第11話 懐かしい奴

「———賭け、と言っても難しいことじゃない。ただ、とあるモンスターとレイトが戦うだけの単純なルールだよ。もしレイトが負けたら、君は私のモノ。逆にレイトが勝ったら、私は君のモノだ」

「いやいや待てよ。一度も俺はやるなんて言ってないんだけど!? そもそも俺にこの賭けを受けるメリットが微塵もないんだわ」


 やっとこさ上から退いたアルテミスがぺらぺらと俺を置いて先々と話を進める中、俺は待ったを掛けた。

 至極当たり前な俺のストップに何故キョトンとした表情が出来るのか分からないが、ちょっと待って欲しい。


 え、何で俺がそんなヤバそうでメリットが一切ない賭けに乗らねばならぬので?

 アンタといること自体が嫌なんだが。

 そもそもとあるモンスターって何なのか聞いてもいい?


「言っちゃ悪いんだけど……一先ずこの森にいるモンスターの中で俺が勝てるヤツ何てほぼほぼ皆無なのはお分かりか? 自慢じゃないが、俺はレベル150のくせに弱いぞ」 

「本当に自慢ではないね」 


 や、俺はありのままの自分が好きなので。

 てかこの世界でこの森に生息するモンスターを相手に出来る人間は極一部のみだから。


 胸を張って誇らしげに告げる俺に、流石のアルテミスも苦笑気味のようだった。

 空笑いが非常に俺の心を深く抉る。


 ……おい、まるで俺が1番の変人みたいな扱いしてんな。

 いや……めちゃ死んでるしあながち間違いでもないのか……?

 まぁこの変人と言う概念が服を着て命を宿したみたいなアルテミスにだけは言われたくないが。


「ふむ……でも少し考えてみるんだ」

「??」


 反抗的な瞳を向けている俺に、顎に手を添えて考える素振りをしていたアルテミスが何かを思い付いたかのように蠱惑的な笑みを浮かべる。

 そして俺の耳に口元を寄せ、吐息混じりに囁いた。


「君が勝ったら、私は君のモノになる。つまりは———何でもし放題だ。それがえっちなことであっても、ね」

「!? …………ご、ごくっ……」


 べ、別にこの女とエッチすることに期待して無意識の内に生唾を飲み込んだわけじゃないんだからね!

 幾ら誰もが振り向くほどの超絶美女で、男好みの体型で、声や仕草までもがエロいとしても、俺はちっとも期待なんか……期待、なんか…………くっ、何と恐ろしい精神攻撃をしてくるんだこのラスボスは……!!

 危うくあっさり首を縦に振るところ———





「———私の貯めた財産も、全部君の物だ」

「よし、相手は何処だ? すぐやろう。今すぐにぶちのめしてくれる!!」





 金とエロに、俺は屈した。










「———ガルルルル……」

「やぁ久し振り、元気にしてた? 俺は相変わらずボッコボコにされて何度も死んだぜ」


 場所は変わって、森の中腹辺り。 

 僅かに開けた一角で、旧友にあったかの如く右手を挙げて挨拶をする俺と、赤い瞳を滾らせ、鋭い気配を纏いながら威嚇する様に唸りを上げる敵さんの姿があった。


 アルテミスの言ったモンスターとは、俺がこの【禁足の森】にやってきて1番初めに相手をし、一瞬で負けたその後も何十何百と戦ってきた———ダイヤウルフだった。

 しかも彼女がどうやってやったのか知らないが、目の前にいるダイヤウルフは、俺が1番最初に出会った奴である。


 ヒグマより2回りほど大きな体躯と、それに見合う圧倒的身体能力。

 そんな巨大な全身を覆う光り輝く白銀色の体毛は、1本1本が文字通りダイヤモンドと同レベルの硬度を誇る。

 どころか、鈍く光る牙や爪はダイヤモンドより硬いと言われ、人間を遥かに超越した膂力で振るわれる前足の攻撃や噛みつきは、防具なんぞ紙の様に斬り裂いてしまう。


 実に———数ヶ月振りの再会だった。


「おいアルテミス、俺は何時間以内に倒せばいいんだっけ?」


 俺がダイヤウルフから目を離すことなく尋ねると、少し楽しそうな声色の言葉が返ってきた。

 

「1日だよ。君が1日の内に、このダイヤウルフを倒せたなら……君の勝ちだ」


 なるほど、1日か。

 中々に厳しいところを突いてくる。

 まぁだが———不可能でもない。



「———その言葉、忘れんなよ」


 

 俺がアルテミスに釘を刺すと同時。

 音もなく一瞬にしてトップスピードに乗ったダイヤウルフが、俺目掛けて牙を剥いた。

 体躯に見合わぬ弾丸の如き速度で俺の眼前に迫ると、減速することなく前足を振り上げ———俺を叩き潰さんと振り下ろす。

 昔ならば碌に反応も出来ず即死だっただろう一撃。

 鈍く光る爪が、空気を切り裂いて俺を地面に叩き付け———。


「ガルッ!?」

「悪いね、ワンコロ。こっちも伊達に場数踏んでるわけじゃないんだわ」


 ———ることはなかった。

 俺の瞳は、しっかりと奴の攻撃の軌道を捉えており、ギリギリのタイミングで地面を蹴って避けたのだ。


 しかし、俺は動きを止めない。


 素早く空中で身体を捻った俺は、周りに無数に生えた木の幹に着地、からの跳躍。

 ドンッ、という幹を蹴った音と共に、俺の身体が加速した。

 先程のダイヤウルフにも劣らぬ速度で奴の懐に入り込んだ俺は、目を見張ったダイヤウルフに、渾身の力を込めた剣を叩き込む。


 ———ザジュッ!!


「グルッ!?」

「がはっ!?」


 見事、俺の一撃はダイヤウルフの体毛の防御を超えてその身に傷を付けた。

 しかし、同時にこちらも致命傷の一撃も食らってしまった。


 ダイヤウルフの身体から鮮血が舞い、俺の身体が幾つもの輪切りにされ、真っ赤な血の花が咲いた。

 俺はぼんやりとした意識の中、ニヤリと笑みを浮かべる。



 ———暗転、覚醒。



 ダイヤウルフの目の前で蘇った俺は、驚愕に目を見開くダイヤウルフの片方の赤い瞳にアルテミスから貰った、何の変哲もない短剣を突き刺した。


 ———グサッ、ブジャァァァァッッ!!


「ガァアアアアアアッッ!?!?」 


 右目に短剣を刺されたダイヤウルフは、堪らず絶叫を上ると俺から距離を取り、瞳からダラダラと血を流しながら俺を鋭く睨む。

 対する俺は、自らの血の上に立って剣の切っ先をダイヤウルフに向けた。



「ふはははははは!! 遂にテメェのその頑丈な身体に傷付けてやったぞコラッ! よくも今まで散々俺を殺してくれたな? 今度は生まれ変わった新生レイトたるこの俺が、テメェをぶっ殺してやる」



 俺は、力を篭めて地面を踏み込んだ。


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 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

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