【完結】ドMな半魚人「浦島次郎」と ドSなマーメイド「キャサリン」の恋(作品240418)
菊池昭仁
ドMな半魚人「浦島次郎」と ドSなマーメイド「キャサリン」の恋
エピソード1
美しい月夜の晩だった。
三等航海士の浦島次郎は夜のパーゼロの航海当直を終え、ハイネケンのグリーンボトルを持って、船尾で月を眺めていた。
まるで湖を航海しているような、ベタ
インド洋に浮かぶ、銀色に輝く月の道が揺れていた。
次郎はタバコに火を点け、ハイネケンをラッパ飲みした。
「まるでこのまま月まで歩いて行けそうだなあ」
そう思った瞬間、俺はハンドレールを超えて海へ転落してしまった。
気が付くと、俺は暗い深海へと頭から沈んで行った。
(俺はこのまま死ぬのか・・・)
だが不思議と苦しくはない。息が出来る。
俺は体勢を立て直し、上に向かって泳ぎ始めた。
スイスイと上へ上へと泳いで行った。
ナポレオンフィッシュやシーラカンス、イワシの群れが眼の前を泳いでいた。
ハンマー・シャークに話しかけられた。
「おい半魚人、どこへ行くんだ?」
「半魚人? 俺は三等航海士、浦島次郎だ」
「航海士? 半魚人のお前が? あはははは」
そう言ってハンマー・シャークは笑って去って行った。
何気なく手のひらを見ると、水掻きがついていた。
俺は夢を見ているのだろうと思った。
ようやく海面に出ると、本船が遠ざかって行くのが見えた。
腕や全身は鱗で覆われ、尻尾までついている。
顔を触ると魚クンになっていた。
「ハコフグ? 何じゃこれはーーーー!」
俺は半魚ドンになってプカプカと夜の海を漂っていた。
水掻きを齧ってみた。
「痛てててて」
痛い、どうやら夢ではないらしい。俺は半魚人になっていた。ギョギョ
エピソード2
私はインド洋に漂いながら考えていた。
「これからどうすればいいんだろう?
これではまるで『Flying Dutchman さまよえるオランダ人』じゃねえか・・・。ギョギョ」
絶望である。
いくら海が好きだからと言って、半魚人になりたかったわけではない。
日本に帰りたい。
「日本で俺の帰りを待っている理沙は、今頃どうしているだろう? 理沙に会いたい。チョメチョメしたい!
あっ、大変だ! 理沙からもらったパンティ、頭に被って寝ようとして、そのままベッドに置いて来ちゃった!
俺のベッドの上にパンティが置いてあるのを見つけたクルーたちは笑うことも泣くことも出来ず、俺を哀れな変態だと嘲笑するに違いない!」
俺は自分が半魚人になってしまったことも忘れ、理沙のパンティの行方が気になって仕方がなかった。
「誰かに盗られたらどうしよう! 大切な理沙のシミ付きパンティ!」
その時、不思議と勇気が湧いて来た。
「俺は半魚人になって、理沙からもらったパンティも仕舞い忘れては来たが、まだ死んではいない。
俺はまだ生きているじゃないか!
陸上と海の両方で生きて来たこの俺だ。それがただ海で生きることになっただけじゃねえか!
理沙のパンティを被れなくなってしまったのは残念だが、俺は生きている。たとえ半魚人になってもだ。
人間だったら精々生きて80年。だが半魚人だったら?
3億年前に絶滅したとされていた、あのシーラカンスだって生きていたではないか! シーラカンスは100年生きるらしい。
ニシオンデン鮫は512年も生きているというではないか!
半魚人は人間よりも長生きなはずだ。1,000年とか3,000年とか? 半魚人は海の生物の中で一番長寿な筈だ」
私は急に希望が湧いて来た。
エピソード3
本船は既に赤道を越え、南半球を航行していた。
俺は防水腕時計を確認した。時刻はLAT(現地視時間)に合わせてある。
午前2時13分、ケンタウルス座があの位置にあるとすれば、あの星が南十字星ということになる。
取り敢えず、俺はマラッカ海峡を目指して平泳ぎを始めた。
流石は半魚人である、北島康介よりも速い。
オリンピックなら絶対にぶっちぎりで優勝出来るはずだ。
半魚人の俺でも日本国籍はある。日本選手としてオリンピックに出場することは可能だ。
カタコトの日本語すら話せず、ずっと海外で暮らし、明らかに日本人ではない風貌でも、「日本人」として競技に参加させているではないか!
俺は半魚人だが日本で生まれ、日本で育ち、チョメチョメする恋人の理沙も日本人だ。大阪人だけど日本人だ!
故に俺は半魚人ではあるが、れっきとした純日本人である。
オリンピックに出場して金メダルが欲しい!
マラッカ海峡は海上交通の要所である。年間10万隻もの船舶が往来し、海賊も多い危険海域だ。
だが日本へ向かう船舶も多い。タンカーかコンテナ船に乗船させてもらい、日本まで連れて行ってもらおう。
ペルシャ湾から原油を満載しているタンカーなら喫水が深いので、船にも海から上がり易い。
俺は必死で平泳ぎを続けた。
しばらく泳いでいると、白イルカが俺の隣で泳いでいた。
「おいワレ、どこへ行くんじゃワレ?」
「関西弁? お前、白イルカじゃないか、めずらしいな?」
「ワシなあ、昔、大阪湾に住んでいたことがあってな? あやうく天保山の『海遊館』に捕まるところやったんや。あぶない、あぶない」
「どうりで関西弁が板についているわけだ」
「半魚人なんて、久しぶりに見たで。
でもワレ、ホンマにツイとるがな。ワシはこれでも昔はトリトン様を乗せて、世界中の海を渡ったもんや。
世界中のメス・イルカの話、聞きたいやろ? このスケベ半魚人。
どや? 平泳ぎも疲れるやろ? ワシの背中に乗るとええがな、日本まで連れて行ってやるさかい」
「いいのか? それじゃあ悪いんだけど、マラッカ海峡まで乗せて行ってくれないか?」
「おやすい御用や。ええのんか? マラッカ海峡までで? ワシ、そこらへんの貨物船よりも泳ぐのは速いで。
この前なんか、アメリカの空母、『カールビンソン』にも勝ったよってな? よう知らんけど」
「そうなん? 凄いやないの! あれ、いつの間にか俺まで関西弁になっちゃったよ。あはははは」
「あはははは ワシの名前はルカーや。
これも何かの縁やな? 「ヒレ擦れ合うも
「俺は浦島次郎、浦島太郎は俺のご先祖さんなんだ。でもそれを言うなら「ヒレ」じゃなくて「袖」だよ」
「ええツッコみするやないの? 浦島次郎はん。アンタ人間やったん? なんでまた半魚人なんかになったんや?
どや? ワシと一緒に吉本興業に入って、お笑いにならへんか! お笑いは儲かるでえ!
女とはヤリ放題、あの伝説のお笑い芸人、『ダウン・ダウン』の梅本タケシと、すぐに人をどつくチンピラ芸人、ハモちゃんみたいになろうやないの! 後輩芸人もテレビ局もひれ伏すようなお笑い芸人、目指そうやないの!」
俺はうれしかった。
なぜならルカーという友だちが出来たからだ。
俺は孤独から開放された。
「ほな行くでえ! しっかり掴まっといてやあ!」
「たのんだよ、ルカー」
「まかせときー!」
ルカーはボーイング社のジェット・ホイールのように爆進を始めた。
エピソード4
ルカーは3日間、一日も休まずに泳ぎ続けてくれた。
「大丈夫か? 休まないで泳いで?」
「大丈夫や、次郎はんは寝ててもええで」
「ごめんねルカー、俺のために。重いだろ? 俺も泳ごうか?」
「気にせんでええよ、半魚人のアンタよりワシの方が速いよってな?」
しばらく行くと、陸の匂いがして来た。
「land fall! 陸地が見えた!」
「明日にはマラッカ海峡やな?」
「ルカーは凄いな? 正確なジャイロコンパスを搭載しているみたいだ」
「ワシらイルカは地球の磁気を感じることが出来るよってな? それに海のことは頭にちゃんと入っておるさかいな? イルカの脳みそは人間よりもシワが多いんやで」
そんな話をしていると、小さな岩の上で竪琴を弾いて歌を歌っている、金髪の女がいた。
ジャニス・イアンのように透明な歌声、ジェニファー・ロペスのようなプロポーション。
俺は女とチョメチョメすることがしばらくなかったせいなのか、岩に打ち上げられたジュゴンか、マナティがブロンド美人に見えたんだろうと思った。
「ねえルカー。あそこで歌を歌っているのはジュゴンかい?」
「ジュゴンやのうて、人魚やで。めずらしいなあ、こんな沖に人魚やなんて」
「人魚! 本当にいるんだね? 人魚なんて」
「シーラカンスだっておるんやで? プロシオサウルスだっておる。ネス湖のネッシーは怪しいけどな?
そやから人魚くらいおるがな」
「そうかあ、あの海の魔女、セイレーンがこんなところに・・・」
「セイレーンはエルベ川の魔女やろ? あの人魚はキャサリンや」
「キャサリン? 綺麗な女、じゃなかった人魚だね?」
「でも気をつけや。キャサリンはあんな顔してドSやから」
「ドS? 俺はドMだからちょうどいいかも」
「だったらチョメチョメ、三丁目、四丁目して来たらええ」
「そんなに簡単にチョメチョメさせてくれるの?」
「それは次郎はん、アンタの腕次第やで。よう知らんけど」
俺はキャサリンに一目惚れだった。
エピソード5
ルカーがキャサリンに話しかけた。
「キャサリン、相変わらずええ声しとるやないの?」
「当たり前でしょう? 私をいったい誰だと思っているのよ。
ダイアナ・ロスかキャサリンかって言われているんだから」
「ダイアナ・ロス? ちょっと古いんやないか?」
「ダイアナ・ロスのどこが古いのよ!
知らないの? あの名曲、『if we hold on Together 』を?」
「よう知らんなあ」
「知ってるよそれ、今井美樹と石田純一、松下由樹が出演していたドロドロのドラマ、『思い出にかわるまで』の主題歌だったよね?」
「よく知ってるじゃないの半魚人。アンタ名前は?」
「初めましてキャサリンさん。俺、浦島次郎といいます」
「ウケる、何それ、浦島次郎って? あはははは」
「元々は俺、人間だったんですよ。
貨物船の三等航海士だったんです。インド洋を航行していると、あまりにも月がキレイだったので、気がついたら見惚れて海に落ちて半魚人になっていました」
「バッカじゃないの? 「月夜の海は見るな」って、そんなの船乗りの常識でしょう?」
「歩いて行けそうになるんですよねえ、月に向かう月光の道を」
キャサリンは竪琴を爪弾いた。
「次郎はん、アンタとチョメチョメしたいんやて」
するとキャサリンは大きな尾びれで次郎を往復ビンタした。
(ああ、快感・・・)
「100万年早いわよ! この変態! 仮性包茎!」
「なっ? だから言わんこっちゃない、ワシが言うたとおりやろ? キャサリンはサドの女王なんよ。シバの女王やないで、サドの女王なんや。
新潟の「佐渡」やないで?」
「キャサリンさん、俺はあなたに恋をしました! 付き合って下さい!」
俺は水掻きの付いた手をキャサリンに差し出した。
「ふざけんな! 誰が半魚人なんかと付き合うかよ!」
「今は同性愛が認められている時代ですよ! 人魚と半魚人が付き合ったっていいじゃないですか?」
「それじゃあお前の気持ちがどれほどのものか、試してやる。
この500マイル先のコンビニで、焼きそばパンを買って来い。ただし、イルカには乗らないこと。自分のチカラで泳いで行け。話はそれからだ」
「コンビニまでは遠いで、マラッカはどないすんの?」
「ごめんルカー。ちょっと行ってくる」
俺は必死で泳いだ。焼きそばパンを買うために。
エピソード6
俺は泳ぎ続けた。24時間泳ぎ続けた。
「はあはあ 焼きそばパン、キャサリンのために焼きそばパンを買うんだ」
バシャバシャ バシャバシャ
焼きそばパンを買って、早くキャサリンに届けなきゃ。
そうすればキャサリンはきっとこう言うはずだ。
「次郎! 私の大好きな焼きそばパンをありがとう! 次郎大好き! ブチュブチュ ベロベロ チュパチュパ チュパチャップス」
そしてそれから長いチョメチョメ・タイム。
しばらく泳いでいると、
『セブン・イレてね?』
店長はタコだった。ネーム・プレートには「オクトパス八郎」と書かれていた。
俺はレジ脇にある焼きそばパンを見つけ、うれしさのあまり飛び上がった。
「やったー! この焼きそばパンをひとつ、いや、3つ下さい。PAIPAIは使えますか?」
「はい、大丈夫です。レジ袋は必要ですか?」
「お願いします、濡れるといけないので。ジプロックはありますか?」
「ありますよ、そちらの棚にあるはずです、そこにある人魚のパンティ・ストッキングの隣にあるやつです」
「ああこれですね? ではこれもお願いします」
「こちらをご確認の上、「確認」パネルを押して下さい」
「えーと、これですね? 何々、「半魚人ですか?」? 「YES」と」
「ありがとうございました」
俺は全力で泳いだ。まるでトビウオのように泳いだ。
「はあはあ 買って来たよ、キャサリン! 君の好きな焼きそばパンだ。ハイどうぞ。
ルカー、君もどうぞ、みんなで食べようよ」
ルカーの顔がなぜか悲しそうだった。
「どうしたのみんな? 早く食べないと海水でビショビショになっちゃうよ」
するとキャサリンが焼きそばパンを空に放り投げた。
「ちょっとキャサリン! 何をするのさ!」
その焼きそばパンは、アルバトロスが咥えてどこかへ飛んで行ってしまった。
「何をするんだよ、キャサリン! せっかく命懸けて買って来た焼きそばパンを!」
「メロンパンが食べたい。チョコチップの入っているやつ」
「だって「焼きそばパンが食べたい」ってキャサリンが言うから」
「そんなの知らない。今はメロンパンが食べたいの! 早く買って来て!」
するとルカーが焼きそばパンを食べながら俺に耳打ちをした。
「もぐもぐ おおきに次郎。この焼きそばパン、少し塩っぱい味がするけど美味しいで」
それは海水が付いたからではなく、ルカーの流した涙が焼きそばパンに落ちたからだった。
(イルカが泣くって本当なんだ)
「次郎はキャサリンにからかわれたんやで、ドSの人魚、キャサリンに。
キャサリンはそういう人魚や、そんなことくらいでキャサリンは人魚スパッツを脱いだりせえへん」
「えっ? あれってスパッツなの? けっこうあの尾びれの往復ビンタ、痛かったけど?」
「そうや、そしてたとえ人魚スパッツを脱がせても、次は鋼鉄のパンティを脱がさなあかん」
「アイアン・パンティ?・・・」
「だからはよ行こうや、マラッカ海峡に。ムシャムシャ モグモグ
ここに居ても時間の無駄やでホンマ、次郎」
「俺、メロンパンを買って来る!」
「次郎・・・」
「ちょっと半魚人、アーモンドクランチ・キャラメル・フラペチーノも忘れんなよ」
「わかったよキャサリン」
俺は再び泳ぎ始めた。
キャサリンの人魚スパッツとアイアン・パンティを脱がして、チョメチョメするために。
エピソード7
「おいキャサリン、いいかげんにせんかいワレ。次郎はワイの親友なんやで。
その気がないならからかうのは止め!」
「別にいいでしょう? 毎日ここにいると退屈しちゃうんだから」
「だからって次郎はんの気持ちを
「男って本当にバカよね? エッチすることばっかり考えて」
「男にとって女はな? ずっと見ていたい宝石なんや。
それを手に入れるためなら何でもする。
男にとっていい女と付き合うことは男の夢であり、憧れなんや」
「私にもそんな男がいたなあ。ネプチューン。いい男だった」
「あのお笑いのか! 名倉潤、原田泰造、ホリケン! 凄いやんか!」
「そうじゃないわよ、ローマ神話の海の神様のことよ」
「ああポセイドンのことな? ギリシャ神話の」
「アンタ、『海のトリトン』に出ていたくせにそんなことも知らないの!」
「ポセイドンなら知ってるで。だってトリトンのパパさんやから」
「ならお母さんは誰か知ってる?」
「アムピトリーテ!」
「ローマ神話ではサラーキアよ」
「それじゃあお前はネプチューンの名倉潤と不倫していたちゅうわけやな? 渡辺満里奈というべっぴんさんの奥さんがおるのを知りながら?」
「だからお笑いのネプチューンじゃないって言っているでしょ! イルカってホントはバカなのね?」
「とにかくや、もう次郎はんをからかうのは止めてくれへんか?
かわいそうで見ちゃおれんて。ムシャムシャ」
「ルカー。いつまで焼きそばパンを食べているのよ」
「だってコレ、けっこう旨いで? よく味わって食べんと。 モグモグ」
その頃俺は全力で泳いでいた。
段々泳ぎが上手くなり、今では池江璃花子みたいにバタフライも出来るようになっていた。
「アイアン・パンティ、メロンパン、アイアン・パンティ、メロンパン。 はあはあ チョコチップ・メロンパンを買って、早くキャサリンに届けなきゃ」
次郎はドルフィン・キックでさらに加速して泳いだ。
スケベ心は男のパワーの
エピソード8
海上コンビニ、『セブン・イレてね?』が見えて来た。
「すみませーん! チョコチップの入ったメロンパンを3つ下さーい!」
「メロンパンはありますけど、チョコチップは入っていませんよ」
「じゃあダメだ。この近くにパン屋さんはありませんか?」
「ここから北北東、200マイル先に『パンと紅茶の店・パン&ティ』がありますけど、チョコチップ・メロンパンがあるかどうか?」
「わかりました。北北東に200マイルですね?」
「別にメロンパンとチョコを買えばいいんじゃないですか? どうせお腹で混ざっちゃうんですから」
オクトパス八郎は言った。
「それじゃダメなんです! チョコチップ入りのメロンパンじゃないとダメなんです!」
「でもそこにチョコチップ・メロンパンがあるかどうかわかりませんよ? ちょっと待って下さい、電話してみましょう」
ジーコジーコ(サッカーの監督じゃないよ、昔の黒電話のダイヤルを回す音)
「もしもし、『パンティ』さんですか? 違う?『パン&ティ』?
なるほど。ところでそちらにチョコチップ入りのメロンパンはありますか? はい、ある? はい。それではそれを3つ、16時間後くらいに半魚人の次郎さんという方が買いに行きますから、はい、そうです、半魚人です。
えっ、はいそうですねえ、今どきめずらしい? はあ、とにかくこれから行きますのでよろしくお願いします」
電話を切ったタコ八郎、じゃなかったオクトパス八郎が言った。
「あるそうですので取り置きをお願いしておきました」
「ありがとうございます! あー喉乾いたあ。この海水ソーダ、『アクアエリアス』を下さい」
「150トリトンになります。それじゃあお気をつけて」
「行って来まーす」
次郎は16時間かけて200マイルを泳ぎ切った。
「チョコ入りレモンパンを下さい!」
するとかわいいメロン頭の店員さんがチョコチップ・メロンを持ってやって来た。
「レモンパンじゃなくてメロンパンですよね? あなたが半魚人の次郎さんですね? ウケるう~。はい、どうぞ。メロンメロンパーンチ!」
「あはははは じゃあPayPayで」
「はい、ありがとうございます」
「それじゃあまたいつか! バイバイキーン!」
「お気をつけてー! メロンメロンパーンティ! あはあは」
次郎は再び全力で泳ぎはじめた。
キャサリンにチョコチップ入りのメロンパンを届けるために。
バシャン バシャン
エピソード9
半魚人、次郎はようやくキャサリンとルカーのところに戻って来た。
体の鱗はボロボロ、水掻きも破れていた。
「キャサリン、ルカー、買ってきたよー、チョコチップ・メロンパン!
メロンメロン、パーンチ!」
「たいへんやったなあ? 次郎はん。 こんなにボロボロになってしもうてからに・・・」
「これくらい平気だよ、さあ食べて食べて」
するとキャサリンはチョコチップ・メロンパンを一口齧ると冷たく言った。
「レインボー・パールが欲しい。あれがあれば何でも願いが叶うのよ。取って来て」
「それはあかんて。レインボー・パールは深海の底、デッド・エンドにある真珠やで!
とても無理やて。それだけはあかん、絶対に不可能や」
「やってみなけりゃわかんないでしょう? いいから取って来て」
「わかったよ、キャサリン。俺、その真珠を取って来る」
「レインボー・パールはな? タコの化け物、デイヴィ・ジョーンズに守られているんやで?
近寄っただけで食われてしまうでえ! ホンマ!」
キャサリンは竪琴を鳴らし、試すように言った。
ボロロロロン♪
「どうするの? 行くの行かないの?」
その時だった、海面に巨大なホオジロザメが現れたのは。
「竪琴の音がすると思ったら、やっぱりキャサリンじゃねえか?
俺の女になれよ。毎日人間を食わせてやるぜ? 半魚人もな?」
「アンタは引っ込んでなさいよ!」
「相変わらず強気な女だ。嫌いじゃねえぜ、そんな人魚」
そう言うとホオジロザメのジョーズに手足が生え、キャサリンをさらった。
「さあキャサリン、今日からお前は俺の女だ。たくさんのコバンザメに吸い付かせてやるぜ。
うふふふふ ははははははは」
「キャー、助けて次郎!」
「キャサリンを離せ!」
「離さなかったら? どうする? 半魚人」
「代わりに俺を食べろ」
「半魚人を? そんな不味い半魚人なんか食えるかよ」
「それじゃあレインボー・パールと交換だ!」
「何? お前、レインボー・パールを持っているのか?」
「これから取りに行くところだ」
「あのデイヴィ・ジョーンズのところに行くと言うのか? そいつはいいや。あはははは あはははは
お前、間違いなくすぐに食われるぜ」
「俺は必ずレインボー・パールを取ってここへ戻って来る。真珠はお前にやるからキャサリンを返してくれ」
「面白え。それじゃあ明日の日没までにレインボー・パールを取って来い。
そうすればキャサリンは離してやる」
「よし、約束だぞ!」
次郎は深く海へと潜っていった。あの伝説の素潜りダイバー、ジャック・マイヨールのように。
「バカな男だぜ。あの化け物に敵うはずもねえのによお」
「次郎・・・」
キャサリンを抱えたまま、ジョーズは笑っていた。
「次郎はん・・・、オー、マイ・ガーッ!」
イルカのルカーは胸の前で十字を切った。短いフリッパーで。
エピソード10
浦島次郎は深海へと落ちて行った。
深海は暗黒の世界である。半魚人は自分で光を出すことが出来ない。
次郎はチョウチン・アンコウに道案内を頼むことにした。
「チョウチン・アンコウさん、すみませんが道案内をお願い出来ないでしょうか?」
「どちらまで?」
チョウチン・アンコウは渋いバリトン・ボイスで行き先を尋ねた。
「レインボー・パールのあるところまでお願いします」
「レインボー・パールだと? それは止めておいた方が身のためだ。
タコの化け物に食われてしまうぞ」
「でもどうしてもレインボー・パールが必要なんです。
人魚の
「操? あの「奥様クイーンズ」のアレか?」
あなた~の~ため~に~♪
守り~通した 女~の~みさあお~♪
「そうです、女の一大事なんです! チョメチョメされちゃうんです!」
「しょうがない、でも途中までだぞ」
「ありがとうございます!」
次郎はチョウチン・アンコウの協力に感謝した。
深海の生物はみんな各々自分自身で光っていた。ポツリポツリとまるで田舎の歓楽街のようだった。
ハダカイワシ、ヒカリキンメダイ、ホタルイカにリュウグウノツカイ。
あれ? リュウグウノツカイは光らないよね? よう知らんけど。
とにかく深海の生物は自ら光を出していた。
(そうか! 暗いから自分で光るしかないんだ!
つまり今の世界も暗いから、そのうち人類も光り出すかもしれないな?
別にハゲチャビンじゃなくてもだ)
次郎はそんなどうでもいいことを考えていた。
チョウチン・アンコウが明かりを消した。
「これから先は自分で行け。レインボー・パールはデイヴィ・ジョーンズという映画、『カリブ海の海賊たち』にも出演していた悪役だ。まともに闘っても勝てる相手ではない。
そこでこれをお前にやろう」
パッパラパッパッパーッ
「ボク、チョウチン・アンコウ左衛門~っつ、『ジャンボたこ焼き器』!」
いいか? これを使ってアイツを倒せ。
尚、この『ジャンボたこ焼き器』を使うには呪文を唱えなければならない。
呪文の言葉はあの『シルバー・オクトパス』のお姉ちゃんが言う、「青のりと鰹節はおかけしてもよろしいですか? 美味しく召し上がれますように」だ。忘れるなよ」
「わかりました」
「メモしなくてもいいのか?」
「メモしてもどうせ見えませんから」
「携帯は水圧で壊れてしまったからなあ。
まあとにかくがんばれ。じゃあな?」
それだけ言うとチョウチン・アンコウは去って行った。
しばらく泳いでいると、深海だというのにあの愛と美と性、そして戦いを司る女神、アフロディーテがアソコを隠して立っていた、ボッティチェッリの『ヴィーナスの誕生』に描かれた、あの大きな貝殻の上で何かが強烈に光っているのが見えた。
「あの貝殻は! 確かに福島のラブホの貝殻ベッドと同じ貝殻だ! 間違いない!
そうか! あそこで光っているのがレインボー・パールだな?」
「なんて美しい真珠だ! 俺のチ◯コよりもデカいじゃないか!
これではチ◯コに埋め込むことも出来ない! なんてデカい真珠なんだ!」
次郎はレインボー・パールに近づき、それにそっと手を伸ばした瞬間、大きなタコの足? 手?が次郎の手と首に絡みついた。
「くっ、苦しい!」
「お前、何しておるんじゃ! お好み焼きは広島じゃけん! 焼きそばも入ってブチ旨いんじゃコラ!
オタフクソース、なめてんのかコラッ!」
デイヴィ・ジョーンズは出鱈目な広島弁でまくしたてた。
(明石じゃねえのかよ?)
(そうだ! このジャンボたこ焼き器で『シルバー・オクトパス』にしてやる!)
次郎はすぐに呪文を唱えた。
「鯛焼きクロワッサンはいかがですか! 美味しいですよ!」
「お前、どこぞの精神病院から逃げて来たんか?」
「おかしい! 呪文を間違えたか!
呪文の言葉、なんだったっけ? えーと、えーと」
「ゴチャゴチャとうるさい半魚人じゃ! 小田原名物の蒲鉾にしてやるけえのう!」
絶体絶命! もうダメかと思ったその時、次郎の薄れゆく脳裏に『シルバー・オクトパス』のオッパイの大きなスタッフさんが思い浮かんだ。
(青のりと鰹節はおかけしてもよろしいでしょうか?)
「青のりと鰹節はおかけしてもよろしいでしょうか?」
するとたこ焼き器にガスが点いた。
ゴゴゴゴゴーッ
(美味しく召し上がれますように)
「美味しく召し上がれますように!」
すると大ダコのデイヴィ・ジョーンズの足が、いや手?がジャンボたこ焼き器の油の中へと切り刻まれ、ネギや紅生姜、そしてたこ焼きの生地と一緒に焼かれて行った。
「ウギャー!」
デイヴィ・ジョーンズの足は、いや手?は無くなってしまった。
(でも安心して下さい、タコだからまた生えてきますから。
Don't worry, I'm wearing pants!)
次郎はすぐにレインボー・パールとたこ焼きを沢山持ってキャサリンたちの元へと急いだ。
せっかく魔法の真珠があるのだから、「どこかへ扉」でも出せばいいのに。
次郎は少しおバカであった。
最終回
「取ったどーっ!」
俺はかつての無人島芸人のように海面を出ると叫んだ。
「よし、よくやった。それじゃあそのレインボー・パールを俺に寄こせ」
「その前にキャサリンを放すのが先だ」
ジョーズはキャサリンを開放した。
「次郎!」
キャサリンは一目散に次郎の元へと泳いだ。
「ありがとう次郎! 私のために ううううう」
次郎はレインボー・パールをジョーズに渡した。
「おお、これが何でも願いが叶うという、伝説のレインボー・パールか!
これさえあれば七つの海は俺のものだ!
大奥も作れるぞ!」
ジョーズは大喜びである。
「さあキャサリン。みんなで『シルバー・オクトパス』のタコ焼きを食べようじゃないか?
あのタコの化け物は退治してタコ焼きにしたんだ。
ジョーズも一緒に食べようぜ」
「俺もいいのか? 俺はお前を食べて、キャサリンとチョメチョメしようとしたホオジロザメだぞ!」
「でも今は友だちじゃないか? さあ青のりと鰹節はもうかけてある。
マヨネーズは辛子マヨネーズと普通のマヨネーズがあるけど、どっちがいい?」
「それじゃ普通のやつで」
次郎はジョーズに上手にジョーズの絵を描いた。そうじゃなくてジョーズのタコ焼きに上手にマヨネーズをかけてあげた。
「どうだ? マヨネーズをかけると美味いだろう?」
見るとジョーズは泣いていた。
「泣くほど美味いのか?」
「俺は海の嫌われ者だった。俺は海の生き物の中ではライオンのように強い。
だが人間には敵わねえ。見つかるとすぐに殺されてしまう。
フカヒレを取られてしまうんだ。
そんな嫌われ者の俺に、『シルバー・オクトパス』のタコ焼きをくれるなんて・・・。ううううう」
「そんなに泣いたら海の水が塩っぱくなっちゃうよ」
「次郎はん、もう塩っぱくなってまんがな? 海水なんやから」
「流石は大阪の天保山の海遊館に捕まりかけたイルカだ、良いツッコミだね?」
そしてみんなで仲良くタコ焼きを食べた。
「次郎、あなたが好きよ。大好き」
「俺もだよ、キャサリン」
「抱いて。私のこの人魚スパッツとアイアン・パンティを脱がせてちょうだい。
そして半魚人のあなたの赤ちゃんを産んであげる」
「キャサリンに似て、ジャネーズみたいなイケメン男子か、神楽坂56みたいなカワイイ女の子が産まれるといいなあ」
「半魚人がいいわ。あなたみたいなやさしい思い遣りのある強い半魚人に産んであげる」
「キャサリン」
「次郎」
「それじゃ! そういえばこの先に『ホテル竜宮城』があるさかい、そこでチョメチョメするとええんとちゃうの?」
「ありがとうルカー」
「ほな、もうマラッカ海峡には行かんでもええんやな?」
「うん。俺はここでキャサリンとしあわせな家庭を作るよ、半魚人と人魚のファミリーを」
「そないなると半魚人とマーメイドのハーフが産まれるっちゅうわけやから、もし半魚人の子供が産まれたら、「半々魚人」になるんやろか?」
「なるほど、半々魚人か? それもいいかもな?」
「素敵、半々魚人なんて」
するとジョーズが次郎にレインボー・パールを返してよこした。
「これは君にあげた物だよ」
「いいから受け取ってくれ。俺からの結婚祝いだ」
「これは君との約束だから君が持っていてくれよ。
それに俺はもう願いは叶ったんだ」
「次郎・・・」
「さあ次郎、チョメチョメしに行きましょう!」
「ありがとうジョーズ、そしてルカー。それじゃあみんな、さようなら。いつかまた会おう」
「ああ、必ずな?」
「絶対やで! 次郎はん。ううううう」
「さようならみんなあ」
「サードオフィサー(三等航海士)、当直交代15分前です」
クォーターマスター(操舵手)のキムが起こしに来てくれた。
「ありがとう。了解だ」
どうやら俺は夢を見ていたらしい。
ブリッジ(操舵室)に上がると進路方向に大きな月が出ていた。
満月への黄金の道が続いていた。
チーフオフィサー(一等航海士)との航海当直の引継ぎを終えると、チーフオフィサーが言った。
「この海域には昔、キャサリンという美しいマーメイドがいて、その美貌と美しい歌声で船乗りを誘惑し、船を沈めたという伝説があるらしい。
こんな静かな月夜は要注意だな? それじゃあ、ねがいます」
航海士は業務の交代時に「ねがいます」と声を掛けるのが通例になっている。
「お疲れ様でした」
私はウイングに出て潮風に当たった。
どこからか、
「キャサリン? まさかな?」
キャサリンとルカー、そしてジョーズは次郎の船をいつまでも見送っていた。
月の綺麗な夜の航海だった。
『ドMな半魚人「浦島次郎」と ドSなマーメイド「キャサリン」の恋』完
【完結】ドMな半魚人「浦島次郎」と ドSなマーメイド「キャサリン」の恋(作品240418) 菊池昭仁 @landfall0810
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