第26話 返答

「———ひょっひょっひょっ、まさかインテリ仮面様も儂と同じ戦い方だとは……いやはや、通りで親近感が湧いたのですな」

「は、ははっ……まぁそうかも知れませんね」


 外観に違わず豪奢で天井が高い廊下。

 地面にはカーペットがひかれて居るにも関わらず、汚れ1つない。

 そんな廊下を歩く俺の横で朗らかに笑う老人———ハイゼルの話に適当に合わせつつ、内心ではキッチリと否定する。


 いやいや何が同じ戦い方だよ。

 こっちは死なないって分かってるし、そうしないと俺の実力とステータスじゃ勝てないからやってるだけだっつーの。

 アンタみたいに普通に怪我するし死ぬし実力もあるのに嬉々として突っ込んでるわけちゃうわ。


「確かに……2人は似ているね」

「…………」

「ひょっひょっひょっ、インテリ仮面様のお仲間にもお墨付きを貰えるとは、嬉しい限りでございます」


 俺がハイゼルにビビっていると分かった途端、此処ぞとばかりに弄ってくるアルテミスにハイゼルから見えない位置で睨みを効かせる。

 そんな俺の睨みを受け流しながら、アルテミスはクツクツと笑った。

 こ、コイツ……。


 俺が他人事のように笑うアルテミスの姿にギリギリと歯を噛んでいると、ハイゼルが表情を引き締めて立ち止まる。

 彼に続くように止まれば、目の前に3メートルほどある扉が佇んでいた。

 どうやらアルテミスを睨んでいる内に到着していたらしい。


「この先に、レイゼお嬢様がおられます。くれぐれも粗相のないよう……」

 

 いきなり口調を変えたハイゼルに多少違和感を覚えながらも、心の中で謝る。


 ごめんな、ハイゼル。

 これから粗相どころかお宅のお嬢様を脅すんだ。

 寧ろそのためにしか来てないから……アンタの言うような粗相のないよう、なんて不可能な話なんだよ。

 

「———それじゃあ、行こうか」

「はい……っ」

「何でお前が仕切るんだよ……」


 まるで自分がリーダーとでも言わんばかりに1番最初に扉を開けたアルテミスに苦笑しながら、俺もアリスも続けて入った。









 ———レイゼ・フローズ・フォン・グレイシャー。

 14歳にして当主を越える手腕を持つ天才。

 しかし見た目や使う魔法とは裏腹に大変な激情家であり、好きと嫌いをハッキリさせるタイプの二極化しかない面倒な女。

 しかし時に冷酷な一面も持っているため、ただの気分屋だと舐めてはいけない。


 まぁウチにはホンモノの気分屋で、気分1つで人を何千人も殺したりする奴がいるんだから、ソレに比べれば100倍マシだな。

 それでも十分関わりたくないんだけど……。


 そんな女が———俺の目の前にいる。


 当主の椅子であろう場所にふんぞり返った白髪の少女。 

 彼女の碧眼が俺達を射抜いていた。


「……本日は、お招きいただきありがとうございます」


 流石に直ぐに脅すわけにもいかず、渋々ながら挨拶をする。

 とゆーか、依頼内容を聞くまで一先ず脅すつもりはない。

 これでクソ簡単な依頼だったら脅す意味なんてないし。


「ええ、感謝しなさい。犯罪者である貴方をこれ程までに丁重にもてなす所は私以外居ないわよ」

「よし、今からコイツぶっとばそ———むごっ!?」

「静かにしていて下さいっ。今はまだ暴れない予定なのでしょう?」


 そうだった。

 そっちが呼んだくせにあまりにも舐めた口聞くから、ついうっかりいつものノリで飛び掛かるとこだった。


「すまん、うっかり」

「うっかりで飛び掛かろうとするのはやめてくださいっ!!」

 

 俺の口を塞ぐアリスに小さく感謝を告げると思いっ切りツッコまれた。


 いやまぁ普通はそうか。

 俺もあのアタオカ代表のどっかの女に犯され始めたのかもしれない。

 気を付けなければ。


 自分に言い聞かせている俺を『コイツマジか……嘘だろ……?』的な意図を強く感じる物凄い目で見てくるレイゼに、頭をかきながらヘコヘコ頭を下げる。


「すいません、つい普段のノリで……」

「あ、貴方達は普段からこんなことを……? 今のはとてもノリとか言うレベルの殺気ではなかったのだけれど……」


 おっと、中々に面倒な女がドン引きさせてしまった様だ。

 やばい、ちょっと凹む。

 でも俺達がヤバいと思い知らせるならもう少しやった方が良いかもしれない。

 牽制は大事って言うしね。


「いやまぁウチのコイツは頭がイッちゃってるで、それに合わせたら自然と……」

「君、随分と言いたい放題言ってくれるね? ここなら私が何もしないとでも?」

「「え?」」

「おっとやる気か? ここでやり合おうってんなら、勝ち負けがどうであれ、後で物凄いお仕置きが待ってることを忘れるな?」

「「えっ!?」」


 何やら外野が五月蝿い。

 あと何でアリスも一緒になって驚いてるのよ。

 ただ、これくらいおかしいってことを思い知らせれば、ワンチャンこの女も依頼を取り下げるかもしれない。

 そうなればラッキーだな。


 そんな思考の下、此処らへんで終わりにしようとする俺に。


「へぇ……勝つ自信がないんだ?」


 アルテミスがそんなことを宣った。

 此方を挑発するような笑みを浮かべながら。


 ……………。


「勿論ありますけど? お前に負ける気なんて1ミリもしませんけど?」

「ちょっ、私の家でなにおっ始めようとしてんのよ!! 止めなさい、今から国王に突き出すわよ!?」

「なら王国を滅ぼすまで、だよ」

「「「それは絶対ダメ」」」


 流石アルテミス。

 アリスとレイゼどころか、俺までも止める側に加勢させるとは。

 やっぱり本物のアタオカはレベルが違う。


 レイゼを牽制するどころか、こっちまで冷や汗をかく事態となって内心ヒヤヒヤしつつ、アルテミスをキツく言いつけながらレイゼに尋ねた。


「と、ところで、このインテリ仮面にどんな依頼をしたいのですか?」

「え、ええ、実は……」


 レイゼは自身の動揺を小さく息を吐いただけで抑え、告げた。




「———この国に巣食う病原菌みたいな貴族達に大ダメージを与えて欲しいの」




 なるほど、主人公に依頼するヤツですね。

 俺の予想通りで逆に安心したよ。


 ともあれ、この依頼ならば俺の返答は1つ。




「———嫌です☆」




 綺麗な笑顔で言ってやった。

 

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 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

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