第6話 邂逅
『———まさか、人間の身でこれほどまでに狂戦士に適正のある者がいたとは』
約束通り本当に丸10日間休まず戦っていたら……遂にデュラハンがドン引きした様な声色で、普通に失礼なことを言って来たではないか。
俺はそんなデュラハンに思わず言い返した。
「え、何言ってくれてんの? それだと俺がめちゃくちゃ戦闘大好きみたいに思われるじゃん! 俺はただのか弱い不死者ですけど?」
最初よりも上昇した膂力と敏捷性、眼力をフル活用して、デュラハンが繰り出してくる正確無比なハルバードの三連撃を避ける。
ただ全てがギリギリのため、俺の直ぐ真横をハルバードが通り抜ける際に、ブォンッッと風を切る音が耳朶に触れるのが死ぬほど怖い。
それどころか少しミスれば確定で死ぬので、気も抜けなかった。
既に何回死んだのか自分でさえ分からない。
正直100回辺りから数えるのが面倒になってやめた。
気付けばレベルも120まで上がり、相変わらず一撃で死ぬが、一応結構ついて行けるようにはなっている。
『……そなたがか弱いならば、この世の人間は総じてか弱いことになる』
いや何でそうなるのよ。
このゲームの世界は俺より強い奴は腐るほどいるのよ。
英霊とか現れた日には俺なんかただの雑魚……待て、英霊って人間??
あれは何方かと言えば人間では無い気が……それ言ったら数千回死んでる俺も人間ではないか。
それにしても……。
俺は一旦デュラハンと距離を取り、剣を降ろして小さく嘆息する。
そんな俺の様子にデュラハンも同じ様にハルバードを降ろし、騎馬が鼻を鳴らす。
『……強き者よ、どうかしたのか?』
「いや……全く勝てる気しないなって」
ここ10日ぶっ通しで戦ったわけだが……正直、今デュラハンに言ったように倒せる気がしない。
俺もレベルが上がれば倒せる……何て思っていたが、装備も勿論のこと、そもそも人間とアンデッドのスペックが違うのだ。
しかもレベルが上がれば上がるほど、レベルの上がる速度も遅くなるので、150になるにはあと数ヶ月は掛かりそうである。
そこからデュラハンに勝てるかは知らない。
俺が本気でどうやって勝とうか思案していると、デュラハンが不思議そうに首を傾げて言った。
『———何を言っているのだ? 我に勝つ必要はない。そなたがこの洞窟に入るに相応しいと、我を認めさせればいいのだ』
………………はい?
「ちょ、ちょっと待って。もしかして……もう資格は証明できてたってこと?」
『そうだ』
ヤバい、今直ぐにでもこの首なし野郎をぶん殴りたい。
は、じゃあ今までの俺の努力は無駄だったってわけ?
ゲームではお前倒さないと行けませんでしたやん。
「ち、因みに何だけどさ……どのくらいで認めてくれてたん?」
俺は聞いてはいけないと分かっていながらも、好奇心が勝って聞いてしまった。
そして、直ぐに後悔する。
『———1日目だ』
「しばき回したろかこのクソッタレが!!」
「———いつか絶対浄化してやる……あのクソ野郎めが」
俺はあのクソデュラハンにブチギレながら真っ暗な洞窟を歩いていた。
明かりは、近くから折ってきた木に人力で火を付けた松明モドキを使用している。
どうやらこの森の木は、物凄く乾燥しているのか直ぐに火が付くし、火持ちもとんでもなくいい。
「……これ、売れるかな」
お金は大事だ……というより早くこの森を出たい。
良い加減この森にも飽きてきたし、レベルもそこそこ上がったのでわざわざこの森に滞在する理由もないしな。
因みにこの洞窟は、随分昔にこのゲームのラスボスが使っていた元アジト的な場所らしい。
『らしい』というのは、この洞窟の奥にある無数の部屋の1つに置いてあった手紙みたいなモノに、ラスボスとそのラスボスが作った組織の名前が乗っていたからだ。
まぁその組織っていうのは、ラスボスが数千年前に作ったモノで、今ではラスボスの手を離れて形を変えながら勝手に活動しているのだが。
「さて、適当にお宝と転移アイテム手に入れて帰りますかな」
俺は松明モドキの明かりを頼りに先に進んでいく。
相変わらず気分が下がるほど陰湿な場所だ。
「これ、どこまで進むんだったっけな」
てかこの洞窟って廃墟でモンスターも居ないし走っちゃお。
音立てたところで大して変わんないしね。
何て考えてながら爆走していると———洞窟の中にあまりにも不釣り合いな真っ白な人口の扉が視界に入る。
これこそ俺が欲しいアイテムがある部屋に続く扉だ。
余談だが、一応この扉は数千年も前の扉なのに、今俺達が住んでいる世界の扉より断然高性能である。
というのも、ラスボスが生きていた数千年前には地球何かよりよっぽど文明が進んでいた、という設定があるのだ。
そのため、転移アイテムもファンタジー的なものじゃなくてめちゃくちゃ科学の結晶である。
「よぉしやっと辿り着い……」
俺は嬉々として扉を開け———絶句した。
扉と同じ真っ白な空間が広がる中、宙に浮いた白い椅子と机がある。
本来この部屋に誰も居ないはずなのだが……1つしか無い椅子に、腰まで伸びた漆黒の艷やかな髪のミステリアスな雰囲気を纏った美女が座っていた。
「———おや、珍しいお客さんじゃないか」
あら、ラスボスさんじゃないですかぁ……。
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ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
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