第16話 据え膳食わぬは男の恥

 総合日間1位だったし、もう1話上げちゃった。

 みんなありがとう!

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 ———俺の両親が、俺を盗賊か何かから救うために領民に金を要求している。


 流石の俺もにわかには信じられないことである。

 ウチの両親がこれほどまでに堂々とマッチポンプを決行するとは思わなんだ。

 あんたら、めちゃくちゃ俺を突き落としたじゃないの。


 しかし、いろいろな人、職種の人に話を聞いてみたが……全員答えは同じで俺を助けるために領主———つまりは俺の親が金を徴収していると言う。

 詳しい事情は全く話されておらず、暴動も起こりそうになったらしい。

 ただ、俺が無駄に領民と仲が良かったせいか、皆んな渋々払ってくれているのだとか。


 もうね、普通に泣きそうになったね。

 皆んな優し過ぎて目の前で泣きそうになっちゃったよ、てか泣いたよ。

 流石に変な目で見られたけど……これで、余計領民達にお金をばら撒かなくちゃいけなくなったね。


「……俺のクソ親、とうとう救えない所まで来てんじゃん。何でそんなことになってのんよ」


 引き続き大衆酒場。

 アルテミスのお金———今は全部俺のモノ。へへっ———で机の弁償をすると共につまみや酒を頼んだ後、大きなため息を吐いた。

 そんな俺の隣で、アルテミスが俺の頬をつつきながら言う。


「さぁ? ただ、君を突き落として領民からお金を徴収するほどの何かがあるんじゃないのかな。ため息すると幸せが逃げるよ」

「やってること保険金目当ての殺人と一緒じゃねーか。そもそも俺は死んでねーっつーの。あと、ため息してないとやってられねーわ」

「ビールと特製クラーケンのさきいか、オーク肉の燻製をご注文した方ー!」

「はーい、ここですここですお姉さーん!」


 俺は、可愛いお姉さん———めちゃくちゃに知り合い。名前はマリナさん———の手で机に次々と置かれるおつまみ類を早速口に放り込み、その勢いのまま頼んだ酒をあおるようにジョッキの持ち手を握———。



「———おいおい遂にボケたのか? お前のはそっちだぞ?」

「ボケてないよ。ただ……君はまだ13歳だろう? 流石にこの歳からビールはやめておいたほうが良い」



 ———ろうとした所で、ひょいっとアルテミスが俺のビールのジョッキを奪ってきたと共に、まるで本当のお姉ちゃんのように苦言を呈してくる。

 奪い返そうと頑張ってみるも……身長とステータスの差から手が届かない。


「……返せよ」

「駄目だ、君はまだ早い。身長伸び無いよ?」

「おっと、脅そうたってそうはいかない。俺は絶賛成長期だ。今も半年前より7センチ位伸びてんだよ。それにクソ両親がどっちもそこそこ身長高いから、175くらいまでは絶対行く」

「遺伝にあまり頼らないほうが良い。日々の生活習慣で幾らでも変わるからね。変わらないのは顔面くらいだ」


 …………。


「おい、巫山戯んなよ、何で俺から酒を奪うんだ! 今までずっと飲んでたんだから良いだろうが! てか飲みたいならそう言えよ、俺がもう一杯頼んでやっから!」

「誰が飲みたいなんて言った? ただ、これは私が飲んでおくから、君はジュースでも頼むといい」


 そう言って、両手にジョッキを持ち、俺の酒をごくごくと飲むアルテミス。

 普段ならその飲みっぷりも絵になるとか思ったのだろうが……今はただただ憎しみしか沸かなかった。


「おいズルいぞ! てかやっぱり飲みたいんじゃんか! そうならそう言えよ、このクソ面倒アタオカ年増女!!」

「!? ……君は、私の逆鱗に触れたな。1回死んで頭を冷やした方がいい」

「頭を冷やすのはテメェだコラ! ただ、1回死ぬのは賛成。俺がお前をぶっ殺してやる!!」


 この後、俺達は大衆酒場———『龍の憩いの場』を出禁とされた。








「———お前のせいであのマリナさんに『もう2度と来ないでください』なんて言われただろうが。どうしてくれるんだよ、どの面下げて次会えば良いんだよ」

「いや、余計なことを言った君が悪いね」


 俺達は大衆酒場を追い出され、ブラブラと夜まで街を巡り、この領一番の宿泊施設の借りた部屋の中でも未だ言い争いを続けていた。

 流石バーゲンセール領一の宿泊場なだけあり、部屋は広いしベッドもふかふかだったが……今はそんなことを気にしている余裕はない。


 道中で買ったパジャマに着替えた俺は、アルテミスの言葉を無視して、ぼふんっとベッドに倒れ込む。

 そして枕に顔を埋めながら沈痛なため息を枕に零した。

 

「はぁ……親は派手なマッチポンプやらせてるし、ラスボスさんは俺の所有物になったと思えないほど図々しいし、一向にその気も見せてくれないしで……」

「———襲えばいいじゃないか」

「…………………は?」


 俺は思わず耳を疑うようなアルテミスの言葉に呆気に取られる。

 枕から頭をズラして彼女の方を向けば……地球で言うバスローブのようなモノに身を包んだアルテミスが此方に漆黒と灰色の瞳を向けていた。


 風呂上がりの僅かに湿っぽい漆黒の髪と上気した頬。

 バスローブに収まりきらないほどに巨大な胸の双丘。

 ベッドに座り、此方を挑発するように組まれた足。

 足を組むことでバスローブから現れる魅惑の太もも。


 …………おっふ、これはいけない。

 健全な男子にとってこれは非常に目に毒だ。


 俺はあまりにも刺激の強すぎる光景に、反射的にスッと目を逸らす。

 すると、アルテミスの方からクスクスと笑い声がした。


「ほら、やっぱりそんな度胸無いんじゃないか。この前は私を弄っていたが……人のことを言えないな? ん?」

「……そ、そういうお前こそ、13歳相手に本気出して大人気ないだろ」

「精神年齢は大人、って誰かが言ってたけどね」


 コイツ……揚げ足取りやがって……確かに言ったけどさ!

 そもそも俺は、無理矢理というのが嫌いなだけで……別に度胸が無いヘタレなわけじゃない。

 そこを間違えるなよ。


 そう必死に挑発に乗せられまいと己を律していると。



「———私は別に良いんだけど……やっぱり無理か。口だけのヘタレイト君だから」



 アルテミスが揶揄うように言った。


 …………いいよ、やってやろうじゃん。


 自分の中で何かが切れた音がした。

 俺は無言で立ち上がり、隣のベッドに腰掛けたアルテミスの肩を押す。

 まさか俺が行動に出るとは思っていなかったのか、アルテミスは驚いた様に目を見開くと共に、ベッドに倒れた。

 ぼふんっとアルテミスの身体がベッドに沈み込む。

 そんな彼女の上に、俺は跨った。


「……れ、レイト?」

「……俺の国にはな、『据え膳食わぬは男の恥』って言葉があるんだ。女性の誘いに応じないのは、男にとって恥じるべきことって意味でな。———ここまで誘われて黙ってる俺だと思うなよ! 誰がヘタレイトだ、2度とそんなこと言えないようにしてやる!!」


 俺はアルテミスの顔の横に手を付き、ゆっくりと近付いていく。 

 対するアルテミスは、俺が本気だと気付いたらしく、露骨に狼狽え始めた。

 目を右往左往させ、頬を朱く染めながら口をパクパクさせている。


 そして遂に。

 2人の顔の距離が鼻と鼻がくっつきそうなくらいになった時、彼女が口を開いた。

 

「れ、レイト! ほ、本気なのかい……?」

「あぁ、勿論本気だが? レイト・バーゲンセール、やる時はやる男だ!」

「…………」


 俺の言葉を受け、とうとうアルテミスが観念したように目を閉じ、唇を噤む。

 そして———。





「———申し訳ありません、隣のお部屋のお客様から五月蝿いとの苦情が……」

「「…………すいません……」」





 扉越しに声を掛けられ、俺達は気まずい雰囲気の中で無言でベッドから起き上がった。

 その日、お互いに会話をすることは一度もなかった。


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 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

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