第24話 それは流石に予想外だって
「———はぁ……最高だわ……」
金をばら撒いてから早1年。
俺は今日も今日とて、依頼を受けた街の中の1番の宿で何もしないでだらだらベッドで寝転がる……という実に有意義な時間を過ごしていた。
いやまぁたまにインテリ仮面として確実な悪をぶっ潰してるから許してよ。
これでも結構名が売れたんですよ。
巷では『正義の執行官』だの『聖神』だの色々とした呼び名で呼ばれてるくらいだ。
あの仮面を付ければ、まず気付かない奴は居ないってくらいにね。
ま、貴族とそれ以外で好感度は二極化してるんだけど。
勿論貴族が最低でそれ以外が最高だ。
てか正直、貴族たちに恨みを買い過ぎてちょっと怖いもん。
俺はただ悪徳貴族を適当にボコボコにして今まで奪ってたモノを取り返しただけなんだけど……いや普通に目の敵にされるわ。
何してんねん俺。
まぁ正体がバレてないだけセーフか。
「ま、もう面倒だし考えるのやめた! それにしても、このベッドふかふかだな。いつかこのベッドを作った人に、俺特注のベッドでも作ってもらおうかなぁ」
「作っても置くところがないじゃないか」
「ん? はっ、馬鹿だなぁ……そんなの適当に家でも買えばいいんだよ、買えば」
何せ俺には大量の財産がある。
一度アルテミスの財産を確認したのだが、ちょっとドン引きするレベルだった。
一生並外れた豪遊しても無くならない自信しかない。
それに更に、僅かながら依頼のお金も貰っているのだ。
なので正直、適当に金を積めば何処にでも家が建てられるのである。
てかそもそもの話、普通に家はバーゲンセール領の隣———シャドウウォーク領に借りてるし、置き場所が無いわけじゃ無い。
つまり俺は人生の勝ち組、絶対勝者。
ふっ……伊達に数千回死んでないぜ。
何て、前世では成し得なかった栄光に鼻をこれでもかと伸ばしていると。
「ところで……ここ最近、君はダラけ過ぎじゃ無いかい?」
ベッドで頬杖を付いたアルテミスが、ジト目で見てきた。
心無しか不服そうに頬を膨らませている。
「いやいや何処がダラけてんだよ。つい1ヶ月前に依頼で貴族のお屋敷に侵入したばっかりじゃねーか」
「1ヶ月前って……1ヶ月間毎日飽きもせず宿に篭ってる君は生粋のニートだな」
「お前、口を慎めよ。てか、一応偶に仕事してんだからニートじゃない」
ニートとは、何もせずに家に居て親の脛を齧りまくる社会不適合者のこと。
少しでも稼ぎがあるならば、もはやそれはニートではないのである。
そう力説する俺に、アルテミスが納得げに頷きながら言った。
「それなら、1ヶ月収入ゼロの君は立派な社会不適合者じゃないか」
「お、喧嘩か? やるってんなら俺は手加減しねーよ? お前にだけは男女の差とか関係ないからな??」
「良いだろう。最近怠けすぎな君に、ここいらで1発喝を入れてあげるよ」
お互いにファイティングポーズを取って今にも飛び掛かろうとする中、アルテミスから貰ったスマホの超強化版みたいなウルトラフォンに着信が来た。
「……命拾いしたな、アルテミス。もしこの電話が来なかったら今頃お前は羞恥に塗れて顔を真っ赤にしていただろう」
「待って、レイト。君はこの私に一体何をしようとしていたんだ?」
「また今度教えてやるよ、覚えてたらね」
「ダメ。絶対にダメ。私の全感覚が今聞いていないと痛い目を見ると告げているんだよ」
1人でギャーギャー喚くアルテミスを無視しつつ、俺は手の甲を3度タップする。
同時———目の前の虚空にホログラムが現れ、電話のマークが表示された。
お相手は……。
「———やぁ、アリス。本日もお日柄お天気共々大変良く、最高の1日———」
『レイト様っ、そんなこと言ってる場合では無いですよっ!!』
ここ1ヶ月別行動と言うかお留守番しているアリスだった。
珍しくテンパっているご様子である。
実は1年前の金をばら撒いた後、アリスがウチの宿に尋ねてきて『一緒に行動させてください……っ!!』と直談判してきたのだ。
何でも、自分は他の2人と違って家族がいないので是非お2人と行動を、との物凄く健気のことだった。
ただ俺的には、流石にこれ以上彼女を縛るのもどうかと思って1度は断ったのだが……それでも一緒に、と言ってくれたので共に行動している。
そして今は、俺の借りている家で俺達を待っている……と言った具合だ。
因みに、アルテミスがこの世界のラスボスだとかは言ってない。
てかそれ言ったら俺のことも話さないといけないので言えない。
「まぁまぁ落ち着けってアリス。この俺みたいに余裕のある人間に……」
「短気な君が何言ってるんだか」
「そこ、静かに! 余計なこと言わない!」
『レイト様もアルテミス様も巫山戯ている場合じゃないですよっ!! 依頼です!』
どうやら彼女がテンパっている理由は依頼にあるらしい。
「どうしたよ。依頼なんてもう何回も……」
そう、アリスを落ち着かせようとした俺の話を遮るように、彼女は言った。
『———依頼主は、あのレイゼ・フローズ・フォン・グレイシャー様ですっ!!』
…………とうとう年貢の納め時が来たか。
「よし、アリス。今すぐその家を売り払って俺達と合流しよう。逃げるんだ、この国から遠く離れた場所に逃げるんだ!! あの女に関わってたまるか!!」
マズイマズイマズイマズイ……!!
何がマズいって?
バーロー、バカくそに原作に巻き込まれそうだからマズいんだよ!
———レイゼ・フローズ・フォン・グレイシャー。
銀というより真っ白な髪と、透き通る人間というより人形の様な印象を受ける碧眼の美少女にして、バーゲンセールやシャドウウォークも属する大国———アルブレイク王国の公爵令嬢&原作のヒロイン。
つまり———1番関わっちゃいけない人種のお方である。
「あ、ああああアルテミス! 今すぐに荷造りを始めろ! 逃げるぞ、3人で他国に亡命するぞ!」
「まぁ、君がそう言うならそうするよ」
ああ、是非ともそうしてくれ。
もうこれ以上原作に関わってたまるか!
こちとらアルテミスでお腹いっぱいどころかキャパオーバーだっつーの!!
内心憤慨しながら電話を切りもせず大急ぎで荷造りを始めた俺に、アリスが電話越しにも分かるほどに気まずげな声色で言う。
『えっと……逃げたらインテリ仮面の正体がレイト・バーゲンセールだとバラすと……』
ピタッと動きを止めた俺は、まずアリスの言葉を何度も咀嚼して飲み込む。
次に自分が買っている数多の恨みと亡命を勘定にのせてじっくり考える。
そして数十秒後。
全ての演算を行った俺は、大きく大きく息を吸ったのち。
「———あん時調子乗って依頼受けるなんて言わなきゃ良かったああああああああああああああああっ!!」
今更ながらに1年前のことを後悔して、四つん這いのまま涙を流した。
—————————————————————————
いよいよ原作に関わらざるを得なくなるレイト。
さぁレイトは無事何事もなく終えられるのか……!?
ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
モチベで執筆スピード変わるので、続きが読みたいと思って下さったら、是非☆☆☆とフォロー宜しくお願いします!
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