第17話 襲撃しよう①

「———ちょっと、我が家を襲撃しようと思うんだ」

「へぇ……良いんじゃないかな?」


 寝れば気まずさも大分解消されると言うもので……俺は普段通り支度して、部屋に届けられた朝食の素晴らしさに感動しながらアルテミスに告げてみた。

 すると、意外にも好感触の返事が返ってくるではないか。


「お、アルテミスにしては随分と乗り気とゆーかいい感じじゃんか」

「それは勿論おもし———楽しそうなことが起きそうだからね」

「おやおや漏れてますよ、アルテミス様」


 あっけらかんと本音を隠そうともしないアルテミスにも、もう慣れた気がする。

 まぁコイツ、最近忘れがちだけど普通にヤバイ奴だからこういった非常識な行動が楽しくてしょうがないのだろう。


「うん、聞く奴を壊滅的に間違ってるな」

「それを目の前で言う君の胆力には、本当に尊敬するよ」

「そんな褒めるなよ……知ってるから。俺が尊敬できる人間だって」

「何処が?」


 本当に分からないといった風にアルテミスが首を傾げ、再度口を開いた。


「何処が?」


 いやいやいや俺の全てがに決まってんでしょうが。

 そもそもこんな超絶ヤバい女と一緒に数ヶ月も過ごしてるだけで尊敬モノだろ。

 普通なら皆んな逃げ出してるよ。


「それは君が私と同じ埒外の存在だからだよ」

「おっと、俺とお前を一緒にするなよ、俺に失礼だろ」

「君が私に失礼だよ」


 だってアンタはラスボスじゃん。

 破壊の権化みたいな超絶チート野郎じゃん。

 そんな奴とただの親に捨てられた雑魚転生者が同じだって?

 

「——————はっ」

「何で鼻で笑ったのか、聞かせてもらおうか」

「拒否する。ところで……やっぱ襲撃は夜が良いと思うんだ。夜なら暗闇に身を隠せるし、何より目撃者を減らせる」

「…………」

「な、何だよその目は……止めろよ、そんな不服そうにするなよ。お前が機嫌悪いとか普通に怖いんだよ……」


 不服の色を瞳に宿し、憮然とした表情で何も言わずに俺を見つめてくる姿は、相手がラスボスなだけにただただ恐怖でしかない。

 俺、マジで【不死】の転生特典を貰っておいて良かったな。


 過去の自分に感謝を捧げていると……アルテミスが依然として不服そうに口元を尖らせて呟いた。


「……全部殺せばいいじゃないか」

「却下! 却下だアホンダラ! よし、今から俺が全部するからお前は何もするな。良いな? 絶対何もするなよ?」

「それは、やれと言っているのかい?」

「ちげーよ馬鹿! てか俺の情報を盗んだ時にそんなことまで理解したのかよ! これは振りじゃねーかんな!? マジで言っているからな!?」

「分かってる、分かってる」


 確実に分かってねーだろコイツ。

 あと、昨日お前が付けたヘタレイトっていう不名誉なあだ名の恨みは忘れてないからな。


 1番の敵は直ぐ近くにいる……俺はその言葉の意味を初めて実感した。


 









「———ふぅ……そんじゃ行くか」


 あの日捨てられた時と同じ外行きのそこそこ高級なタキシードに身を包み、その上から全身を隠せる黒のボロボロのローブ、腰には短剣を2振り帯びて夜を駆ける。

 因みに頻りに付いていきたいと言ったアルテミスには……。


『———アルテミス……絶対来るなよ? もし来たら次こそ本気で襲ってやるからな』


 そんな脅し文句を置いてきた。

 と言ってもアイツが付いてくると、本当に見つかった際に相手を殺してしまいそうだから至極当然の結果である。

 それに……。


「……あんま、ガチギレしてる姿は見られたくないしな」


 多分、あの両親に会ったら我慢できなくなる。

 一体アイツらの身勝手な行いのせいで、俺がどれだけ苦悩し、どれだけ死んだと思っているのかを考えると……感情の抑制が効かなくなってしまう。


 俺だって人間だ。

 死なないとは言え……痛いものは痛いし、トラウマにだってなる。

 元が日本人だから、死にたくないし痛いのだって本当は嫌なのだ。

 あのガチもんのアタオカであるラスボスさんやデュラハンとは違う。

 

 あくまで———俺は取り繕っているだけ。


「おっと……ついネガティブ思考になっちゃうな。やっぱり夜は好きだけど……こう湿っぽい天気の時の夜は嫌いだね」


 顔を変える仮面にそっと触れ、自嘲気味に呟いた。


 今日は天気が悪く月明かりもない。

 襲撃というか侵入するには丁度良いが、精神的にはちょっと参ってしまう。

 

 屋根から屋根へ、最短ルートかつ人の少ない場所へ。

 13年過ごしたこの街は既に俺の庭だ。

 この街の地形ならば理解し尽くしているが……ふと少し懐かしい気持ちになった。


「それにしても久々だなぁ……てかマリナさんにどうやって謝ろっかな」


 あの時は物凄い怒ってたしなぁ……マリナさんって怒ったらあんなに怖いのな。

 普段は俺を甘やかしてくれる優しいお姉さんって感じなんだけど。

 

 そんなことを考えていたら、あっという間に我が家に着いた。

 貴族らしく豪奢な屋敷だが、これでも貴族の中ではみすぼらしい方らしい。

 真夜中だというのに、まだチラホラ部屋の明かりが灯っている。


 あれは……執事のモーリスとメイドのニアとアリスの部屋だな。

 あの3人……毎日こんな遅くまで働いてたんだな……ちょっと罪悪感。


「……」


 さて、半年振りの我が家だが……此処だけは懐かしいという気持ちは全くなく、ただただ怒りしか湧いてこなかった。

 正直この家に親だけしかいなかったら全力で暴れていたかもしれない。


 あんのマッチポンプクソ親共め……俺の気も知らないでグースカ寝やがって。

 貴様らには、耳元ゼロ距離からアルテミス特製爆音目覚ましを使ってやる。



「…………くそッ……最悪の気分だ」



 俺は両親の寝室に向かって苦々しく吐き捨てると———2人の顔見知りな兵士が護っている正門をジャンプで飛び越えた。


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 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

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