160. これ戻ったらとんでもない生活になるのでは……
「やったああああ!」
という歓声が沸いたのは一瞬だった。
何故ならそれだけ疲れていたから。
「お疲れ、皆」
「お疲れ、ダイヤ」
はしゃぐ力も残されておらず、集まった面々は力無く穏やかに労をねぎらい合う。寒々しい荒野の中で未だ戦いの熱気治まらず、それを少しずつ解放するかのようにダイヤ達は大人しく息を整える。
「年寄りばかりだな」
「そう言ってる朋が一番年寄りっぽいよ。座り込んじゃってさ」
「仕方ないだろ!? これ着ながら走り回ってたんだからさ!」
「朝トレやってて良かったでしょ?」
「マジそれな」
馬を相手にひたすら逃げて逃げて逃げながらの戦いはスタミナがいくらあっても足りない程だった。ダイヤの朝トレに付き合って鍛えて無ければ、途中でスタミナが切れて
「お、ダイヤ。ようやくおでましだぜ」
「遅かったね」
ソレは亡馬の堕女神を撃破した証拠のようなもの。
緑の靄と赤黒いオーラ。
濃厚で大量のそれらが、未だ戦い合っているかのように絡み合いながら出現した。赤黒いオーラがまだ抵抗しているから出現が遅れていたのかもしれない。
だがそれももう終わりだ。
オーラは苦しむかのように天に向かってとぐろを巻き、そのまま静かに消滅した。
音も無く、言葉もない。
だが不思議とダイヤ達は断末魔のようなものが聞こえた気がした。
そして残されたのは緑の靄。
報酬であるそれはチームメンバーで分割して貰えるものであり、『精霊使い』であるダイヤと朋と常闇はアイテムにするか経験値にするかを自由に選択可能だ。
「そういえば、この緑の靄も地球さんが用意したものだよね?」
「はい、そうです」
「おっと、戻って来たんだ」
地球さんは戦いが始まると何処かに消え、終わると出現する。望の姿をした地球さんはダイヤの隣に突然出現したが、予想していたのかダイヤはさほど驚かなかった。
「この靄は私の力の欠片のようなもの。そして魔物を倒した者への報酬としての性質を帯びています」
「人類に職業やスキルを付与した靄とは違うものなの?」
「本質的には同じです。ただ、報酬としての在り方を強めているため厳密には別の物と化していますが」
靄そのものは単なる力でしかない。そこにどういう方向性を持たせるかで在り方が変わってくる。
人類に職業を付与し、ダンジョン探索の妨げとなる存在を排除する。
魔物を倒した者へ褒章を与える。
力無き精霊として周囲を漂わせる。
そういう方向性を持たせている、あるいは持ってしまっているだけであり、いずれも地球さんの力の欠片である。だからこそ地球さんと相性が良く、コミュニケーションを取れる『精霊使い』はその力にお願いして姿形を選ぶことが可能なのだ。
「それじゃあありがたくその報酬を頂くとするよ」
「はい、どうぞ」
ダイヤが願う報酬は決まっている。
「(スピに人の心を)」
それが正しい決断なのかどうか未だに悩んでいるが、やると決めたからには迷わない。ダイヤの取り分である緑の靄はダイヤの体内に吸収され、スピへと力を与える。
成功したらスピとの話が必要だろう。
ダイヤは皆から少し離れた所へと移動し、スピに脳内で問いかけた。
「(スピ、どう?)」
その問いに答えるようにスピは具現化する。
その姿はエロメイド服では無く、クラシックな落ち着いた雰囲気のメイド服だった。
「(人の心を得て羞恥心が芽生えたとか?)」
否。
全くの逆だった。
清楚な姿で己を厳しく律しなければ、どうにかなってしまいそうだったのだ。
「んっ」
「!?!?」
スピはダイヤの両頬に両手を優しく添えると、物凄い勢いで唇をぶつけて来た。
「
「ちゅっ……くちゅっ……はむっ……じゅるっ……」
「
ついばむように、そして一飲みするかのように大胆に。
柔らかな唇を情熱的に押し付けてきたかと思ったら、初々しく唇を優しく噛み、遠慮なく舌を入れて咥内を怪しく蹂躙する。
激しさと優しさと怪しさが混じった濃厚としか言えないキスを、常にリズムを変えながら延々と繰り返す。
ダイヤはまさにされるがまま。
スピの両手で顔を固定されてしまっているのだから、逃げられる訳が無い。
「
「ちゅくっ……あっ……じゅるるるるっ……ああっ……くちゅっ……」
キスの合間に艶めかしい吐息が混じるようになり、ダイヤは脳髄が焼けてしまいそうな程に興奮してどうにかなってしまいそうだ。
ここがハーレムハウスで二人っきりなら、間違いなく暴走してしまっているだろう。
スピの行いはまるでダイヤを使って己を慰めているかの様子だった。
「(スピを我慢させ続けた自覚はあるけど、ここまで乱れるだなんて何があったんだろう?)」
ダイヤが願ったのはスピに人の心を付与することだった。
その結果、ダイヤを責めることはあっても、こんな風に情熱的になるだなんて思いもよらなかった。
もしかして願いを失敗してしまったのだろうか。
人の心を付与したいと考えながらも、心の奥底ではエロエロなやましい願いがあり、それが強制的に叶えられてしまったのではないか。
そう一抹の不安が心の中に芽生えかけたその時。
「いいえ、旦那様は成功しました。私には人間としての心が備わっています」
ダイヤの考えなどお見通しなのか、スピがキス体勢のまま見当外れの疑問をバッサリと否定した。
「じゃ、じゃあどうしてこんなこと……」
「旦那様のことが愛おしくてたまらないからです」
「!?」
「私を精霊としてではなく、人として愛して下さろうとする。そのお心がこの上なく嬉しかったのです」
「で、でもそれはんんっ!?」
反論などさせないと言わんばかりに、スピは再び唇を押し付けてくる。まるで野獣のようにダイヤを求め、貪り、思考力すらも奪って行く。
ダイヤが何を考えていようとも、スピは嬉しかったのだ。
精霊としてではなく、同じ人として扱おうと考えてくれていることを。
いや、最初から同じ人として扱ってくれていたことが。
人とは違う不確かな怪しい存在の精霊。
それを道具ではなく人として扱い、大切に想い、悩み苦しんでくれた。
何よりもそのことが嬉しかった。
えっちなお姉さんとしての自分など関係なく、スピとして嬉しかった。
だからその気持ちを伝える。
言葉ではなく態度で、余すことなく自分の想いを伝える。
ダイヤがスピを生み出したことをネガティブに想うのならば、その気持ちを破壊し尽くす程に想いを伝え続ける。
この時、ダイヤはようやく精霊の愛の重さについてワカラサレタのであった。
「ずーるーいー!」
「そうだそうだー!」
「私達にも権利があるぞー!」
「そうだそうだー!」
超濃厚なイチャラブを見せつけられて黙っていられないのが
「…………」
「…………」
更には
「若いって良いなぁ」
「いくら戦いの後だからってやりすぎちゃう?」
狩須磨と俯角は呆れ、その他の一年生組は何処となく気まずく少し離れた所に陣取っている。
そんな彼らのことなど、どこ吹く風。
スピはダイヤの右隣に立ち、右腕を豊満な胸に強く抱くようにして体を寄せていた。
「さぁ旦那様。早く帰りましょう」
「帰ってもスピの好きにはさせないわよ!」
「そうだそうだー!」
この状況でハーレムハウスに戻ってしまったら、間違いなくダイヤはスピに搾り取られてしまうだろう。だがもちろんそれを簡単に許すヒロインズではない。
はずだったのだが。
「旦那様は『並列思考』を覚えていますから、奥方様も愛して頂けますよ」
「え!?」
「え!?」
「え!?」
慌ててダイヤがスキルを確認すると、確かに『並列思考』スキルを覚えていた。
「どうりで堕女神から逃げる時、冷静に考えられたと思ったら……」
実は大軍と戦った後に、すでに覚えていたのだ。
「ダイヤが分身と並列思考を覚えた。ということは……」
「……私達を……同時に」
ナニを想像したのか、しゅぼっと赤くなってしまう
ハーレムの条件は未達なので本番は出来ないが、そこに至るまでの濃厚なアレコレは可能なのだ。
ついにその時が来たのだと理解してしまった。
「あ、あはは……」
「旦那様、ファイト」
下半身が反応しないようにするのに必死である。
「若いって良いなぁ」
「あまり見せつけんといてくれへん?」
だがこんな平和な色ボケ未来を堪能できるのも、死闘を乗り越えたからだ。
貴重な情報を入手し、それを持ち替えさせまいとする敵の襲撃を返り討ちにし、ダイヤ達は誰一人欠けることなく目標を完遂した。
もちろんまだまだ高いハードルは残っている。
強化されたダンジョン二十をどう突破し、概念的存在の侵略を防ぐか。
その答えを見つけなければ、どのみち世界は侵略者に喰われて滅亡してしまうのだ。
そこに至るまでの時間は短く、世界が一致団結して臨まなければならない。
だが今だけは休んでも良いだろう。
それだけのことをダイヤ達は成し遂げたのだから。
そして少しの休みの後、彼らは今以上の戦いに身を投じなければならない。
普通であれば学生であり初心者であるダイヤ達一年生の出番は無い。
しかし果たして本当に世界は彼らをそっとしておいてくれるだろうか。
その答えはすぐにわかることになる。
そう、
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