第20話 レッツ脅迫

「———ふぅ……いよいよご対面か」


 俺はクソ両親の寝室の前に立ち、溢れ出しそうな感情を抑えるべくゆっくりと深呼吸する。

 

 落ち着け、レイト・バーゲンセール。 

 お前はクールな男だ。

 この程度で取り乱していては、いつか訪れる初夜で100気絶するぞ。

 そんなダサい姿晒したくないだろ?

 なら落ち着けー、どうどう。


 そう、これは一種の試練だ。

 如何にクソ両親を苦しめ、俺の望みを飲み込ませるかに掛かっている。

 勿論脅迫する時は怒気マックスなんだけど……今怒りでミスをやらかすわけにはいかない。

 

「…………よし」


 俺は両開きの扉に手を掛ける。

 ゆっくりと音が鳴らないように開く。

 僅かにギィィ……と音が鳴るが、暗闇の中でぐっすりと眠る、ベッド上のクソ両親が起きる気配はなかった。

 はっ、間抜けめ。


 ふぅ、第1関門突破。

 まぁ俺にかかればこの程度余裕よ。

 一体どれだけ夜遊びに行くために静かに扉を開けたことか。

 ほんでお次は……。


 俺は息を潜め、忍び足でクソ親のベッドの側に移動する。

 クソ親の顔を見た瞬間、溢れんばかりの怒りや憎しみが湧き上がるが……持ち前の鋼のメンタルで抑え込み、部屋の明かり———照明魔導具———を付ける。

 そして明るくなった部屋で懐からアルテミス特製———『どんな生物の鼓膜もブチ破る騒音級目覚まし時計』を取り出した。

 俺は耳栓を付けると同時に———。


「……おねんねはおしまいだぜ、マイペアレンツ?」


 天に掲げながら目覚ましのボタンを押した。



 ———ビリリリリリリリリリリリッッ!!



 突如、静まり返った空間に圧倒的音量の目覚ましが鳴り響く。

 多分ヘリの羽が回る時くらいの音量だと思う。

 

 いやうるさっ!?

 これ、ガチで鼓膜破れんじゃね!?

 マジ耳元でやんなくて良かったな!?


 何ちゅーものを作ってくれてんだ。

 そんな呆れにも近い文句を脳内でアタオカ代表であるアルテミスに吐いていると。

 

「な、何だ!? 何が起こっ———」

「な、何ですの!? こんな時間に騒音を起こしている———」


 ベッドで寝ていた赤髪赤目の30代半ばのイケメンと、金髪碧眼の同じく30代そこそこの美女———つまり俺のクソご両親が耳を塞いでご起床なさり、仮面を被って顔を変えている俺を見て息を呑んだ。


 アンドリュ・バーゲンセール。

 ヘレルミナ・バーゲンセール。


 俺の両親であり、この世で最も嫌いで憎い相手。

 あぁ、この手でぶっ殺してやりたいが……流石に貴族を殺したとなると、俺は国中から追われることになる。

 こんなクズ野郎どものせいでデメリットを背負うつもりはサラサラ無い。

 コイツ等から金奪ってアリス達と領民に金をばら撒いた後は、アルテミスの金で悠々自適な生活を過ごすのだ。

 追われるなんて御免だね。


 俺は2人の前で目覚ましを握り潰し、仮面越しにニッコリと笑みを浮かべる。


「———やぁ、お2人さん。良い夢は見れたかい?」

「な、何者だ!? 此処が何処か分かっているのか!?」

「そ、そうですわ! こんなことをしてだだで済むと思っているのかしら!?」


 アンドリュとへレルミナが起き上がると同時に、顔を真っ赤にしてヒステリックを起こしたかのように喚く。

 起きたばかりだというのに、随分と五月蝿く不用心な人達だ。


 ただ……ちょっと五月蝿すぎるかな。


 笑みを浮かべたままそっと口元に人差し指を添え……息を吐く。



「———シーッ。ちょっと黙ろうか? 悪いけどテメェ等の声を聞きに来たんじゃねーのよこっちは。てか状況分かってんの? これが何か分かります??」

「「!?!?」」



 そっと懐から短剣を取り出す。

 照明魔導具の光を反射して刃が鈍く光った。

 2人はそれを見た瞬間———ヒュッと息を漏らし、真っ青な顔で口を閉じた。


 やっぱ、人間は死ぬのが怖いらしい。

 いやまぁ俺だって怖いんだけど……麻痺っちゃってんのな。

 ま、そんなことはどうでもいいや。

 

「お、やっと黙ったな。さてさて……これからどうしてやろうかな」

「な、何が望みだ……?」

「ん? 勝手に話して良いなんて誰が言ったっけ?」

「……くっ……」


 俺が微笑みを顔に貼り付けたままちょっと凄めば、更に顔を真っ青にして口籠るアンドリュ。

 今までこんな奴に従って生きていた俺が本当に馬鹿みたいだ。


「良いか、テメェ等は俺が許可を出さない限り口を開くなよ? テメェ等の声を聞くと耳が腐っちゃうから」

「なっ!? この無礼も———ヒッ!?」


 俺から放たれた短剣が、ネグリジェ姿のへレルミナの顔面スレスレを通り過ぎて後ろの壁に突き刺さった。

 物凄く軽く投げたおかげで壁をブッ壊す……なんてことは無かったが、へレルミナはガタガタと身体を震わせて後ろに倒れそうになってアンドリュに支えられる。

 そんな2人を自分でも驚くほど冷めた目で見つめていた。


「……何が無礼だって? いい加減にしろよクソッタレ共。てか俺は話すなって言ってんだよ。なのに何で口を開くん? テメェ等馬鹿なの? あ、馬鹿だから子供捨ててさも当然のように領民から金奪ってんのか。それ、ウチの世界じゃマッチポンプっていうんだよ」

「!? ど、どこでそれを……!? まさかモーリス———」

「おっと、その汚い口でモーリスの名前を呼ぶなよ」


 てか。

 

「……テメェ等、俺の正体に気づかないわけ? え、マジで?」

「な、何を言ってるんですの? 知っているわけ無いじゃないですの!!」

「えぇー、マジかー……こんな話しても気付かないマジかー」


 俺、全く声とか口調変えてないんだけど。

 それで実の親が気付かないって……ガチで俺のこと見てないじゃん。

 呆れて怒りも沸かんくなるわ……。

 はぁ……何かこれ以上話してもうっかり殺しそうだし、さっさと終わらせるか。


「……アンタは?」

「……私達に敵視する、他勢力共の刺客か何かか……?」

「———ぶふーっ!!」

「「!?」」


 突然噴き出した俺に、2人揃って状況が理解できないと言った風に呆然としている。

 そんな2人の様子に俺は指を指しながらお腹を抱えて笑った。


「わはははははっ! コイツ等馬鹿だ! テメェ等如きにわざわざ刺客なんて送られるかっての! 相手さんもそんな暇じゃねーよ、はははははははっ! はい、自意識過剰乙ー!」

「き、貴様……此方が黙っていれば……」


 お、何かプライド傷付けたか?

 悪いね、我慢できなかったんよ。


「———ひーっ、笑った笑った。ま、お2人さんが分かんないってことだし……答え合わせをしてあげよう」


 俺は一頻り笑った後、俺の中で最後の情が壊れていく音を聴きながら……仮面に手を添えてゆっくり焦らすように外し始める。

 徐々に本当の顔が見えるようになり……2人の顔が面白いように驚愕と焦燥感に染められていく。


「お、お前は……!?」

「な、何で……何でアンタがここに居るんですの!?」


 ククッ、見ものだねぇ。

 内心嘲笑を浮かべながら仮面を完全に取り外した俺は———。





「———グッドモーニーング、両親だったお2人さん。どうも、貴方達に捨てられたレイト・バーゲンセールです。テメェ等に復讐するために地獄から戻ってきましたよっと。それじゃあ———最初で最後の親子喧嘩へと洒落込もうぜ?」





 そう、好き勝手喚く2人に告げた。


—————————————————————————

 皆んな、総合週間1位ありがとう!

 マジでホントにありがとう!!


 何て、作者初の快挙に1人湧いてるあおぞらです。

 ちょっと嬉し過ぎて語彙力ないなってるけど、読んでくださる読者の方々には感謝しかないです。


 これからも頑張りますんで、どうぞよろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る