第2章 クソ両親に御挨拶
第14話 いざ我が街へ??
「———も、森がないっっ!! 遂に俺はあの森から脱出したんだ……! ふぉおおおおおおおおおおおっ! 太陽万歳! 地平線万歳っ! ———暑いわ。干乾びそうなほど暑いわ」
俺は一頻り懐かしの【無法荒野】のだだっ広い荒れ果てた光景を興奮冷めやらぬ状態のまま眺めた後、永遠にも思える地平線の先を目指して、燦々と照り付ける太陽とあまりの暑さに愚痴をこぼしつつ、かれこれ30分以上歩みを進めていた。
暑い日特有の空気の揺らぎが目に見え、風が吹けば熱波が頬を打ち付ける。
荒野なので、川どころか日陰もほぼほぼ存在しない。
「あっつ。現代っ子の俺には耐えられへんわ」
「感情の落差がジェットコースターだな、君は」
「おい、遠回しに情緒不安定とか言うなや」
「遠回し? 私は直接的に言ったつもりだけど」
「あれっ?」
もっと失礼じゃんか。
てかコイツ……さては完全復活しやがったな?
あの殊勝でちょっと可愛かった頃を返せ!
何て、俺が抗議の感情を篭めながらキッとアルテミスを睨めば……彼女は俺を下から上までジロジロと観察したのち、何処か慈しみを含んだ優しげな笑みを浮かべた。
「……君くらいの歳の子は、誰だってそういう時期なんだろう? 情緒が安定しなくて当然さ」
「おい、思春期と言いたいのか? 転生者の俺に思春期が来たと言いたいのか? 精神年齢余裕で20を越えてる俺に思春期が来たと??」
「うん、常に情緒不安定だから」
「よし、喧嘩だ。街に付いたら涼しい所でお前をボコボコにしてやったるわ!」
「今からじゃないんだね」
あったりまえだろバカちんが。
だって今は溶けそうなくらい熱い……おい、呆れを過分に含んだ瞳をこっちに向けるのはやめてもらおうか。
「そーゆーお前は暑くねーのかよ」
俺は、街への道のりを歩きながらビシッとアルテミスが着ている黒のロングコートを指差した。
どう考えてもこの時期のロングコートは暑いなんてもんじゃないはずだ。
しかも見た感じその下の服も長袖っぽいし。
あまりにも場違いな服装に身を包んだアルテミスを怪訝な顔で見つめていると。
彼女は自分の服に少し確認するように視線を巡らせた後———勝ち誇った様に微笑んだ。
「残念だったね、レイト。私の服には自動体温調節機能が付いてるんだ」
た、自動体温調節機能、だと……ッ!?
何だよ、自動体温調節機能て。
地球でも開発されてない超絶オーバーテクノロジーをさも当然のように使うなよ。
あと俺にもくれ。
「なにそれズルい。てかまたチートを1つ増やしやがったな!? ふざけんな俺にもくれよ!」
「ごめん、これは私専用なんだ。そして、自動体温調節機能が付いた服はこの世界にこの一着だけ」
「神様、どうかこのチート女に天罰を」
結構マジで神罰でも食らわないかなコイツ……とか思いながらクソ暑い荒野を歩いていて———ふと気付いた。
ずっとアルテミスがニヤニヤ俺を揶揄うような笑みを顔に貼り付けていることを。
何か言うわけでもなく、ただニヤニヤにたにたしているのだ。
俺はそんなアルテミスの様子に気味悪く思いつつ、口を開く。
「……何だよ、そんなに見つめて。俺のこと好きなの?」
「何か気付かない? てっきりチートのくだりで気付いていると思ってた」
「俺の問いを無視———はい?」
え、何だよ、気付いてないって。
だから気付いたじゃん、お前がニヤニヤしてるのに。
そもそも暑い中歩いてるんだからあまり頭を……頭を……ん??
俺は今、物凄く嫌なことに気付いて足を止めた。
止めざるを得なかった。
「……ちょっと待った。なぁ、1つ聞いてもいいか?」
「勿論」
「———転移、出来んの?」
そんな俺の問い掛けに、アルテミスはクツクツと笑った。
「———正解」
「うん、
俺はアルテミスに飛び掛かった。
ここらで1つ、両親の俺への待遇の話をしよう。
俺の両親を例えるなら———行き過ぎたドケチ。
それが子である俺の親への評価だ。
赤ちゃんの頃は記憶があまりないので何とも言えないが……子供の頃には間違いなく俺にドケチを発揮させていた。
まず、貴族では重要な第一子の男児であるはずの俺への服が一着しかない。
厳密に言えば社交界用の服があるが……それも一着だけだ。
普段着は超絶ぶかぶかのオーバーサイズ一着のみ。
ただ、これはまだ良い方だ。
貴族は、本来5歳辺りで10年後の学園入学に備えるのと他の貴族に舐められない様に家に家庭教師を雇う。
主には魔法や武術、学問などだ。
ところがどっこい。
俺は魔法も武術も学問も何もかもを1回も習っていないのでした!
家庭教師の『か』も見たことないぜ。
まぁ家庭教師を雇うにはそれなりにお金がいるから……渋ったんだろうな、あのクソ両親。
だから俺は魔法を使えない。
どれだけステータスやレベルが上がろうと、習っていないモノがポンッと習得できるほどこの世界も甘くない。
……………あの両親、昔から俺に家継がせる気なくね?
そもそも殆ど話したりしてないし、飯も俺は屋敷に2人しか居ないメイドと1人の壮年の執事と食ってたし。
流石に虐待は無かったけど、愛されてはいなかった……んだろうな、間違いなく。
俺が大きなため息を吐くと、真剣に聞いていたアルテミスが言う。
「———ふむ、君の頭から情報だけで知っていたけど随分酷い両親だな」
「だろ? 何でこんな愛されてないのか理解不能なんだよ。別に俺の顔だって悪くないはずなのに」
「君の減らず口が悪いんじゃないかな」
「赤ちゃんの時から減らず口叩いてたらただのヤバイ奴……おい、何だその『自覚ないの? やばぁ……』的な目は。おいっ、目を逸らすなこらっ!!」
アルテミスは俺より身長が高いので、俺は背伸びをするような体勢で彼女の顔をこっちに向けようと奮闘したが……ステータスの差で首が動かなかった。ゴリラかな?
俺は小さなため息と共に諦め、現実逃避の限界を感じて———手の中でバキバキに砕けた懐中時計のような転移装置に視線をやって零した。
「…………転移、ミスるなんてな」
「…………本当にね。壊れるのも、予想外だった」
因みに今俺達が居るのは、俺の生まれ育った街であるバーゲンセール領を北に数十キロ———【禁足の森】はバーゲンセール領の数百キロ南にある———の地点にあるナイトウォーク領の雑木林だ。
転移が失敗したのは、俺達が派手にドンパチやっててうっかり起動&破壊したからである。
木の大きさが変わった以外何も【禁足の森】と変わらぬ光景に、俺は大きく息を吸い込み———。
「———また森かよクソおおおおおおおおおおッ!!」
四つん這いの状態で地面に向かって啼哭を上げた。
直すのに、1日掛かった。
—————————————————————————
ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
モチベで執筆スピード変わるので、続きが読みたいと思って下さったら、是非☆☆☆とフォロー宜しくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます