第31話 なんてことない平穏

「———決めた、もう家から出ない」


 プールで2人の水着を堪能した数日後。

 俺は、超高級なふかふかソファーにすっかり骨抜きにされながら宣言した。 


 いや、もうホントに家から出たくないんだけど。

 外暑いし、出たら何か面倒なことが起こりそうだし、家が1番だよな。

 金だってあるから働かなくてもいいし。

 自堕落な生活最高。


「レイト様、どうして急にそんなことを言い出したのですか?」


 完全にインドア覚醒を果たした俺へと、料理していたアリスが不思議そうにひょっこりとキッチンから顔を出した。

 その手に持ったおぼんには、3人分の夜ご飯が乗せられている。

 どうやら今日の夜ご飯は俺が昔教えた『肉じゃが』らしい。

 

「おー、肉じゃがじゃん! 俺が教えたレシピ、まだ覚えててくれたんだなぁ」

「勿論ですよ、レイト様が楽しそうに教えてくださったのですから。それに、私もこのにくじゃがが好きですしね」

「なるほど……これがレイトの記憶にあった『肉じゃが』なるご飯か。思った以上に美味しそうだね」


 随分と健気なことを宣うアリスの横で、興味深そうに近付いたアルテミスが肉じゃがの匂いを嗅ぎながら小さく笑みを零す。

 俺はそんなアルテミスに言った。


「おいおい失礼な事言うなよ、アリスの飯がマズいわけねーだろ。普通に店開けるレベルなんだしさ」

「それもそうか。私もこればかりは勝てそうにないよ」

「こ、これくらい普通ですからっ! 恥ずかしいので止めてくださいっ」


 ほんのり頬を染め、可愛らしくプリプリ怒っているアリスを微笑ましく眺めていると。


「ところで……君は何で家から出ないなんて言ってなかったかい?」


 肉じゃがをつつきながらアルテミスが尋ねてくる。

 同じく肉じゃがをつついていた俺は、そう言えばそんなこと言ったな……何て思いながらも首肯した。


「ああ、うん言った。そりゃそうだろ、こんな快適すぎる家を持って金もあったら外に出る必要性なんざ微塵も感じねーよ。偶に旅行とか飯食いに行くくらいでいいわ」

「嫌だよ、私は。それじゃあ面白いことが起きないじゃないか。確かに君と一緒に暮すのも悪くはないんだけど……」

「ならいーじゃん。アリスもどうよ? 俺と一緒に自堕落な生活を送ろうぜ」

「ごめんなさい、レイト様。私はメイドですから、自堕落……というのは少々性に合わないんです。ですが、レイト様が家で過ごすことに文句などはありません。家に居てくださった方が、私も楽しいですし」


 あらやだいい子。

 ほらアルテミスもアリスを見習えよ。

 お前家事全く出来ないくせに態度だけデケーんだから。


「今君が物凄く失礼なことを考えてきた気がするんだけど」

「気のせいだろ。てか、アリスはどっか行きたいとことかやりたいことの1つや2つねーの? ずっとアリスには世話になってきたし、少しぐらい我儘言っても良いんだぞ?」

「い、行きたい所ですか……?」

「そそ、何かないん?」


 これは結構本気だ。

 アリスには本当に昔から世話になっている。

 だから過去も何度か感謝の気持ちに何か上げようかと画策したりしたのだが……自分のやりたいことなどはちっとも言わないからどうすれば良いのか分からず仕舞いないのだ。

 

 しかし、今の俺手には腐る程の金がある。

 何ならアリスも俺も無職……いや人生勝ち組街道をまっしぐらなので、時間だって自由で有り余っているのだ。

 

 ここは少しくらい無理にでもアリスのしたいことを訊いておくべきだろう。

 てかこっちが申し訳なくなる。


「そうですね……私の願いはレイト様が立派に成長…………あれ?」

「おい、今何を思ったのか聞かせて貰おうか」


 立派に成長してんだろうが。

 15歳にして億万長者、人類最強格、死なない、公爵家に貸しあり、民衆から大人気でそれなりにイケメン———何か思って以上に凄いぞ、俺。

 もしかして俺って、このだらけ癖を除けば……客観的に見たらとんでもない優良物件なのでは?

 今なら美女をナンパしても成功するのでは?

 俺の時代来た?


「ふふっ、そのだらけ癖が1番の問題なのですけどね」

「あのさあのさ、ナチュラルに心読むのやめて?」

「分かりやすいレイト様がいけないんですよ」


 俺の顔は電光掲示板ちゃうねん。

 顔に文字なんか浮かび上がらんて。


「ほ、ほら、俺の話は良いからアリスのしたいことだよ、したいこと!」

「話を逸らしたね」

「お前は黙ってろ、アタオカ代表……痛っ!? おい、テメェ何殴っとんじゃコラ! お前が殴ったら俺の身体は呆気なく折れるし消し飛ぶんだよ!」

「私をアタオカと評するな。大変遺憾なんだけど」

「ふふっ……あははははっ、あはははははっ!」

「あ、アリス……?」

 

 取っ組み合いを始めた俺達だったが、突然心底楽しそうに笑い始めたアリスの姿に毒気を抜かれ、思わず俺は彼女の名前を呼んでいた。

 そんな俺に、アリスは目尻に涙を溜めながら言った。




「いえ……本当に幸せだなって思いまして……ふふっ。多分、私はレイト様とアルテミス様と一緒ならどこでも、何をしていても良いんだと思います。それが———私の幸せですから」




 彼女だけは幸せにしようと誓った。


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 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

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