速火災が起き、民衆達の悲鳴が熱風と共に俺の所までやって来ている。
ゲームではこの事件の詳細な日時は明かされていなかったので、まさか俺が家を立てて僅か1週間程度で起こるなんぞ思ってもみなかった。
そもそもそんな原作に関わる気などサラサラ無かった。
しかしながら、だ。
この領地に家を構えてしまった手前、この事件は他人事ではなくなる。
原作だから〜〜などと呑気なことは言えなくなる。
まぁつまりは———。
「———なに俺の家がある領に手ェ出そうとしとんじゃゴラァアアアアアア!!」
全員纏めてボコボコにしてやろう、って話だ。
「———アリスは此処で待機な」
「は、はいっ!」
「アルテミス、お前は絶対にこの家に誰も近付かせるな。今回は俺の家に危害を加えようとする輩は殺しても良い」
「ほう……まぁ君の指示に従おう」
大急ぎで家の奥底に仕舞い込んでいた仮面とローブを引っ張り出した俺は、2人に指示を出していた。
外は既に3分の1強が火の手に覆われ、刻一刻と民衆の悲鳴の声や逃げ惑う民衆達の地響きが大きくなっている。
そんな中、アリスは緊張した面持ちで頷くが……アルテミスは普段の5割増でキラキラとした輝かんばかりの笑みを浮かべている。
「随分と楽しいことが始まったじゃないか。それにしても……君は随分とお怒りのようだね?」
「当ったり前だろ、こんな奴らに折角のマイホームを奪われてたまるか。この領にはインテリ仮面がいるってことを思い知らせてやる」
「君はどうするんだい?」
「レイゼの屋敷に行って、適当に親玉ぶっ潰して帰ってくる。街のど真ん中にボコボコにされた親玉を放ったら無法者も逃げるだろ」
全く……折角自堕落な生活のスタートだったってのに……ホント困っちゃうわっ!
「君は……本当に面白いね」
「おうよ、最初から知ってる」
一瞬目を見開いたかと思えば、満足そうに笑みを深めるアルテミスにサムズアップした俺は、軽く跳躍して一気に家の外に出ると……仕方無しに公爵家の方向に足を進める。
勿論行きたくはない。
あの女を結果的に助けることになるのだって癪だし……そもそも俺は戦いだって大嫌いなんだ。
「おっと、こっちには行かせねぇぞゴラアアア!!」
「そうだそうだ!! 顔だけ良いいけすかねぇ小僧!!」
———が、腹立つことに無法者が俺の行く手を阻む。
片方は大剣を持った大柄な男。
もう一人は、双剣を構えたちょっと線が細い男。
2人とも20代前半と若いが、それなりに強そうな雰囲気を纏っている。
無法者のくせにいい武器を持っているのだって、きっとそれなりに実力があるからだろう。
しかしこっちだって伊達に数千回死んだわけじゃない。
凡人以下であろうと、そこいらの有象無象に負ける俺じゃない。
「———どけ! インテリ仮面様のお通りだっ!!」
さぁ、障害物全部ぶっ飛ばして行きますかっ!!
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新作上げました。
相変わらずコメディー要素もある何処か狂った奴が主人公の物語です。
是非見てみてください!
『裏方に徹する異世界勇者〜クラス転移されたので、大切な人達のために暗躍する〜』
https://kakuyomu.jp/works/16818093081204501240
ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
モチベで執筆スピード変わるので、続きが読みたいと思って下さったら、是非☆☆☆とフォロー宜しくお願いします!
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