第7話 ラスボスさんですやん
———【英霊召喚】には、必ず躓く場面が何度かある。
例えば、ストーリーの1番最初のボス。
初っ端からデバフ系の力ばかり使われ、台パンした者は数知れず。
例えば、ストーリー中盤のクエスト。
一見簡単かと思ったら、ガチ勢が本気で考えたチーム編成でやっと余裕を持って勝てるレベルの、とんでもなく強い敵が乱入してくるゴミ仕様。
他にももう少しあるが……その全てを上回る難易度を誇るのが———ラスボス戦。
ラスボスの名前は———アルテミス・ル・ラシエラ・エクリプス。
流石ラスボスなだけあり、ストーリー、期間限定イベントを合わせても作中屈指の強さを誇る。
まず魔法は当たり前のように全属性使えて、弱点属性なんて存在しない。
また物理攻撃もハチャメチャに強く、普通に魔法と同じくらいダメージが入る。
更に更に———『第2形態』という名の、数千年前の超ハイテク高性能な純白のバトルスーツ状態になった暁には、一気にSF世界の戦いが幕を開けるのだ。
その代わりに、一応全部の攻撃が物理攻撃扱いになって戦いやすくなるが……まぁ火力が馬鹿上がりしているのでガチパーティーでも普通に大ピンチに陥る。
しかし、その難易度に反して人気が高い。
皆んな台パンフィーバータイムだったはずだが……男とは単純な生き物なのだ。
———キャラデザが良過ぎた。
まさにこの一言に尽きる。
腰まで伸びた、光をも吸収するほどに暗い漆黒の艶やかなストレートの髪に、血色の良い綺麗な白肌。
目鼻立ちがはっきりしており、クール系の顔立ちながら、黒と灰色のオッドアイという厨二病要素が組み込まれている。
数千年の時を生きているため、常に浮かべる蠱惑的な微笑みや醸し出す掴み所がない雰囲気から、何処かミステリアスな印象を抱かされる。
すらりとした体型で凛とした抜群のスタイルを誇り、黒を基調としたロングコートの前部分が止められていないことで、大きな胸の双丘が強調されていた。
……人気が出ないわけないですやんなぁ。
そんな男にも女にもモテそうな容姿してたらなぁ。
そんな超絶美女で尚且つ作中最強のラスボスが———目の前にいる。
「……あ、アルテミス・ル・ラシエラ・エクリプス……!?」
「おやおや……私を知っているのかい? わざわざフルネームで呼んでくれるなんて嬉しいね」
ラスボス———アルテミスは、驚愕から思わず漏らしてしまった俺の声を聞いて、心底面白そうに口元に笑みを浮かべる。
俺はそんな彼女を呆気に取られながらも反射的に心でツッコんだ。
いやいや知っているも何も、ゲームの中で何回か倒しました。
とても強くて台パンを何度もした記憶がありますよ。
あの時は大変お世話になりました———じゃない!!
「何で貴女様がこんな所にいらっしゃるのですか!?」
「どうして敬語?」
「お構いなく」
普通にビビって敬語になっちゃっただけだから。
でも貴女、礼儀正しくない人嫌いじゃん。
嫌いな奴は無慈悲に普段と変わらない笑顔で殺すじゃん。
俺は全身にびっしょりと冷や汗をかき、思いっ切り顔が引き攣りそうになるのを無理矢理押さえつけながら尋ねる。
「……この場所に何用だったんでしょう?」
「そんなことはどうでも良いからさ———私は、君のことが知りたいな?」
笑みを讃えたままのアルテミスが、椅子から降りる。
コツコツと足音を鳴らしながら俺の目の前にやって来て、かがみ込む様にして此方の瞳を覗き込んだ。
思わず2つの意味でドキッとした俺だったが……俺の今の身長が158センチ、彼女が172センチなので必然的、と言うことを理解すると同時にドキドキの1つが消え去って恐怖の1つになった。
おっと、女性から貴方のことが知りたい……何て初めて言われちゃったぜ。
これが最凶のラスボスじゃなかったら嬉しかったな。
「お、俺は、レイト・バーゲンセールです。まだまだか弱い13歳です」
「勿論知ってるよ。君の情報は見た瞬間に
そう言って、彼女は自らの灰色の右目を指差す。
何事かとじっくり見てみれば……見た目は本物の眼に限りなく近い、超精巧な義眼であることに気付いた。
……そんな能力あったんだね。
ゲームではそんなチート能力無かったじゃん。
まぁSF世界の権現みたいな彼女なら、それくらいあってもおかしくないけど。
もう何言われても驚かないかも……何て思い始めていた俺に、アルテミスが興味深そうな視線を向けながら言った。
「———ところで……私が生んだデュラハン相手に数千回死んだって本当かい?」
…………待て待て待て、何だって?
———私が生んだデュラハンだぁ??
俺はこの洞窟に入る前のデュラハンの言葉———『1日目』のくだり———を思い出してあっけなく堪忍袋の緒が切れた。
「———テメェよくもあんな頭ガチガチのチート騎士作ってくれたな!? 幾ら温厚な俺でもキレる時はキレるからな!? おい、一発……いや俺が死んだ回数分ぶん殴らして貰お———」
此処まで言って———我に返った。
同時に穴という穴から大量の汗が噴き出してくる。
ダラダラと汗をかいて焦る俺の目の前に、何処までも冷え切った冷酷な瞳で俺を見据えるアルテミスがいるのであった。
「…………」
「………………あっ……っすぅーーーー……」
マズいマズいマズいマズい……!!
これ、完全にやっちゃったよね!?
俺、デュラハンにもフルボッコなんだからラスボスのアルテミス様に勝てるわけないじゃんな!?
———と、言うことで。
「———こ、殺すなら殺せッッ!!」
俺は、ヤケクソになって地面に大の字で寝転がった。
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ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
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