第15話 俺について
「———ふぅ……やっと着いたね」
「本当にな。1日経ったもんな。お前が外ポケットに入れてるのが悪いんだよ」
「酷いな。君が飛び掛からなかったらこんなことにはならなかったんだけどね」
「あ?」
「ん?」
俺達はやっとこさ辿り着いたバーゲンセール領の検問所の前で、ガンを飛ばし合いながらお互いに責任をなすり付けていた。
「おっと、何か文句でもあんのか? お前が最初から素直に転移装置を出しておけばあんなことにはならなかったんだよ。そこのところはお分かり?」
「うん? 君はお母さんとお父さんに自らの不注意は人のせいにしないって教育されなかったのかい?」
「ウチの親は『自らの不注意を他人に転換させればいい』って教えてくれたよ。これだけは、あのクソ両親に唯一尊敬を抱いたな」
「君の両親も君も終わってるね」
「ブーメランですよ、ブーメラン」
因みにこの領では、俺の顔自体結構バレているので、アルテミスお得意のチート技術力の結晶である変装の仮面を付けて顔の見え方を変えている。
俺と認識されないことで周りからは姉弟が喧嘩をしていると思われたらしく、微笑ましく見られているのが何よりの証拠だ。
まぁちょっと恥ずかしいが。
でも皆さん、聞いてくださいよ。
実はコイツ、これでも数千年生きてるんですよ。
皆さんより断然ババ———。
「おおおおお頭割れるぅぅぅぅっ!! 何すんじゃテメェ!?」
「何を考えていたんだい? 怒らないから教えてごらん?」
「教えてやるからその手を離せ! お前の握力じゃ俺の頭はあっさり潰れるんだよ! おい、幾ら俺が死ねるからってキリキリ締めてくるんじゃねーよ!?」
あまりの痛さに絶叫を漏らしながら、ジタバタと暴れる。
ちっとも動かない。
両手で頭の上に乗っけられた手を必死に引き剥がそうとする。
1ミリたりとも動かない。
……おかしいな?
俺ってこんなでもレベル150のカンスト到達者のはずなんだけどな。
片手でボロ負けじゃん。
何て必死に格闘していた俺達の下に———イライラした様子の衛兵がやって来た。
「———五月蝿いぞ! 入るならさっさと通行料を払って入れ!!」
「「ごめんなさい」」
でもコイツ……あ、はい、本当にごめんなさい。
「———さてさて……俺はこの街でどーゆー扱いになってんだろうな?」
「私的にはもう死んでることになってると思うよ」
中々に失礼なことを宣うアルテミスはさておき。
半年振りという短そうに聞こえて地味に長い期間が経ったわけだが……久しい我が故郷に、とんでもなく懐かしさを覚えている自分がいる。
あのクソッタレな森ではそんなことを考える暇も無かったこともあり、自分でも少々意外だった。
あれっ、俺って意外と故郷への思い入れ強い……や、そりゃそうだわ。
昔から街の人達には仲良くしてもらったしな。
何ならウチの親より良くしてくれた……ほんとに何してんのウチの親。
「……ところで、1つ訊いてもいいかい?」
「どうぞ」
思い出せば思い出すほど呆れてしまう両親の武勇伝に辟易していた俺へ、チラチラ周りに視線を巡らせたアルテミスが言ってくる。
「———何で、飲み屋?」
そう———俺達はバーゲンセール領に入るや否や、街の検問所に近い冒険者や領民達御用達の大衆酒場にやって来ていた。
勿論『大衆酒場』という名が付くだけあって非常に五月蝿いし、素行の悪い奴らも頻繁に訪れる場所だ。
ただその分———情報も集まる。
あとは皆んな酔ってるから、適当に話を合わせたり更に酒を飲ませたりしたら簡単に口を割ってくれるのもいい。
ネギ
俺が昼間っから飲んだくれる奴らの中から良さそうな奴を定めていると。
「……君、お酒飲んでたの?」
「…………」
予想だにしなかったアルテミスの鋭過ぎる指摘に、俺は思わず固まった。
突然黙る俺を、何処か怪訝な顔で見つめていた彼女は……まるで俺を確かめるように口を開く。
「レイト? 確かこの世界でお酒が飲めるのは16歳以上のはずだが?」
「黙秘権を行使する」
「この世界に黙秘権はないよ」
くっ……俺がアルテミスに出会った時に言った言葉が、まさかこんな形で綺麗に返ってくるなんて……!
まぁ本当に黙秘権はないんだけど。
因みに酒は10歳から飲んでます。
「てか、俺が酒を飲もうが飲むまいがお前には関係ないだろ。———ところで、そこのお方、1つ訊いてもいいですかね?」
俺はアルテミスの指摘をスルーして、近くで1人で飲んだくれていた30代のムキムキな男に近付く。
男は俺に気付くと露骨に眉を顰めた。
「なんだぁこのガキはぁ?」
「通りすがりのガキです。そんで何だけど、レイト・バーゲンセールのことについて何か聞いてない?」
俺がそう尋ねると同時。
男は苛立たしげにドンッと机を殴った。
「知ってるだとぉ? 知ってるも何も、俺がここでくたばってるのはぁ……クソ領主のせいだぜぇ?」
「……詳しく聞こうか」
物凄く嫌な予感に苛まれながらも、未だジト目を向けてくるアルテミスを無視して問い掛ける。
対する男は余程有名なことなのか、少し驚いた様子で答えた。
「お前、知らねーのかぁ? あの領主が『囚われた息子を助けるためにお金を納めろ』とか好き勝手なこと言いやがるんだぁ。お陰でこっちはスッカラカンだよくそッ!!」
……ほう、いい度胸してんな。
自分で俺を落としたくせに……自分は俺をダシにして金稼ぎってか?
いいご身分ですねぇ??
俺は、快く教えてくれた彼に一杯奢って上げたのち———。
「———オッケー、しばいてやる☆」
とても綺麗な笑顔で台パンした。
机が粉砕した。
「お客様、弁償してくださいね?」
「…………うす」
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ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
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