第27話 脅し返される馬鹿

「———は?」

「いやいや『は?』じゃないですよ。仮にそれをやったとして……一体俺等に何のメリットがあるんですか。大したメリットも感じないのに引き受ける馬鹿はとんでもないお人好し以外存在しませんよ」


 呆気に取られた様子で口を半開きにしたレイゼに捲し立てる。

 対照に、周りに控える騎士やハイゼルの気配がどんどん刺々しいモノになってきているが……知ったことか。

 幾らでも殺気でも敵意でも向けるがいいさ。


 何せ、こっちには世界ブッチギリ最強のアルテミスがいるんだ。

 それに俺だってアリスを護りながら戦うくらい出来る。

 ハイゼルはちょっと怪しいけど、流石にそこらの有象無象のモブ騎士に負けるほど弱くはない……と思いたい。

 

 余談だが、大したメリットも感じないのに引き受ける馬鹿とは、お人好し過ぎる主人公君のことだったりする。

 アイツは男女関係なく困っている人がいたら助ける善人の塊みたいな奴だから、この依頼だって原作では彼が引き受けるのだ。 

 よって、俺がこの依頼を受けるわけにはいかない。


 ———ここまで思考を巡らせたところで、レイゼが復活した。


「め、メリットって……アンタは正義の味方じゃないの?」

「正義の味方ですよ。でもだからってこの国を変える〜的なことはちょっと俺の守備範囲外ですね。そもそもそんな大規模なことしたら民衆は混乱しますよ。民衆は自分達に弊害がなければ何でも良いんですけど……そして貴女がしようとしていること事態がその弊害を生むんですよ」


 俺のように細々とちょいちょい盗みに入って金をばら撒いたりする程度なら、別に上が変わることも民衆の生活が一変することもない。

 しかしこの女のやろうとしていることは、簡単に言えば———変革だ。

 きっと上は大規模に変わり、民衆の生活は少なからず変化してしまう。

 民衆の中でその変化に対応できるほど裕福な者は早々いない。


「んで、俺はあくまで正義の味方です。貴女の様な裕福でちっとも苦労なんかしてなさそうな人間の味方ではないので」

「……っ」


 勿論、この女とて苦労はしているだろう。

 でも貴族の令嬢が命懸けの苦労はしていないはずだ。


 しかし———一般市民達は命懸けで今の生活を護っている。

 働かなければ死ぬし、苦労しなければ永遠に裕福になることなんざ出来ない。

 皆んな歯ぁ食いしばって生きてんだ。

 それを、貴族の中でも1番一般市民と過ごしていた俺は間近で見てきた。


 まぁつまりは———原作に関わりたくないし、それをやったら余計俺への依頼が増えそうだからパス。


「それじゃあ俺達はこれで」

「———ま、待ちなさい!! もし引き受けないなら正体をバラすと」

「出来ませんよ、そんなこと。だって———今この家全ての命はこの、頭おかしい代表の女に握られてるんですから」

「———なっ!? は、ハイゼル!!」

「はっ」


 レイゼは目を見開くと同時に、この家最強のハイゼルを呼ぶ。

 未だ衰えを知らぬ老兵は瞬きの内にレイゼの横に立ち、腰の剣を引き抜いた。


「ひょっひょっひょっ、そんなことが出来ますかな? この儂と儂が鍛えた兵が何百とおりますのに?」

「出来る」


 ノータイムで断言する。

 騎士達は勿論、ハイゼルとレイゼの間にも衝撃が走る。

 そんな奴らに俺は、もう仮面も必要ないし、仮面を外してドヤ顔で言ってやった。




「———アンタ等も、ちょっとウチのアルテミスを舐め過ぎだろ。テメェ等如き蚊を叩き殺すより簡単なんだよ!」




 …………決まった……!!


 バーンッ!! っと漫画だったら文字が付きそうな勢いの俺に、アルテミスがボソッと呟く。


「確かにそうだけど……まるで自分のことの様にドヤるのはどうかと思うよ。今の話的に君は何もしないじゃないか」

「シャラップ! お前、そういうのは思っても口に出すなよっ! 上手く行きそうなんだから一旦お口チャックしてな」

「私が黙ってたら舐められると思うけど」

「そこは俺の話術で何とかすんだよ」

「えっと……お2人共、声が大きいです……」


 いつの間にか言い合いに発展していた俺達に、アリスが困った様な苦笑を浮かべて指摘してくる。

 おっと、失敗失敗。


「悪いけど、今の俺とアルテミスの会話、今直ぐ記憶から消してくんね?」

「出来るわけないでしょ……もう良いわ。交渉決裂なら、この話が外部に漏れないように貴方達を此処で捕縛させてもらうわ。大丈夫、記憶を消したら帰してあげるわ」


 こ、コイツ……!!


「おい、何で俺よりコイツの方が脅しが上手いんだよ。アルテミスが居なかったら絶対ビビってたんだけど」

「レイト、君も少しは心の声を口に出さない方が良い」

「え、お前に言われるとか屈辱なんだが」

「ん? 何だって?」

「お2人共、言い合ってる場合じゃないですよ! ———来ます!!」


 そんなアリスの言葉に、俺はアリスの隣に。

 余裕の笑みを讃えたアルテミスは俺とアリスの前に。


 そんな俺達に騎士達が迫る中、ハイゼルに護られたレイゼに言い放った。

 



「———お前、絶対後で後悔すんぞ! 泣いて謝っても許してやんねーからな!」

 

 


 マジで、お前ら全員ボッコボコにしてやるからな!


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 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

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