145. 鼻が無いと象さんには見えないねコレ……

「やるやないか」


 ダイヤ達の奮闘を離れた所で見ていた俯角は素直に感心した。

 補助はしたが、その意図を瞬時に理解して見事に使いこなした一連の流れは探索初心者とは全く思えなかったからだ。


「だがこっからだ」

「せやな」


 鼻を失ったキングメカエレファントはモードチェンジする。


「突進の発動率がえらい上昇しとるから、さっきまでのように接近戦を挑むのは危険すぎや」

「かといって距離を取りすぎたら突進してくる上に、中途半端に距離を取ろうものなら……始まったぞ」


 ダイヤ達前衛の今の立ち位置はキングメカエレファントから十メートル程離れた所。狩須磨が言う中途半端な距離だ。


 キングメカエレファントの胴体部分から数本の機械の腕が出現し、それらにセットされている銃口がダイヤ達に向けられた。


『うわわわわ!』

『無理無理無理無理!』

『お、おい、俺を盾にするな!当たっても大丈夫だって分かってても超怖いんだよ!』


 ダイヤ達は少し身体能力が高いだけの人間だ。銃で攻撃されようものなら弾丸を避けることが出来ずにハチの巣になってしまう。


 もちろんそうならないための絶妙な位置取りをしているのだが。


「流石貴石君やな。銃の範囲ギリギリを見極めとる」


 突進されて縦横無尽に動かれると厄介なため、キングメカエレファントがその場から動かず銃で攻撃してくるように、敢えて射程範囲にギリギリ掠るくらいの位置に居るのだ。

 タンクがその位置でキングメカエレファントの攻撃を受け、その間に他のメンバーが遠距離攻撃をするのがキングメカエレファントの攻略方法とされており、ダイヤはその通りに行動していた。


「じゃあウチらの出番やな」

「だな」


 ダイヤ達が攻撃を誘導している間に、後衛組が遠距離攻撃で支援する。

 ゆえに今回は狩須磨も望も後衛役になる。


 俯角、狩須磨、望。

 三人が魔力を高め、魔法を放つ準備をする。


「ほなウチからいくで! アースバレット!」

「ダイヤ君、もう少し耐えて下さい! ライトニング!」


 巨大な石の礫と電撃がキングメカエレファントを襲う。


『パオオオオン!』


 だが鼻の代わりに生えた角が光ると、魔法攻撃の威力は激減してキングメカエレファントに着弾した。


「かぁ~!あんなに弱くなるんかいな!」

「流石にほとんどダメージ無さそうですね……」


 こうなることが分かっていて、それでも魔法で押し切るのがセオリーなのだが、オーラを纏っているからか通常のキングメカエレファントよりも魔法弱体化の効果が大きく、ダメージを全然与えられない。


「そういう時はこうするんだよ!」

「凄い大きい!」

「うっそやろ。レベル三でどうしてそんな威力になるんや!」


 狩須磨が生み出した魔力による氷の弾丸フリーズバレットは、レベル三の通常のものの数倍の大きさと密度を誇る。レベル八か九くらいに相当する威力があるだろう。


「レベルが低くても上手く重ねがけすると出来るんだよ!」

「それガセじゃなかったんかいな!」

「はは、マジなのに誰も真似出来ないから嘘吐き扱いされてるが、大マジだ!フリイイイイズバレット!」


 狩須磨がスキルレベルが低くても強敵相手に戦える理由の一つが、この低レベル魔法の重ねがけ。

 通常の何十倍もの威力になるのだが、狩須磨にしか使えないテクニックだ。あまりにも誰も再現できないから『器用貧乏オールマイティ』特有の隠しスキルでは無いかと狩須磨は思い始めていた。


 超濃密な氷の魔弾は一直線にキングメカエレファントに向かい、魔法威力減少効果を受けてもなお高威力を保ったままキングメカエレファントに直撃した。


『パオオオオン!』

「よし、うちらも続けるで!攻撃タイミングをずらして減少効果が切れた瞬間を狙うんや!」

「分かりました!」


 キングメカエレファントの銃撃と後衛からの魔法攻撃。

 それらが入り乱れ、戦場に激しい爆発と煌めきが充満し始めるのであった。


『こええええ!』

『あはは、これは僕でも怖いや』

『ならなんで笑ってるのよ!』


 その中間地点にいるダイヤ達は爆心地にいるかのようで、気が休まるタイミングが全く無かった。




「『隠密』」


 一方で、中衛組の密と暗黒も自分達に出来ることは無いかと考え、行動を起こそうとしていた。


「これで私達の姿は味方からも見えない。そのことを考えて行動するのよ」

「ああ、分かってる」

「私は向かって右側、常闇君は向かって左側を担当。絶対に無茶はしないこと」

「お互いにな」

「……そうね」


 分かっていても再確認してしまうのは、お互いに無茶をする性格であると分かっているから。


 クラスメイトを守るために敵地へと単独で潜入する無茶をする暗黒。

 そして幼い頃に誓った強くなる目的を果たす時が来たのではないかと予感している密。


「(例のオーラを纏った敵と戦う機会がこんなにも早く来るだなんて。外ではこのオーラが人々を襲い出しているっていう噂も聞いた。多分、この時の為に私は鍛えて来たんだ)」


 だからここで役立たずになるなど耐えられない。

 それは自分のこれまでの努力が無意味だったことになってしまうから。


 大切なのは敵を確実に倒すこと。

 そのためなら誰の手柄だろうと本来ならば問題無いはずだ。


 だがそうだと分かっていても割り切れないのが人間だ。


 これまでの訓練の成果により貢献出来るのであれば、どんな無茶でもやろうとしてしまうかもしれない。


 まだ短い付き合いではあるが、暗黒は彼女の性質をよく理解していた。


「それじゃまた後で」

「ああ」


 二人は別れ、これでお互いに位置も分からなくなった。


 本当に自分の姿が見えなくなっているのかも分からず、不安を押し殺しながら魔物に接近するソロ活動。


「(俺はこういう役割が向いているのかもな)」


 ソロで危険に接近するというのに、不思議と恐怖感は薄い。それよりも失敗して迷惑をかけることによる不安の方が大きいくらいだ。その仲間のことを想った不安こそ、この手の単独任務に向いているのではとなんとなく思ったのだった。


「(よし、行くぞ)」


 暗黒はキングメカエレファントのサイドに立ち、そっと近づいた。


「(もしあの機械が動体センサーだけなら、隠密で姿を隠せば近づける筈。サーモセンサーや音感センサーもあればアウトだ)」


 ゆっくりと、ゆっくりと、決して焦らずにキングメカエレファントに向けて足を進める。相手がいきなり攻撃して来ても直ぐに逃亡出来るようにと細心の注意を払いながら、息を潜めて音を極力立てずに進む。


「(忍び足のスキルが欲しいな)」


 幸いにも今回は前方で激しくドンパチやっているため多少足音を立てても気付かれないかもしれないが、今後のことを考えると是非欲しいスキルだった。


「(……………………平気か?)」


 かなり近づいたけれど、キングメカエレファントは暗黒の存在に気付いた様子は無い。側面に埋め込まれている大量の銃器は大人しく仕舞われたままだ。


「(すでにこっちの攻撃可能範囲内には入っている。それでも反応が無いと言うことは……いや、まだ油断は禁物だ。気付いてないと思わせる作戦かもしれん)」


 相手を狡猾な魔物だと認識し、目の前の銃口がいつ火を噴いてもおかしくないと判断する。

 だが相手の思惑がどうであれ、そこまで近づけたことは事実だ。


 ここで一旦退くと密と約束していたため、接近を中断して向きを変えずそのまま後退した。


「(罠か!?)」


 突然目の前の機械が音を立てて動き出し、一斉に撃たれるのかと錯覚した。だがどうにかパニックには陥らず状況を冷静に見守っていたら、機械は暗黒ではなく前方のダイヤ達の方へと移動して銃口を向けていた。


「(…………ふぅ)」


 全身が冷や汗でぐっしょりだ。

 どうやらダイヤ達を中々仕留められず武器を追加したらしい。


 高鳴る心臓を必死に抑え、暗黒は安全圏までゆっくりと交代した。


「(あっちはどうだろうか)」


 スマDを操作して密にメッセージを送った。


『こっちは調査完了。問題無し』


 すると先に終わって待っていたのか、すぐに返事が来た。


『こっちも問題無し。作戦を決行するわ』

『了解』


 作戦の内容はすでに共有済だ。


『こっちの準備は整った。合図を頼む』

『分かったわ』

 

 作戦開始は密がスタートの合図をしてから。


『スタート』


 合図と共に暗黒は再度キングメカエレファントに近づいた。


 二度目なので先程よりも大胆に進みそうになるところ、必死に自制した。


 一歩、一歩、また一歩。


 落ち着いて前に進み、先ほどと同様に攻撃が届く範囲まで移動した。


『後二十秒』


 スマDを確認し、決められた時間までの残り時間を確認する。


 両手に太めの短剣を逆手で持ち、腰辺りで構える。


 そして残り時間が十を切った辺りから脳内でカウントする。


『十、九、八、七、六、五、四、三、二、一』


 それがゼロになる瞬間。

 キングメカエレファントは両側面からとてつもない威力の攻撃を受けることになる。


「月光!」

「月光!」


 全身全霊の力を込めて交差するように振り上げた短剣は、機械の肌を深く深く斬り裂いた。


 スキル共有後に密と練習し、暗黒も覚えていたのだ。


 防御力無視の効果がある『月光』なら、どれだけ硬い金属の身体を持っていようが意味が無い。


 ついでに複数の銃器が壊れ、良い感じに爆発までしてくれた。


『パオオオオン!』


 慌てて他の銃器が二人を狙おうとするが、二人はすでにその場から退避している。

 同時攻撃にしたのは、逃げる二人のどちらを狙うか少しでも迷ってくれればと思ったからである。


「あいつらやりおった!」


 作戦のことを知らされていた俯角は、何が起きたのかをすぐに理解した。


「今がチャンスやで!」


 キングメカエレファントが大ダメージを受けて苦しみ、魔法威力減少効果を上手く発揮出来ないでいる。


「アースバレット!」

「ライトニング!」

「ウィンドウカッター!」

『ギャオオオオン!』


 俯角達の魔法がキングメカエレファントに着実にダメージを与えて行く。


いん、チャンスだよ!」

「ええ!」


 ダイヤ達を狙っていた銃口が、暗黒達にターゲット変更して逸れた。

 今なら攻撃し放題だが、近づくと突進してくることに変わりはない。


 それならばやることは一つしかない。


 いんはその手に愛用のランスを構え、ダイヤは万極爪ばんごくそうをドリルに変化させる。


「レーザービーム!」

「発射!」


 中距離からの遠距離攻撃。

 相手は巨体であるため当たりやすい。


 ランスはキングメカエレファントの頬に深く突き刺さり、ドリルは顎の辺りを削り取った。


 いんはランスに紐をつけて回収可能にしているため、手元に戻せば何度でも攻撃が可能だ。


『パオオオオン!』


 ダイヤといんによる中距離物理攻撃。

 俯角と望と狩須磨による遠距離魔法攻撃。

 そして側面からは隠密組が撹乱攻撃を続けている。


 各方面からの集中攻撃を受け続けたキングメカエレファントは、やがて大きな音を立ててその場に崩れ落ち、赤黒いオーラと緑の靄に変化した。そして緑の靄はこれまでと同様に経験値やアイテムに、赤黒いオーラは苦しむかのようにその場を漂い消滅した。


「やったで!」


 強敵撃破の歓喜に湧くダイヤ達だが、尻尾を斬り落として撃破すると精霊使いでも入手できないレアアイテムを入手できると知り、後で悔しがることになるとは今の段階では思いもよらなかった。

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