146. 実は本当に全裸になりそうで少し焦った(物語の核心の話なのにこのサブタイで良いのか)

「まさかこんなにもあっさりAランク相当のボスを倒せるとは思わへんかったわ」

「え?キングメカエレファントはBランクのボスですよね?」

「それは通常のキングメカエレファントの場合や。アレはオーラで強化されてたからAランクと言われてもおかしくないで」

「そうなんですか……」


 そんな明らかに格上の相手に、いくら狩須磨や俯角達が居たとはいえ倒せたことに実感が湧かないダイヤであった。いんや朋などは信じられず口を開けて間抜け顔で茫然としてしまっているくらいだ。なお、ダイヤがこっそり写真に撮っていた。後で怒られろ。


「あんたらがおかしいんや。ほんまに新入生かいな。あの状況でレーザー全部躱して本を登って鼻をぶっちぎるとか、Cランクでも簡単には出来へんで。というか敵が居なくても失敗するで。人生三週目くらいだったりせぇへんか?」

「それを言うなら長内さんとか常闇君とかもおかしいでしょ。隠密が効くかどうかも分からない相手に接近とか出来ないよ」

「その通りや。あんたらも、常闇君らもおかしい。おかしすぎるんや!」


 そもそも目で見て躱せない銃を撃ってくる以上、Bランク以上が確定の魔物だ。しかも弱点らしい弱点も無く、今回は完封したけれど一撃必殺の突進があり、複数属性のレーザーを放った上に遠距離魔法攻撃の弱体化までしてくるとなれば、新入生が倒せるような相手では無い。


 いくら俯角や狩須磨がフォローしたとはいえ、真っ向からぶつかり普通に攻略したダイヤ達新入生組のクオリティは異常だった。


「まぁまぁ、それよりせっかく倒したことですし、早くお話を聞きましょうよ」

「……せやな」


 喉から手が出るほど欲しい情報が目の前にあるのに、それを後回しにしてでもダイヤ達の異常が気になるところ、俯角にとって新たな興味対象が見つかったのかもしれない。


『おめでとうございます』

「さぁ、これで姿を現せられるよね」

『はい』


 ごくり、と誰かが息を呑む音が聞こえた。


 ついに謎の存在との対面の時。

 同時に世界の謎が解き明かされるのかもしれないのだ。


 ある意味ではキングメカエレファントと対峙した時よりも緊張しても不思議ではない。


「っ!」


 突然、ダイヤの目の前に大量の緑の靄が出現した。

 そしてそれは徐々に人の形を取り始めた。


 柔らかそうなもち肌。

 可愛らしい小顔。

 背丈はやや小柄だけれど筋肉質。


 そしてそれは人畜無害そうな笑顔を浮かべていた。


「僕?」


 ダンジョン・ハイスクールの制服を着たダイヤと瓜二つだった。


「やっぱりダイヤ、何か秘密があるんでしょ」

「違うよいん!僕は本当に普通の人なんだよ!」


 やれやれという反応をするいんに全力で抗議するダイヤだった。


「この姿なら親しみやすいと思ったけどダメだったかな?」

「話し方まで僕と同じになってる。なんか気持ち悪い……」

「では」


 ダイヤが嫌がったからか、ソレは再び緑の靄に変化し、別の形を取った。


「こういうのでどうかしら」

いんだ!」

「私!?」


 これまた同一人物かと思えるくらいに瓜二つな姿だった。


「すっごい似てる。本当にいんみたい」

「本物は私よ!」

「それはどうかな?」

「え!?」

「本物かどうか判断するために全裸に……」

「まだ見せたことないでしょうが!」

「いだだだ!」


 少し強めに頬を抓られ涙目なダイヤであった。シリアスになるべきこの状況でもいんを弄りたくなるのは重病である。


「なによ。これでも文句なの。それなら……これは……どうかな?」

「……私!?」

「こういうことも出来るぜ!」

「お、おお、俺!?」

「ウチの姿の方がええんかいな」

「…………」


 奈子、朋、そして俯角。

 謎の存在は次々とこの場の人間へと変化する。


 何がどうなっているのかと茫然とする人が多い中、俯角は冷静に質問をした。


「あんさんの本来の姿にはなれへんの?」


 ここにいる誰かの模倣ではなく、本当の姿を見せてはくれないだろうか。

 その問いに関する答えは驚くべきものだった。


「そんなことうても、ウチは本来姿形を持たないもんやから無理や」

「姿形を持たない?」

「せやな。概念的存在みたいなもんやから実体はあらへん」


 偽俯角の言葉に半分近くの人が頭上にクエスチョンマークを浮かべている。その他の人達も真に理解は出来ておらず、なんとなくイメージ出来ているといった具合だ。


「実体の無い者が何処にどうやって存在してたんや?」


 その概念とやらが存在する目に見えない空間、例えば異世界的な物があったりするのだろうか。目の前の存在についてより深く知るために俯角が切り込んだ。


「どうやっても何も、皆毎日ウチのこと見とるで」

「え?」

「しかも名前もつけてくれとるやん」

「は?」


 皆が毎日見ていて、名前までついている概念的な存在。

 そう考えると答えは出て来ない。


「ちょい待ちーや。毎日ウチらが見ているっちゅーことは、実体があるっちゅーことやないか。概念的存在じゃなかったん?」

「ウチの本体は実体があるけど、ウチは概念なんや」

「俯角先輩、もう直接聞いちゃった方が早く無いですか?」

「…………せやな」


 相手の分かりにくい言い回しについ付き合って考えてしまうのは俯角の悪い癖だった。答えてくれそうな雰囲気なのだからストレートに聞けば良いのだ。その答えが正しいかどうかを後で問答で確認すれば良い。


「じゃあ望君の姿になってくれる?」


 俯角の姿だと引き続き回りくどい話し方をする可能性があったため、ダイヤにとって一番付き合いが長くて自然に話しやすい望の姿をとってもらうことにした。


「はい、分かりました。これでどうでしょうか?」

「うん、良い感じ。そっくりだよ」


 望としては自分と全く同じ姿の人間が目の前にいることに何かしら想うことはあるようだが、だからと言ってダイヤ達の話の流れを切るようなことはしない。ダイヤファーストであるのだから当然だ。


「じゃあ聞くけど。君の実体って何?」


 その質問に、望もどきは爽やかスマイルを浮かべてサラっと答えた。




「皆さんが『地球』と呼んでいる物です」




 瞬間、刻が止まったような錯覚をダイヤは覚えた。あらゆる可能性を検討して来た俯角さえも驚きで目を丸く見開いている。しかし流石というべきか、直ぐに正気に戻りダイヤに視線を向けた。


「すまへん。ウチこれから色々と考えるから任せてええか?」

「え?あ、ハイ」


 どうやら俯角が前に出て質問するのではなく、考えることに集中すると決めたらしい。ブツブツブツブツと何かを口にしている。


「(良いのかなぁ。ちゃんと聞いてると良いけど)」


 考えに夢中でこの先の会話の内容を聞いていないなんてことになったら悲しすぎる。だがダイヤはあることをふと思い出して問題無いかと判断した。


「(並列思考スキルを持ってるから、考えながら聞けるのかも)」


 それならばとダイヤは自分の観点で色々と質問してみることにした。


「君は地球さんなの?」

「正確には地球という存在が意思を持ったものです」

「ということは、前は意志を持ってなかったっていうことなの?」

「はい」


 地球そのものではなく地球の意思が目の前の望もどき。

 精神体のようなものであり、だから己のことを概念的存在と表現したのだろう。


「なんて言うか……信じられないや」

「事実です」


 俯角であれば証明してもらうための質問を投げかけるところだろうが、ダイヤはそういう問答が特に得意という訳ではない。ゆえに感じたことを素直に聞いてみることにした。


「どうして地球さんは意志を持ったの?」

「異世界から侵略して来た概念的存在から身を守るためです」

「え?侵略?」


 何も考えずに聞いたらいきなり不穏な話が出て来て、未だ衝撃の事実を受け入れられないメンバー朋や奈子なども話に集中し出した。


「ソレは何の前触れもなく突如出現し、私の存在を丸ごと喰らおうとしてきました。己の存在が消えて無くなるかもしれないという重大な危機に陥ったことで、私という存在が生まれました」

「そ、それでどうしたの?」

「私はソレに対処する知識を持ち合わせていなかったため、私の上で生活を営む知的生命体の文化を調査することにしました」

「(なんかめっちゃ嫌な予感がするんだけど)」


 異世界から来た正体不明の侵略者に対抗するためにどうすれば良いか。

 地球の人間の文化を調べて解決案を考える。


 それで真っ先に行き当たりそうなところと言えば。


「そして日本と呼ばれる場所で異世界との交流に関する知見が集まっていることを知りました」

「やっぱりいいいい!」

「その中で私が目をつけたのが『ダンジョン』です」


 まさか日本人の妄想を本気にして実現してしまう存在がいるなど、考えられるはずもない。もしも日本で異世界ブームが起きていなかったら何を参考にしていたのか、考えるのも面白いかもしれない。


「相手は概念的存在であり、私はソレを傷つける方法を知りません。ですがそれなら概念ではなく実体化させれば対処できるのではと考えたのです」

「そこまでのことが出来るなら概念のまま戦えた気も……」

「そうかもしれません。ですが当時の私はそのやり方を知らず、別の方法を知ってしまったのですから仕方ありません」


 最初に見つけた答えで上手く行くと確信を持ててしまったが故に、他の方法を考えられなかった。精神体として生まれたばかりであるがゆえに思考が未熟だったのだ。


「襲って来たソレが私を一飲みにしようと仕掛けて来た瞬間、私はダンジョンを生み出し、ソレを中に封じました。そして魔物という形で実体化させることで私に直接手出し出来ないようにしたのです」


 それがダンジョンという存在が生まれた理由。

 もしも地球が意思を持たず為すがままだったら、人類は気付かないうちに消滅していただろう。


「じゃあもう地球はソレに食べられることは無いんだよね」

「いいえ」

「え?」

「ソレは私が思っていたよりも強大で狡猾だったのです。そしてソレは徐々に力をつけ、ダンジョンから解き放たれようとしている」


 つまり世界はまだ消滅の危機に扮したままということだ。

 しかもダイヤ達はその兆候を知っている。


「まさかソレって赤黒いオーラのこと!?」

「赤黒い……ああ、そう定義しているのですね。その通りです。先程皆様が倒した魔物もソレの一部が実体化したものになります」

「地球さんによる封印が弱まってソレが外に出て来たってことなんだ……」


 このままではソレが完全に開放されてジ・エンドだ。


「あれ、でもおかしいな。もしソレが僕達を喰らおうとしているなら、どうして食べないで暴走させるなんてことをしてるんだろう?」

「それを説明するには、ダンジョンについてもう少し詳しく説明する必要があります」

「お願いできる?」

「そうしたいのは山々なのですが、次の刺客がやってきたようです」

「え!?」


 いつの間にかダイヤ達の背後に再度赤黒いオーラが漂っていた。

 そのオーラは今度は一つの大きな魔物の形を取るのではなく、薄く広がった。


「おいおいおいおい」

「これはしんどそうですね」


 実体化した魔物を見て狩須磨が顔を引きつらせ、本物の望が呆れたような困ったような顔になった。


 一匹の巨大な魔物が出現するのではなく、数で攻める。


 パッと見渡すだけで軽く千体はいるであろう魔物の群れが次の相手だった。

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