第25話 そうだ、ラスボスいるんだし脅そうぜ
「———お2人にお話があります」
2日後。
無事アリスも合流して全員集合となった俺達は、夜な夜な作戦会議を行っていた。
場所はグレイシャー領の公爵家邸宅の近くにある1番高級な宿。
流石公爵領なだけあり、今まで泊まったどの宿とも比較にならない程に素晴らしい。
外観も内装もそうだが、飯はクソ美味いしベッドは異次元の寝心地だし、従業員も他とは別格の雰囲気と所作を醸し出していた。
「お話とは……やはりこの依頼ですか?」
アリスが神妙な面持ちで依頼が書かれた一通の手紙を取り出す。
そこにはしっかりと家紋が入っており、紛うことなき公爵家からの手紙だった。
内容は会ったからと言う話だが……まぁ大体分かってるので考えないことにしよう。
「そうそう。結論から言えば———従うフリして脅そうと思います」
「れ、レイト様!?」
「私は賛成だよ。面白そうだしね」
「アルテミス様まで!?」
お、やっぱりアルテミスは賛成してくれると思ったよ。
だって面白いことが大好きな、頭おかしい族筆頭だもんな。
そして俺は、度重なる死と貴族への制裁でちょっと感覚がバグっている。
あと人間の中に俺より強い奴が少ないのも大きな理由かもしれない。
だから、世間一般の常識を持ち合わせたアリスならば驚いて然るべきだろう。
「いやまぁアリスが驚くのもしょうがないと思うよ? でもさ、こっちには最強のアルテミスが居るんだし、逃げて追われるより脅してきっぱり断った方が良くない?」
「で、ですが……公爵家を脅すとなると国との戦いに……」
そう心細いと言うか不安といった感じを隠しきれない様子のアリスの肩にポンっと手を置いた俺は、安心させるような笑みを浮かべた。
「大丈夫だ、アリス。こっちには———アルテミスがいる」
「うん、頑張るよ」
「一体お2人のどこからその自信が出てくるんですかーっ!」
アリス、君もアルテミスの力を見たらきっと俺がこうなるのも分かる日がくる。
コイツに心配なんて無用どころか、相手にする奴が可哀想でしょうがない。
ごめんな、レイゼさん。
悪いけど今は、突然台風に巻き込まれたとでも思ってくれ。
そんで数ヶ月後に主人公から慰めて貰ってください。
「———とにかく! どうせ逃げても面倒なだけだし、アルテミスもいることだからいっちょ脅してやろうぜ! えいえいおー!!」
「おー」
「お、おー?」
こうして、俺達の作戦が決まった。
「待って、中身何も決まってないじゃん」
「「知って
「———ふ、ふっ……こ、この程度の豪邸なんぞに驚く俺ではない……ない……ないわけあるかっ!!」
「随分と長いフリだったね」
「ちょっと静かにして。それと、自分で滑ったのは分かってるから蒸し返さないでくださいお願いします」
「あの……レイト様もアルテミス様も目立ってますよ?」
数時間後。
万全の準備を整えた俺達は、歩いて数分の公爵家の豪邸の門の前へとやって来た。
そして目の前に佇む豪邸を例えるなら。
———豪華絢爛とか権威の象徴とかそんな感じ。
正直この家に王様が住んでると言われても信じるレベル。
銀色に輝く外装にハリボテ感や安物感は全くなく、一目見ただけで金掛けたんだと分かる。
「……ちょっと帰りたくなってきた。脅すのやめようかな」
「もう遅いですよ、レイト様」
「いやまだだ! まだ今直ぐダッシュで回れ右すれば———」
「———インテリ仮面様とそのお仲間の方々ですね。此方へどうぞ。レイゼお嬢様がお待ちです」
俺が回れ右をしようとしたと同時に、門の内側から白銀の甲冑に身を包み、胸にはグレイシャー家の家紋を入れた数十人の騎士と、それらを連れた1人の黒の燕尾服姿の執事らしき老人が現れた。
見た目はモーリスよりも老けている。
老けてるんだけど……何だろう、どこかデュラハンと同じ気配がする。
アルテミスと俺を交互に見て、瞳に喜悦を浮かべていたのが何よりの証拠だった。
…………待てよ、コイツどっかで見たことあるぞ??
グレイシャー家の執事で80代くらいの見た目の老人……あっ、思い出した。
俺は仮面の下で思いっ切り顔を顰めつつ、俺の推測が合っているか確かめるべく口を開いた。
「———これはこれはご丁寧にどうも、ハイゼルさん」
頭を下げながらチラッと執事の老人———ハイゼルに視線を向ければ、面白そうに笑みを浮かべた。
「…………ひょっひょっひょっ。この儂を知っているのですかな? 老兵たる儂を」
「はっはっはっ、御冗談を。グレイシャー家の狂戦士を知らない者はいないですよ」
そう、グレイシャー家のハイゼルといえば生粋の戦闘狂として有名だ。
レベルは140で、どれだけ傷付こうと向かってくる1番たちの悪い———ん? 俺はどうなのかって? 何のことかさっぱり分かりませんね———が間違いなく、アルテミスを抜いたこの世界最強の一角である。
「嬉しいのう……ひょっひょっひょっ」
「はっはっはっはっ……」
……ははっ、帰りたい。
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ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
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