第29話 要求

「———それで……貴方達は私に何を要求するのかしら……?」


 やっと落ち着いたらしいレイゼが、シュンとした様子で言った。

 既に騎士や魔法士達はおらず、この場に残っているのは彼女の隣で佇むレバンと呼ばれた騎士1人だ。


「私達に出来ることなら、何でもするわ……」

「まぁそれが当たり前ですよね。そう言う条件で、俺はアルテミスの暴走を止めたわけですしね。さて、それじゃあ俺からの要求は———今後俺達に一切関わらないことと、今日の出来事と巷で有名な奴の正体が俺だと誰にも告げ口をしないこと。あとはまぁ……脅迫されて怖かったから賠償金でも請求しますかね」


 俺がそう言うと……レバンが激昂する。


「なっ!? ば、賠償金とはあまりにもおかしいではないですか! そちらの女が私達騎士団や魔法士達にどれだけ傷を負わせ、どれだけの武器や防具を壊したと……」

「いやいや元々強硬手段に出たのはそっちじゃん。え、もしかして、自分達は力ずくで問答無用に従わせるけど……それをやり返されたら不平不満を垂れると? ほえーーそれはそれは良いご身分ですねー」

「き、貴様———」

「レバン、ダメよ」


 俺がちょっとイラッとして思いっ切り馬鹿にしたように告げると、案の定レバンという男が飛び掛かろうとしてくる。

 ただ、それは俺が返り討ちにする前にレイゼによって止められた。


「し、しかし……」

「やめなさい、レバン。彼らの言っていることが正しいわ。私達が自ら戦いを仕掛け、向こうが私達の予想を遥かに上回る力で返り討ちにしただけ。今まで私達貴族が民衆や敵勢力にしてきたことをそのままやり返されたのよ、文句なんて言えないわ」


 どうしたコイツ?

 さっきと違ってめっちゃ頭いいし状況も把握できてるやん。

 てか貴族ってそんな殺伐としてんの? 

 そんな騒動がない俺の家ってどれだけ興味を置かれてないわけ?

 ま、あんな節約家なんて別に居た所で変わんなそうだししょうがないのか。


 1人で元我が家の無価値さについて痛感していると。


「インテリ仮面」

「その名前は止めてください、レイトでいいです」


 こんなシリアスな場面で『インテリ仮面』とか言われたら雰囲気ぶち壊れるから。

 あと、俺の咄嗟に出たネーミングセンスの欠片もない名前を何度も連呼されると普通に羞恥で死ぬ。


 ただ、この世界にインテリなんて言葉は存在しないため……俺の考えていることなどさっぱり分からないだろう。 

 証拠に、先程レイゼは真剣な表情で言ったし、今だって俺の言動に不思議そうに首を傾げている。


「そもそも貴女は俺の正体を知ってるわけですし、この場には貴女を除けばそこの短気おじさんしかいないですから」

「き、貴様、誰が短気おじさんだっ!!」

「「そういう所が短気おじさんと言われる所以だろ」」

「レイゼ様まで!?」


 俺とレイゼがハモって言えば、レバンが悲痛の声を上げる。

 どんまいレバン君、君に味方は居ないようだよ。


 レバンがレイゼに自らが短気でないと訴える傍ら、アルテミスが何とも言えない表情で俺に囁きかける。

 

「……君は、つくづく甘いね。敵の緊張を解すためにあんなことを言うだなんて」

「うっせ」

「レイト様は優しいですから」

「アリスもやめて。てかさっきから罪悪感でどうにかなりそうだったんだよ。アルテミスが加減というのを知らずにやったから」

「アレでも大分加減した方なんだけど……」


 これだから生粋の多重チート保持者は。

 てか『あれ? 僕何かやっちゃいました?』って、リアルでやられるとマジでウザいだけだからな。

 チートを持ってばっかの奴ならまだしも、アンタは数百年以上もチートと一緒だろうが。

 ただまぁ……。


「俺とアリスを護ってくれたことについては、感謝してる。……ありがとな」

「…………なるほど、これが———ツンデレと言うやつなのかな」

「ツンデレやめろ、2度と言うな」


 男のツンデレとかキモいだけだろうが。

 ううっ、何故か寒気が。


 何て1人でゾワッとしている俺へと、シュンと落ち込んだ様子のレバンを側に付けたレイゼが口を開く。

 

「貴方の要求、呑むわ。貴方の正体に関しても口外しないし、賠償金だって払う」

「そりゃ良かった。んじゃ、俺達は金を貰ったら帰りますね」

「ちょっと待ってて、お金を今から用意するから。……ところでどれくらい欲しいのかしら?」


 聞いてなかったと言わんばかりに尋ねてくるレイゼ。

 そして、適当に言っただけでどれだけ貰おうかさっぱり決めていなかった俺。


 さて、どうしようか……てな感じで内心困っていると。



「———それなら、家を用意してくれないかい?」



 俺に代わってアルテミスがそんなことを宣う。

 アルテミスの言葉に、レイゼはお金ではないことに、俺はまさかの助け舟に、それぞれ目をパチパチと瞬かせた。

 

「え……い、家? お金ではなく?」

「うん、私達はお金は持っているんだ。でも……家を立てたり土地を買ったりするのに証明証みたいなのが必要だからね。あいにく私も絶縁したレイトも、独り身のアリスも証明するものがない」


 家立てる時、証明証とか必要なんだ……。

 まぁ確かに最低限の素性は知らないと怖いもんな。


「でも、君の名義で作ってくれればその必要もないだろう? 私達もあまり名前を広めたくはないんだ」

「わ、分かったわ。でも……私の権限で立てるならこの領でないと無理よ?」

「それで構わない」

「なら———」


 俺とアリス、レバンを放って2人で話し込む姿を眺めながら、俺はポツリと呟く。

 

 

「———いや普段からその優秀さを発揮しろよ」



 アリスが大きく頷いた。


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