第23話 インテリ仮面、華麗にばら撒く

「———素晴らしい朝だな……」


 燦々と太陽が照りつけ、小鳥すら鳴かない猛暑の中。

 俺ことレイト・バーゲンセール……いや、ただのレイトは、涼しい部屋の窓から暑そうな外を眺めながら1人笑みを浮かべていた。

 ふかふかなベッドから身体を起こし、気持ちの良い伸びを1つ。

 背骨が小気味よい音を奏でる。

 そうして背筋を伸ばした俺は、再び窓の外の景色に目を向けて酔いしれる。


「……ふっ、これが男の階段を1段上がった景色なのか……」


 そう、俺は遂に男として1つ成長したのだ。


 ———ファーストキス童貞の卒業。


 しかも相手はヤバイ奴とは言え、アルテミスという世界でも有数の絶世の美女ときた。

 もはや男として1段どころか数段飛び越えた気分である。

 正直、昨日まで元両親を恨んでいたが……最後の最後でいい仕事をしてくれた。

 感謝はしないが、良くやったと褒めてやろう。


「……何をしているんだい?」


 そう新たな世界に感動して酔いしれていた俺に言ったのは、何を隠そうファーストキスの相手———アルテミスだ。

 バスローブを若干はだけさせながらもう1つのベッドで身体を半分起こし、珍しく頭のテッペンにアニメみたいなアホ毛を跳ねされたまま眠気眼で此方を見ていた。


 今までの俺なら、そのエロくも無防備な姿に理性トレーニングを開始していただろう。

 しかし、今の俺は違う。

 レイト・バーゲンセールは、レイト(超絶美女とキスした)に生まれ変わったのだ。

 

 俺はそんな彼女に、下心など一切ない柔和な笑みを浮かべる。


「あぁ、おはようアルテミス。それにしてもどうだ? 遂に他の有象無象の男では到達し得ない領域に足を踏み入れた俺の姿は」

「何言ってるのかちょっと分からない」

「ふっ……いや分かるだろう? この溢れ出る余裕のある雰囲気とか仏のように広く穏やかな心とかさ」


 さぁ、俺を見ろ! と言わんばかりにアルテミスの方に身体を向けて手を広げた俺に、依然として寝起きなアルテミスは上から下まで見たうえで、下の方で視線を止めて言った。



「———ズボンは、履いたほうがいいよ」

「…………ありがとうございます、アルテミス様」



 危ない、危うく朝食を持ってきてくれる従業員の女性にパンツ姿を見られるところだったぜ。

 そんなことしたら会う度変態扱いされてもうこの宿に泊まれないよ。

 

 俺は羞恥心に苛まれながら、いそいそとズボンを探して履いた。


 ……てか何で俺はパンツ姿なんだ??

 まぁええか。








「よーし、それじゃあ始めちゃうぞー!」

「私はてっきり口だけかと思ってたよ」

「んなわけねーだろバーロー。てか正直この半年皆んなが払ってた徴収分にちょっと色付けて返すだけだし……寧ろ当たり前なんだよ」


 優雅な朝食(朝11時)を終えた俺達は、クソ暑い真昼間に街の中央にいた。


 因みにアリス、ニア、モーリスには俺の名前は書かず、匿名で大金と手短な手紙を同封させてそれぞれの住む家に送り付けてやった。

 今頃目を剥いて驚いているだろう。


「クククッ……是非とも見てみたかったぜ……」

「レイト、物凄い注目されてるから、その笑い方は止めた方が良い」

「おっと、危ない危ない」

 

 アルテミスに注意され、含み笑いをしていた俺は笑みを止める。

 周りの人は超絶美女であるアルテミスと、ミステリアスな仮面———顔を変える機能はなく、ただただ格好いいだけ———を被った俺の姿に、思わずと言った様子で足を止めていた。

 

「何だアイツら? 見たことねぇぞ」

「それな。てか、あの姉ちゃんめっちゃ美人じゃねぇか! なんであんなおこちゃまっぽい奴と居るんだ?」

「確かに、あまりにも釣り合わねぇな。まぁ大方従者か奴隷か何かだろ」

 

 おこちゃまで悪かったな、おこちゃまで。

 あと誰が従者で奴隷だ。

 寧ろアルテミスが俺の従者で奴隷みたいなモンだが??

 おっと、ついつい熱くなってしまった、失敬失敬。

 俺はお前ら凡人とは違う領域に足を踏み入れた人間……この程度は許してやろう。

 仏様もこの程度じゃ怒らないだろ?


「———てか、アイツ絶対ブサイクだぞ。仮面で隠すくらい顔に自信がないとみた」

「おいこらそこのテメェ、誰がブサイクじゃこの野郎! しばき回したるぞッ!!」

「相変わらず沸点が低いね、君」


 いやいや仏の顔も3度までって言うだろ?

 今ので3度目……つまり仏でもブチギレて良いんだ。


 そんな屁理屈を捏ねながら飛び出そうとするも……アルテミスに羽交い締めにされて動きが封じられた。


「おい、何すんだよ。俺にはあの無礼者をぶん殴る義務があるんだ、この手を離せ」

「そんな義務ないよ。それより、早くしないと皆んなどっか行くけど……それでもいいのかい?」


 おっと、それは駄目だな……ふんっ、自分の幸運に感謝するんだなタコ頭野郎め。

 まぁいい、早く始めるか。


 俺はすぅぅぅ……と大きく息を吸い———街中に聞こえるくらいの心意気で叫んだ。



「———某は、この世の悪を裁く正義の味方、インテリ仮面!! 今からお前達が半年間払っていた意味不明な税金を色を付けて返してやろうッッ!!」



 帰ろうとしていた人。

 俺にキレ散らかしていた人。

 アルテミスに見惚れていた人。

 普通に歩いていた人。


 ありとあらゆる者達が、俺の言葉を皮切りに……一斉に此方に注目を向けた。

 ただ、まだまだ俺達に懐疑的な目を向ける人の方か多い。

 ここは1つ、派手にぶちかまそうではないか。




「———此処に、莫大な金がある! さぁ———受け取れええええええ!!」




 そう叫ぶと同時———俺は『無限に入るショルダーバッグ』を上に投げると共に、中の全ての金を吐き出させる。


 ———ジャラララララララララッッ!!


 小さなショルダーバッグの中から大量の金貨が溢れ出した。

 キラキラと太陽の光を反射して輝く金貨の雨が降り注ぎ、一瞬呆気に取られていた者達も地面に金貨が落ちると同時に我先にと金貨を拾い始める。

 まぁ一定以上拾ったら拾えなくなる魔法が掛かってるから無駄なんだけど。


「おおおおおおおおスゲェええええ!! これ全部本物だ!! 間違いなく本物の金貨だぞこれは!!」

「マジかよ、さっきはブサイクなんて言って悪かったっっ!! アンタは最高にイカした漢だぜ!!」

「いやっふうううううううううう!! 金だ金だ金だああああああああっ!! ありがとうございますインテリ仮面っっ!!」


 よしよし……分かれば良いんだ、分かればなっ!


「ふはははははははっ!! 何かあれば某に言うが良い!! 相手が悪だと分かればこのインテリ仮面、直ちに裁いてやろう!!」

「「「「「「おおおおおおおおおおかっけぇええええええええ!!」」」」」」


 ふはははははははははっ、ふははははははははっっ!!

 気持ちぃいいいいいいいいいいっ!!


 周りにおだてられて完全にテンションが爆上がりした俺は、調子に乗って鼻高々に笑い倒す。

 そんな俺の様子を……。



「……きっと、君は後から後悔するんだろうけど……さて、次はどんな面白いことが起きるのやら」



 アルテミスは横からニヤニヤ眺めていた。


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 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

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