147. 主人公なのに一番の足手纏いになるだなんて!しかも朋より活躍出来ないなんて悔しい!

「分けますか!?固まりますか!?」

「分けられる程人数は居ない。固まって迎撃するぞ!」


 一騎当千のメンバーばかりであればチーム分けするのも手であるが、今回は突出して強い人は狩須磨だけ。全員で固まってしまうと敵の攻撃が分散されず集中攻撃されてしまうが、それ以外に選択肢は無さそうだ。


「ウチに任せてや!」


 思考の海から一気に泳いで戻って来た俯角が守備の絶大な一手を放った。


「アースウォール!」


 分厚く巨大な土の壁がダイヤ達の背後に出現した。これで背後を取られることなく迎撃できるようになる。一方からの攻撃が遮断されるだけで、相当難易度が変わるだろう。


「ウチはこの壁の維持と、余裕があればサポートする。他は頼んだで!」


 たとえ壁を攻撃されて崩されてもすぐさま埋めてしまえば良い。サウンドケイブバットの音波攻撃を相手にやったのと同じ話だ。だがそれには俯角が常に土壁の様子を観察し続けなければならない。迎撃戦力としてあてにしない方が良いだろう。


「今回は守ってばかりじゃダメだ。攻撃力のある剣を選ばないと」


 朋は先ほどの攻撃力皆無の剣をダイヤに頼んでポーチに仕舞ってもらった。そして代わりに別の異剣を取り出して貰う。自分用の道具袋がまだ無いため、ダイヤのポーチを借りているのだった。


「よし、これだ!」

「リベンジソードか。確かに良いかも」


 刃が鋸のようにギザギザしていて、いかにも復讐リベンジで相手を苦しませようとするかのような印象をもたらす剣。だが実はこの剣も通常時は攻撃力が皆無であり、装備者が受けたダメージを魔力ビーム・・・・・で返すという妙な仕様の剣である。

 今回は多くの魔物と戦うことになり、朋はダメージを負う機会が多くなりそうなため使いどころは多そうだ。


「前衛は扇型で待機!俺は前衛全体をサポートする!」


 向かって左を朋、中央左がダイヤ、中央右にいん、向かって右に望という布陣。今回は望も狩須磨も前衛として行動する。


 後衛は壁付近で待機なのだが、俯角が自由に動けない以上、奈子の奇跡のみなので居ないようなものだと思った方が良い。


 暗黒と密は中衛として、前衛ラインを抜けて来た魔物を始末したり苦戦している前衛をフォローする役割だ。躑躅つつじは後衛のボディーガード。


 大軍と遭遇した時のフォーメーションを事前に相談し、決めてあったのだ。


「来るぞ!まずはナイトフェンサーだ!」


 騎士ナイトではなくナイト


 夜の剣士ナイトフェンサーは三日月状に大きく嗤う口が特徴的な人型魔物で、口以外の顔のパーツは存在せずタキシードを着用している。剣の達人で細みの剣を用いて素早く鋭い攻撃を仕掛けてくる。その剣の腕だけでBランク扱いになっている強者だ。


 そんなナイトフェンサーが沢山押し寄せて来た。


「今のところは敵に後衛はいない!目の前の敵に集中しろ!」


 つまりナイトフェンサーを相手にしている間に遠距離攻撃が飛んでくるということは無いと言うことだ。


 狩須磨が全体の状況を逐一確認し、作戦を伝えてくれる。ダイヤ達はその指示に従って行動する。




「剣の達人ですか。私には不利ですね」


 そう言いながらも望が一歩踏み出すと対峙する三体のナイトフェンサーは後退った。それもそのはず、何でも斬れるブレイブソードを手にしているのだ。迂闊に近づいたら、達人であろうが返り討ちになるだけだ。


 技量の差は武器やスキルが埋める。


「(ダイヤ君の隣に立つために、私は絶対に退かない!)」


 しかも望は己が傷ついてでも相手を撃破しようと思う気迫がある。多少斬られたところでカウンターで斬り飛ばせば良いと覚悟が決まっているがゆえ、ナイトフェンサーも攻めあぐねているのだろう。




「うおおお!斬られた!今斬られた!」


 一方で好き放題攻撃を受けまくっているのが朋だ。


 ナイトフェンサーの剣技を受け止める技量も、避ける技量も無く、次々と攻撃を受けまくる。


「ああもう、うざい!」

『!?』


 だがそれこそが朋にとって最大の攻撃チャンス。受けたダメージをビームに変えて反撃すると、狙われたナイトフェンサーは難なく避けるが、背後に詰めていた次の魔物達が大ダメージを受けてやられてしまう。


「ほらほら、どうした。もっとかかってこいよ!」


 スキルですらない雑な挑発に、ナイトフェンサーは反撃される前に倒してやろうと殺到する。


『??』


 しかし超高性能な全身鎧は何度斬り付けても破壊出来ない。それならばと関節部分を狙ってくるが、むしろそちらの方が手ごたえが無く、不思議そうに首をかしげている。


 それもそもはず、関節部分のアンダーの方が鎧よりも遥かに高品質であり、鎧よりも防御力が高いからだ。そこを狙わせるために、敢えて関節部分が少し露出している鎧を着ているのだ。


「何度やっても変わらないぜ!」

『!』


 だがいくら防御が完璧でも朋の攻撃が稚拙であれば折角の高威力ビームも宝の持ち腐れだ。あっさりと避けられて肝心のナイトフェンサーにはダメージが無い。


「かかったな!」


 まるで悪役のような朋の台詞の直後。


『!?!?』


 ナイトフェンサーは背後からリベンジビームを喰らい爆散した。


「異剣使いを舐めんじゃねーぞ!」


 異剣使いのスキルを持っていることにより、リベンジビームの方向を自由に調整出来るようになったのだ。一旦躱されたリベンジビームを反転させ、ナイトフェンサーの背後にぶち当てた。


 優れた装備と己の特性を上手く組み合わせ、朋はナイトフェンサーをどうにか倒し始めた。




「はああああ!」

『!!』


 まるで時代劇の殺陣かのように次々と襲い掛かるナイトフェンサーを捌くのは、愛用の槍を持ったいんだ。複数の敵が相手なので鉄球などで範囲攻撃をしたいところだが、ナイトフェンサーは高い剣技を持つ相手なのでそれは悪手効果無しだと判断した。


「(強い。でも負けない)」


 以前戦ったレッサデーモンや天使よりも格上の相手。正直なところ、今のいんでは全く歯が立たない程の実力差がある。


 だがそれでも勝負になるのが『スキル』の効果だ。


「(スキルに身を任せる。それでダメなら皆がフォローしてくれるから)」


 最もスキルレベルが高い槍を使い、スキルに体を動かして貰うことで技量の高い相手にもついていける。


 ナイトフェンサーの剣レベルはいんの槍レベルと同じく七。

 数の差があるから本来であればいんの方が分が悪いのだが、それは仲間を信じることで乗り越える。


「は!は!てい!」


 左から右からと次々と襲い来るナイトフェンサーをランスで受け止め反らし、守備を重視して立ち回る。


 するといんの背後からナイトフェンサーに向けて短剣が飛んできて、ナイトフェンサーが僅かにバランスを崩す。


「ここ!」


 その瞬間を見逃さずいんは鋭い突きを入れ、撃破したかどうかは確認せずに流れるように逆方向から襲い来るナイトフェンサーの攻撃を受け止める。


 倒せたかどうかなど、どうでも良い。

 全部生きていると想定して戦い続けるだけ


 今はただ集中してナイトフェンサーを押し留めることだけに注力する。


 そう割り切ったことが功を奏し、いんもまた格上相手に奮闘していた。




「くっ、この、あぶな!」


 前衛四人の中で最も苦戦しているのがダイヤだった。


 素早く鋭い剣技を爪や手甲でピンポイントで防ぎ反らすのは、ダイヤの技術ではまだ不可能だからだ。


 スキルを使わず経験だけで戦うダイヤにとって、圧倒的な格上との戦いではどうしても不利になってしまう。


「うわあああ、あっぶな!」


 首を狙った一閃を喰らってしまうかという瞬間、ナイトフェンサーの足元を少し盛り上げてバランスを崩させることで攻撃を解除させた。ギリギリで生き延びられているのは、不屈スキルと逆境スキルによるしぶとさと悪戯スキルの組み合わせによるものだ。


 特に悪戯スキルが無ければとっくに致命傷を受けて脱落していただろう。


「フォローする!」

「助かります!」


 見かねて狩須磨がフォローに入った。

 するとその直後、普通の片手剣を手にした狩須磨がナイトフェンサーに向かって真っ向からぶつかった。


「一、二、三!」


 一振り一殺。


 立った三振りで三匹のナイトフェンサーをあっさりと真っ二つにしたではないか。


「つよぉ!」


 器用貧乏オールマイティのせいで狩須磨のスキルレベルは三までしか上昇しない。


 つまり狩須磨はスキルに頼らない独自の剣技で、剣技が得意のBランクの魔物を圧倒したのだ。


 それこそがダイヤが目指す到達点の一つ。

 ついさっきまで命の危機でヒーヒー言っていたにも関わらず、具体的な目標を見せつけられてテンションぶち上がりだった。


「油断するな!」

「はい!」


 そんな浮ついたダイヤを狩須磨が叱責し、次々とナイトフェンサーを屠って行く。


「(僕もいつかはあんな風になる!)」


 そう胸に誓って再度集中し、目の前の敵と相対する。


 狩須磨のフォローのおかげで、致命傷を受けずに戦えている。

 攻撃を狩須磨に任せ、油断せずに受けに徹している。


 目の前の敵以外も忘れずに意識を向け、どこから攻撃が来ても大丈夫なように備えていた。


 だが。




「っ!?」




 どこからともなく飛んできた一本の弓が、ダイヤの左胸を貫いた。


「か……はっ!」


 矢の凄まじい威力によりダイヤは胸を貫かれたまま吹き飛ばされ、地面に仰向けに横たわる。


 ダイヤ、死亡。

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