第19話 家族みたいな人達
「———れ、レイトお坊ちゃま……!! よくお戻りに……!!」
「久し振り、モーリス。それとお坊ちゃまは止めて。何か馬鹿貴族のボンボンみたいで嫌なんだよ」
「畏まりました」
ニアが呼びに行って数分も経たぬ内に、ニアと共に黒の燕尾服に身を包んだ50代後半くらいの壮年の男———モーリスが入ってくる。
流石長年執事をしているだけあり、感極まった様子ではあるものの、礼儀正しく白髪の頭を下げた。
「誠に申し訳ございません……私の不徳が致すところであります」
「や、モーリスのせいじゃないって。ウチの馬鹿親を執事のモーリスがどうこうできないことは分かってる……そもそも息子の俺でもどうにも出来ないわけだし」
「……恐縮です……」
そう言って更に深く頭を下げるモーリス。
相変わらず責任感の強い人だ。
こんなゴミみたいな貴族の下にいるには勿体ないこと極まりない。
俺はそんなことを考えながら、2人が席に座ったのを確認して口を開く。
「んじゃまぁ……皆んな集まったことだし、話して行こっか。———3人は何から訊きたい?」
シンとした空間に俺の言葉が舞う。
それは誰からも返されることなく、宙で霧散した。
しかし。
「———レイト様は。貴方様はこの屋敷に、一体何のためにお戻りになられたのですか……?」
俺の言葉が消えてから少し。
1番に声を上げたのは———この中で俺の次に若く、俺を見つけたアリス。
彼女は緊張した様子でメイド服のスカートをギュッと握りながらも、俺に銀色の瞳を向けてハッキリと口にした。
その瞳には、色々な感情が渦巻いている。
俺はそんなアリスの様子に、緊張と恐怖を吐き出そうと小さく息を吐き……覚悟を決めた。
「———俺は、クソ両親に復讐するために此処に戻ってきた」
「「「!?」」」
言った、とうとう言った。
ヤバい、めっちゃ心臓が五月蝿いんだが。
完全に空気だって固まってるじゃんか。
まぁでも、3人が固まるのも無理はない。
俺は、3人からしたら、どんな時もヘラヘラしてる無駄にメンタルが強い不思議な子供だろうからな。
「3人がクソ両親になんて言い聞かされてたか知らんけど……俺は半年前、クソ両親に無法荒野……この領地の南にあるあの荒野な? あそこのど真ん中で馬車から突き落とされた」
「なっ———」
「嘘っ……」
「…………アリス、ニア、レイト様のお話中です。静かに」
俺の口から告げられた半年前の真相に、アリスもニアも表情を驚愕に染めて声を漏らした。
しかし、モーリスだけは瞑目したまま2人に注意を送る。
あんがとさん、モーリス。
「まぁそれで、俺は【禁足の森】で半年間過ごしてた」
「き、禁足の森!? ですがあそこは……」
「勿論碌に魔法も武術もやったことがない俺にはまさに地獄と変わんない。そこで俺は———何度も死んだ。何度も何度も何度も何度も。数なんか覚えてない、覚えられないくらい死んだ。まぁ……人間が味わう死に方は一通り体験したかもな。だから———俺はこんなことになった元凶のクソッタレな両親をぶちのめしにきた。俺が屋敷に戻ってきた理由はそれだ」
「「「…………」」」
出来るだけ感情を出さないように、淡々と。
そう意識して話したものの……最後には少し怒気が漏れた気がする。
あまりにも現実離れした話に、3人は開いた口が塞がらないといった風に唖然としている。
また、アリスも、ニアも、モーリスも———俺に恐怖の感情を向けていた。
……やっぱ、そうなるよな。
何度も死んだ人間が目の前に居るなんて、不気味でしかないもんな。
それに……俺のせいで仕事を失うかもしれないんだし。
俺はスッと頭が冴えていく感覚と共に、小さく苦笑を零して立ち上がる。
3人の視線を感じながら、机に置かれた仮面を手に取って……顔に押し付けた。
「さて、皆んなの知るレイトの時間は終わり。これからは、復讐者だ。ただ自分の感情に従ってやり返すクズ野郎。誰に迷惑が掛かるとか考えず、ひたすらに己の怒りを鎮めるためにこの屋敷を襲撃する———犯罪者だ。3人には、逃げとくことをオススメするよ」
だから邪魔をするな、俺は言外にそういう意図を込めて3人を突き放すように告げる。
勿論世話になった3人にはアルテミスの莫大な財産の中から、一生遊んで暮らせるくらいのお金を渡すつもりだ。
ただ、別に言う必要もないし、言おうとも思わない。
『モーリス、モーリースっ! なぁ聞いてくれよ!』
『おや、レイトお坊ちゃま。如何致しましたか?』
『それがな? 2人が俺をめっちゃ子供扱いしてくるんだよ! そもそもアリスはまだ子供じゃんか! あとお坊ちゃまは恥ずかしいので止めてくださいお願いします』
『わ、私はもう15歳ですから、殆ど大人と変わりませんよっ』
『え〜〜だってレイト様って可愛いんだもーん』
『だもーんじゃないし、15歳と13歳なんて微々たる差じゃね? いやまぁ確かにそういうプレイは好きなんだけど……おっと、2人してドン引きした目を向けるのは止めてもらおうかっ!!』
俺は走馬灯の様に頭の中で駆け巡る2度と戻らない日常に仮面の下で笑みを浮かべ、アリスの部屋を去ろうと足を進めた———。
「———レイト様っ!!」
背中越しに声を掛けられ、思わず足を止める。
後ろは振り向かず、ただ黙って足を止める。
そんな俺に、声の主———アリスは言葉を続けた。
「私は、アリスは……いえ、私達3人はっ! 貴方が犯罪者ともクズ野郎だとも思いません! きっと手伝うと言っても貴方は断るのでしょう。ですので、私達からはこれが精一杯です! 私達はどんなことがあろうと、めんどくさがりでヘラヘラしていて、ちょっとエッチで……でも、本当はとっても優しくて情に厚い、良い意味で貴族らしくない貴方を信じます! ですから———」
一息置いて、最後の言葉が紡がれた。
「———思いっ切りやっちゃてくださいっ!!」
…………これだから、会いたくなかったんだ。
俺は、親ガチャはハズレもハズレ、大ハズレだった。
愛情もくれない、構ってくれない、モノも教育もしてくれないゴミ両親だった。
でもその分———周りの人には、恵まれたらしい。
予想だにしていなかった言葉に背中を押されて目頭が熱くなるのを感じながら———俺は夜の闇に姿を消した。
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ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
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